気の利かない同僚にイラッとしたら? 「言わなきゃわからん相手」にも感じよく伝える4つの方法

バタバタな女性締め切り前の夕方、ひとりだけ席で手一杯になっているのに、まわりは誰も声をかけてくれない。翌朝、同僚に「昨日大変だったんですね。言ってくれれば手伝ったのに」と言われて、「あれだけバタバタしていたのに、見ればわかるでしょ……」と心のなかでつぶやいてしまう。

頼んだ資料が、思い描いていたのと違う形で仕上がってきたときも同じ。「そこまで言わないとわからないの?」というもどかしさは、職場のあちこちに転がっているものです。

じつは、こうしたすれ違いには、人間の認知の仕様が関係しているのだとか。期待の置き方を少し変えるだけで、職場のすれ違いはぐっと減らせるそうです。

「察する」は美徳。でも、それだけでは伝わらない

相手の状況を読んで、言われる前にさっと動く。そんな気配りができる人は、どの職場でも頼りにされるものですよね。「察する」こと自体は、チームの仕事を円滑にするすばらしい心づかいです。

それなのに、冒頭のようなすれ違いは、気配りのできる人のまわりでも起こります。じつは、あのすれ違いには犯人がいます。ふたりのあいだに入り込む、「ある錯覚」です。

「透明性の錯覚」。自分の内面は思うほど伝わっていない

その錯覚の名前は、「透明性の錯覚」。自分の考えや感情は、言わなくても相手に伝わっていると錯覚してしまう心理傾向のことです。*1

こんな実験があります。大量の塩が入ったまずいジュースを、平気な顔で飲んでみせる「嘘発見ゲーム」。飲んだ本人は、見ている10人のうち3.6人くらいには見破られるはずだと予想しました。ところが、実際に見破れたのは2人。当てずっぽうで答えた場合と変わらない数字だったそうです。*1

ジュースを飲む人たち

まずさは顔に出ているはず、動揺は伝わっているはず。本人がそう感じていても、まわりからは案外見えていないわけです。しかもこの錯覚は、毎日顔を合わせる夫婦のような親しい間柄でも起こりうると考えられています。*2

ましてや、育ってきた環境も積んできた経験も違う職場の相手となれば、なおさら伝わりにくいものです。

相手が「いちいち言わないとわからない」のは、やる気や観察力の問題とはかぎりません。人間の認知が、もともとそういう仕様なのです。

この錯覚そのものは、心がけでは消せません。ただ、心強いことに、出やすい場面はある程度わかっています。出やすい場面さえ押さえれば、すれ違いは事前に回避できるのです。

透明性の錯覚を回避する4つのポイント

1. 頼むときは、頭のなかの完成イメージまで言葉にする

錯覚がいちばん出やすいのは、仕事を頼む場面です。完成イメージや期限は、自分の頭のなかでははっきり見えているぶん、「言わなくても伝わっている気」がしてしまいます。

回避のコツは、「例の資料」「いい感じに」で済ませず、用途・形式・期限まで口に出すこと。少しくどいかなと感じるくらいで、ちょうど相手に届きます。

錯覚

言い換え例 仕事を頼むとき

伝えたつもり

「例の資料、いい感じにまとめておいて」

▼

頭のなかまで言葉に

「来週の定例用に、前回と同じ形式で、進捗をタスクごとに1枚にまとめてもらえますか? 期限は木曜中でお願いします」

2. 手伝ってほしいときは、忙しさより先に依頼を口に出す

次に出やすいのは、手が回らなくなってきた場面です。自分の忙しさは自分にははっきり見えているので、「まわりも気づいているはず」と感じてしまいます。でも、相手の席から見えているのは、いつもどおりパソコンに向かう背中だけかもしれません。

