みなさんにとっての「幸せ」とはなんでしょうか? 幸せに対する考え方はさまざまですから、回答も千差万別でしょう。ただ、「仕事における幸せ」と限定したなら、「成果を挙げて評価され、最終的に収入を上げること」と回答する人も多いはずです。
しかし、そのためには「『自分の幸せ』よりまず『他人の幸せ』に目を向けるべき」と語るのは、投資家の藤野英人(ふじの・ひでと)さん。その言葉の真意を聞きました。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人
「自分の幸せ」にしか関心がない人は、幸せになれない
みなさんは幸せになりたいですか? 私自身も「幸せになりたい」と思っていますし、それは間違った願望ではありません。
しかし、関心が「自分の幸せ」だけに向かっている人は、じつは幸せになることが難しいのです。たとえば結婚するにあたって、「私は幸せになりたい」とだけ思っている人が求める相手は、「私を幸せにしてくれる人」でしょう。私の感覚では、そういう人が多数派です。
すると、多くの場合は相手もまた「私を幸せにしてくれる人」を求めているということになります。互いに「私を幸せにしてくれる人」を求めているのですから、その結婚がうまくいくはずもありません。
そんななかで、「相手を幸せにしたい」「そうすることが私の幸せだ」と思っている人がいたらどうですか? 多数派が求める「私を幸せにしてくれる人」にぴたりと一致しますから、本人は相手を幸せにしつつも結果的に自分も愛されて幸せになることができます。
つまり、「私は幸せになりたい」と願いつつも、関心が「他人の幸せ」にも向かってなければならないのです。
相手の「快・不快」に着目してコミュニケーションをとる
そして、このことはビジネスにも通じるものです。みなさんにとっての仕事における幸せとはなんでしょう? 「仕事で成果を挙げて評価され、最終的に収入を上げること」と答える人も多いと思います。限られた貴重な時間の多くを仕事に割くのですから、そう願うのも自然です。
ところが、やはり関心が「自分の幸せ」だけに向かっている人は、成果を挙げることが難しくなります。というのも、ビジネスとは、そもそも「より多くの他人を幸せにすることで売上が上がる」という構造になっているものだからです。
ビジネスは、誰かの困り事を解決して対価を得ることで成り立ちます。困り事を解決してもらえた人は幸せを感じます。そういう幸せな他人をより多く生み出せる商品やサービスの売上が、上がっていくのです。ですから、自分の関心を「自分の幸せ」だけでなく「他人の幸せ」に向けることこそが、仕事を通じて幸せになるための鍵となります。
その第一歩として、「相手の『快・不快』に着目してコミュニケーションをとる」ことを意識してみてください。こう言うと難しく感じる人もいるかもしれませんが、やるのはごく当たり前にみなさんもやっていることです。会う人に、「元気にしてる?」「調子はどう?」というふうに尋ねるだけ。
でも、そんななにげないあいさつから始まるコミュニケーションも、相手の「快・不快」に着目していると、「この人は、こういうときは機嫌がいい」とか、逆に「こういうときは調子が悪そう」といったことが見えてきます。
幸せとは、簡単に言うと「快」を得ることです。他人の「快・不快」に着目してコミュニケーションを重ねると、多くの人が「快」を感じる——すなわち幸せに感じることも見えてくるでしょう。そこからたくさんの人を幸せにできるビジネスを考えつくことにもつながり、最終的には評価や収入を上げて自分の幸せを手に入れることにもなっていくのです。
自分と他人の「快」に着目する癖をつけるワーク
また、「快・不快」のうち「快」のほうに自然に着目する思考の癖を身につけておきましょう。繰り返しになりますが、幸せとは「快」を得ることだからです。
そのために私がおすすめするのは、「スリー・グッド・シングス」というもの。これは、「1日を振り返って、その日の『よかったこと』を3つ書き出す」というワークです。2021年1月より、私自身もFacebookで「#3good」とハッシュタグをつけて1日の終わりに記しています。
書き出す内容は、「たまたま入った店のごはんがすごくおいしかった」といったどんな些細なことでもかまいません。むしろ、些細なことのほうがいいとも言えるでしょう。自分のなかで、些細な「快」を見つけようとする思考が育っていくからです。
いつも不平不満ばかり口にしている人は、日常に転がっている「快」を見落とし、代わりに「不快」ばかりを探そうとしてしまっています。でも、世のなかというものは、些細であっても、けっこう楽しいことやおもしろいことに満ちあふれているものです。
そんな些細な「快」に気づけるようになれば、自分の「快」だけではなく他人の「快」を敏感に見つけようとする思考をもつことにもなるでしょう。それだけ「他人を幸せにする」ことを日常的に意識できるようになり、結果的に多くの他人を幸せにできるビジネスのアイデアが浮かぶこともあるはずです。
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【プロフィール】
藤野英人(ふじの・ひでと)
1966年8月29日生まれ、富山県出身。投資家。ひふみシリーズ最高投資責任者。レオス・キャピタルワークス株式会社代表取締役会長兼社長。早稲田大学法学部卒業。国内・外資大手投資運用会社でファンドマネージャーを歴任後、2003年にレオス・キャピタルワークスを創業。東京理科大学MOT上席特任教授、早稲田大学政治経済学部非常勤講師、叡啓大学客員教授。一般社団法人投資信託協会理事。『おいしいニッポン』(日経BP)、『14歳の自分に伝えたい「お金の話」』(マガジンハウス)、『ゲコノミクス 巨大市場を開拓せよ!』(日経BP)、『投資家みたいに生きろ』(ダイヤモンド社)、『お金を話そう。』(弘文堂)など著書多数。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。