「広げて、上がって、下がる」思考管理術。構造化思考で「視点」を整理すれば、やるべきことが見えてくる

視点を変えてみるイメージ

情報や自らの思考を整理できなければ、判断力の低下、コミュニケーション不全、行動に移せないなど、様々な問題が起こります。よって、思考の整理術はビジネスパーソンにとって必須の能力と言えます。そこで、株式会社学びデザイン代表取締役として、広く「社会人の学び」に関わる荒木博行さんにアドバイスをお願いしました。荒木さんが「思考の整理」に有効だという「構造化思考」の実践にあたり、重要なポイントについて解説してもらいます。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人

【プロフィール】
荒木博行(あらき・ひろゆき)
株式会社学びデザイン代表取締役。住友商事、グロービス(経営大学院副研究科長)を経て株式会社学びデザインを設立。株式会社フライヤーなどスタートアップのアドバイザーとして関わるほか、武蔵野大学、金沢工業大学大学院、グロービス経営大学院などで教員活動も行なう。音声メディアVoicy「荒木博行のbook cafe」、Podcast「超相対性理論」のパーソナリティーを務めるとともに、一般社団法人うらほろ樂舎のラーニング・デザイナー、株式会社COASにおけるホースコーチング・プログラムディレクターも務める。『裸眼思考』(かんき出版)、『独学の地図』(東洋経済新報社)、『自分の頭で考える読書』(日本実業出版社)、『世界「失敗」製品図鑑』(日経BP)、『藁を手に旅に出よう』(文藝春秋)、『見るだけでわかる! ビジネス書図鑑』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など著書多数。

多くの人がつまずく「視点」の設定

頭のなかがごちゃごちゃして考えがまとまらない原因の多くは、そもそも「なんのために考えるのか」といった目的や、物事をどのようにまとめるべきかといった枠組みが見えていないことにあります。逆に言えば、そういったものが見えてさえいれば思考をすっきりとまとめることができます。

そのために私が提唱しているのが、複雑なモノや情報を、目的に最適なかたちで視覚的にわかりやすくまとめる「構造化思考」です。その実践のためのフレームワークである「構造化の5P」については、以前の記事(『モヤモヤを整理して見える化する方法|「構造化思考」のフレームワーク』参照)で解説しました。

【構造化の5P】
Purpose          :目的(なんのために構造化するのか?)
Piece               :断片(具体的にはなにがあるのか?)
Perspective    :視点(目的と断片をつなぐキーワードは?)
Pillar                :支柱(どのくらいの単位でまとめるのか?)
Presentation   :表現(最適なビジュアル形式は?)

この順に沿って「目的」「断片」「視点」「支柱」「表現」を設定していくことで、構造化が可能となります。ただ、これまで構造化思考について教えてきたなかで、多くの人が「難しい」と感じるステップがあります。それが、3つめの「視点」です。そこで今回は、具体例を挙げながら視点の設定のコツをお伝えしましょう。

多くの人がつまずく「視点」の設定について語る荒木博行さん

視点設定のコツは「(1)広げてから、(2)上がって、(3)下がる」

セールスパーソンが人事部との1on1の面談を前に、「自分のスキルを構造化する」ケースで見てみます。第1ステップの「目的」は、「誰が」「いつ」「誰と」「なにを考えるために」の4つの問いに答えることで明確化しやすくなります。

スキルを構造化する「目的」を明確にする

人事部との1on1の面談で「A:順調に成長していると思ってもらうこと」「B:今後の自分の成長の方向性について議論すること」というふたつの目的を設定できました。

次に、「断片」である自分のスキルをすべてリストアップします。ここでは、以下の9つのスキルとします。

【構造化のための「断片」を洗い出す】
商品知識/顧客対応スキル/営業プロセスの理解/自己管理能力/データ分析スキル/プレゼンテーションスキル/ネットワーキングスキル/時間管理能力/営業ツールの活用力