ここでの回避策は、察してもらえるのを待たず、具体的な依頼に変えて口に出すこと。過去を責める言い方より、未来の予定として頼むのがコツです。

言い換え例 手伝ってほしいとき

伝わらない出し方

大きくため息をついて、忙しそうにしてみせる

▼

未来の予定として頼む

「水曜は提案書で手一杯になりそうなので、問い合わせ対応をお願いできますか?」

3. イラッとしたときは、「伝えたっけ?」と自分に確認する

「普通、気づくでしょ」とイラッとした瞬間も、じつは錯覚の出番です。その「普通」は、こちらの頭のなかにしかない基準かもしれません。

不満を口に出す前に、ひとことだけ自分に確認してみてください。

合言葉 「それ、伝えたっけ?」

振り返ってみると、一度も言葉にしていなかった、ということは珍しくありません。相手は断ったわけでも無視したわけでもなく、そもそも知らなかっただけ。そう気づけると、イライラはそのまま依頼に変えられます。

すれ違う人たち

4. 察してもらえたときは、感謝をその場で言葉にする

見落としがちなのは、察してもらえた場面です。「ありがたいと思っているのは、伝わっているはず」。じつはこれも、同じ錯覚です。感謝も、言葉にしなければ相手には届いていません。

気づいてもらえたら、当たり前と思わずにその場で言葉にして返す。感謝された行動は繰り返されやすいもの。続けるうちに、言わなくても動いてくれる場面がむしろ増えていくと考えられます。

言葉にして返す例

「先に共有しておいてくれて助かりました」

「気づいてくれてありがとう。おかげで間に合った」

***

察し合える関係は、たしかに心地いいもの。その関係も、はじまりは小さな言葉の交換だったはずです。言葉にした数だけ、言葉のいらない関係が築かれていくのです。まずはひとつ、明日の職場で期待を言葉にしてみませんか。

よくある質問(FAQ)

Q. いちいち言葉にするのは、冷たい関係になりませんか?

A. そんなことはありません。言葉にして伝えるのは、むしろ誤解を防ぐための心づかいです。小さなずれを早めに解消できるぶん、関係は安定しやすくなります。

Q. 言葉にしても動いてくれない相手には、どうすればいいですか?

A. まずは「伝わっていない」のか、「伝わっているけれど動く気がない」のかを切り分けてみてください。前者なら伝え方を工夫する余地がありますが、後者の場合は別の対応が必要になります。

Q. 家庭やプライベートの関係でも同じ方法でいいですか?

A. はい、有効です。透明性の錯覚は、夫婦や家族のような親しい間柄でも起こると考えられています。「言わなくてもわかるはず」という思い込みが強くなりやすいぶん、意識して言葉にする価値があります。

Q. 自分ばかり言語化する側で、不公平に感じます。

A. 先に言語化する側のほうが、関係の主導権を握れるとも考えられます。相手任せにするより、自分の望む形で関係を動かしやすくなります。

Q. 察してくれない人には、何か性格的な特徴があるのでしょうか?

A. 性格や察する力の問題というより、人はそれぞれ違う知識の枠組み(スキーマ)で物事を捉えているために起こる、と認知科学では考えられています。*3

相手の性格に原因を求めるより、期待の伝え方を工夫するほうが、うまくいきやすいはずです。

Q. 部下やチームメンバーが察してくれないときは、どうすればいいですか?

A. 個人間の頼みごとと同じで、期待を先に言葉にしておくことが有効です。「言わなくても気づいてほしい」を評価基準にせず、依頼や期待値を明文化しておけば、伝達の行き違いによるすれ違いを防げます。

(参考)

*1: 十文字学園女子大学 錯思コレクション100|透明性の錯覚
*2: 東京未来大学 Future|円満な夫婦の「はず」?
*3: 日経BOOKプラス|「このくらいわかってよ」「察しろ」は無理ゲー 今すぐ封印を

【ライタープロフィール】
澤田みのり

大学では数学を専攻。卒業後はSEとしてIT企業に勤務した。仕事のパフォーマンスアップに不可欠な身体の整え方に関心が高く、働きながらピラティスの国際資格と国際中医師の資格を取得。日々勉強を継続しており、勉強効率を上げるため、脳科学や記憶術についても積極的に学習中。