では、いよいよ本題の「視点」の設定です。そのコツは、「(1)広げてから、(2)上がって、(3)下がる」です。

【「視点」を生み出す3ステップ】

「視点」を生み出す3ステップの図

いい視点を設定できるかは、グルーピング案の「数」にかかっている

まずは「(1)広げてから」です。具体的には、「断片のグルーピング案をたくさん挙げる」ことを意味します。思考の整理とは、「これとこれは似ている」というように、数多くの断片をいくつかのグループに分けることにほかなりません。ただ、最初からグルーピングの基準を絞ってしまうと、目的達成につながる重要な視点を見落としてしまう可能性も出てきます。そこで、目的を意識しすぎることなく、思いつくままに断片のグルーピング案をたくさん挙げていきましょう

たとえば、スキルのグルーピング案であればこんなものが考えられそうです。一度身につけたら長いあいだ使い続けられるスキルなのか、それとも、常にアップデートし続けなければならないスキルなのかといった「スキルの寿命」。自社の営業にいますぐ求められるスキルなのか、自社の営業にそれほど必要ないスキルなのかといった「スキルの需要の大きさ」。非営業スキル、非対面営業スキル、対面営業スキルといった「営業行為への直接的関係性」。あるいは、基礎レベルのスキル、応用レベルのスキルといった「現状のスキルのレベル感」などが候補になります。

次の「(2)上がって」は、「『目的』のイメージの解像度を上げる」ことを意味します。先の「(1)広げてから」とは逆に、目的を強く意識するのです。このケースの目的は、「A:順調に成長していると思ってもらうこと」「B:今後の自分の成長の方向性について議論すること」でした。

すると、「A:順調に成長していると思ってもらうこと」なら、「単にスキルを並べるだけではなく、いまの自分のスキルがどのレベル感にあるのかを示すのがよさそうだ」とか、「B:今後の自分の成長の方向性について議論すること」なら、「このまま営業を続けるのかを議論するためにも、これまでに得てきたスキルが営業に特化したものかどうかに分けられているとよさそうだ」といったことが見えてきます。

そうしたら、「(3)下がる」に進みます。これは、「『目的』を踏まえて適切なものを選ぶ」ことを意味します。そうは言っても、ここまでくれば、もう選ぶべきものははっきりと見えているはずです。

「単にスキルを並べるだけではなく、いまの自分のスキルがどのレベル感にあるのかを示すのがよさそう」で、「このまま営業を続けるのかを議論するためにも、これまでに得てきたスキルが営業に特化したものかどうかに分けられているとよさそう」なのですから、先のグルーピング案のなかからであれば、「現状のスキルのレベル感」「営業行為への直接的関係性」が視点として適しているでしょう。

続いて、どのくらいの単位でまとめるかという「支柱」を決めます。ここでは、「営業行為への直接的関係性」という視点については先述のとおり「非営業スキル/非対面営業スキル/対面営業スキル」の3つ、「現状のスキルのレベル感」という視点については「基礎レベル/応用レベル/マスターレベル」の3つを支柱とします。

最後に、最適なビジュアル形式である「表現」を決めます。視点がふたつですから、2軸で表すマトリクスが最適です。

【人事部との1on1面談のためのスキルマップ】

人事部との1on1面談のためのスキルマップ

ここまで解説してきたとおり、視点設定のコツは、「(1)広げてから、(2)上がって、(3)下がる」ですが、最も重要なものとなると、「(1)広げてから」になります。グルーピング案が少なければ目的達成にマッチングする視点を見つけられる可能性が低下するからです。裏を返せば、グルーピング案が多ければそれだけマッチングの可能性が高まるということ。いい視点を設定できるかは、グルーピング案の「数」にかかっていると考えてもらいたいと思います。

「広げて、上がって、下がる」思考管理術についてお話くださった荒木博行さん

【荒木博行さん ほかのインタビュー記事はこちら】
モヤモヤを整理して見える化する方法|「構造化思考」のフレームワーク
最優先するべきタスク、合ってますか? 最終アウトプット力を高める「構造化思考」
学びの専門家が語る「経験から最大限の学びを得られる人」になるための最重要習慣
質のいい学びが長く続く “理想の学び方”。「将来のために何を学ぶべきか?」は考えないほうがいい
仕事のパフォーマンスが上がる「効率的で実践的で即効性のある学び」を得るためのシンプルなコツ

構造化思考のレッスン

構造化思考のレッスン

  • 作者:荒木博行
  • ディスカヴァー・トゥエンティワン
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【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)

1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。

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