「絶対ムリ」は成功体験の不足だった。自己効力感に注目した『8分割ノート術』をやってみた

諦めている女性

「いまさら資格の勉強を始めても、どうせ続かない」

「あの分野は自分には難しすぎる。絶対にムリ」

そんなふうに、挑戦する前から答えを出してしまっていませんか? 30代、40代と経験を重ねるほど、私たちは「自分にできること」と「できないこと」の線引きに自信をもつようになります。

でもじつは、「絶対ムリ」という判断の多くは、能力そのものではなく、過去の経験や取り組み方のクセから生まれています。だとすれば、その線引きは一度疑ってみる価値がありそうです。

この記事では、挑戦へのハードルが高く感じられる仕組みを探りながら、「ムリ」を「できるかも」に変える実践法をご説明します。難しい勉強を簡単に始める『8分割ノート術』も、筆者の実践を交えてご紹介します。ぜひご一読ください。

「絶対ムリ」は過去の経験がつくる思い込み?

心理学者のアルバート・バンデューラ氏は、「自分はこの課題を遂行できる」という感覚を「自己効力感(self-efficacy)」と名づけました。*1

この感覚は、人がそもそも行動を起こすかどうか、どれだけ努力を注ぐか、そして困難に直面したときにどこまで粘れるかを左右するといいます。*1

ここで重要なのは、自己効力感が実際の能力とイコールではないという点です。

バンデューラ氏によれば、自己効力感をもっとも強く形づくるのは「過去の達成経験」。成功はこの感覚を押し上げ、失敗は引き下げます。*1

しかも同氏は、失敗が早い段階で起きたときほど、自己効力感は大きく損なわれやすいとも述べています。*1

つまり、以前うまくいかなかった経験があると、いまの能力とは無関係に「今回もムリだろう」という予測が立ち上がりやすくなるのです。

たとえば、以前Aという資格の取得で挫折した人は、「自分はA分野に向いていない」という結論を保存したまま10年以上を過ごしているかもしれません。

しかし当時の失敗は、能力不足ではなく、多忙な時期に高すぎる目標を掲げたことが原因だった。そんな可能性は十分にあります。

「ムリだと感じるのは、脳が過去のデータから予測を出しているだけ」

「絶対ムリ」の正体は、能力の不足ではなく、成功体験の不足かもしれない。この仕組みを知るだけでも、その判断を一度疑ってみる余地が生まれます。

📘 もっと読みたい 心理学者アルバート・バンデューラの「自己効力感」とは?

成功する人は「自分」ではなく「条件」を変える

とはいえ、「思い込みを捨てて頑張ろう」と意気込むだけでは、また同じ壁にぶつかってしまいます。ここで発想を変えてみましょう。

見直すべきは「自分」ではなく「条件」です。

self-efficacy

スタンフォード大学の行動科学者BJ・フォッグ氏は、人の行動は「モチベーション」「能力(=その行動のしやすさ)」「きっかけ」の3つが同時にそろったときに起こると説明しています。*2

そして同氏が繰り返し指摘するのが、やる気や意志の力は性質上うつろいやすく、当てにならないということ。*2

だからこそフォッグ氏は、残る2つ、つまり行動を徹底的に小さく簡単にすることと、確実に発動するきっかけを用意することで設計するよう勧めています。*2

この視点に立つと、過去の挫折の見え方が変わります。

「毎朝5時に起きて2時間勉強する」という計画が続かなかったのは、意志が弱いからではありません。負荷の設定が高すぎたうえに、行動を起動させるきっかけがなかったからです。

夜型の生活リズム、繁忙期のスケジュール、静かに集中できる場所がなかった環境。続かなかった原因を「条件」の側に見つけられれば、打ち手はいくらでもあります。

時間帯を変える。1回あたりの量を減らす。取り組む場所を決める。そして「帰宅して手を洗ったら机に向かう」のように、すでにある習慣の直後にくっつけてきっかけをつくる。

同じ人でも、条件を調整すれば結果は変わりやすいのです。

📘 もっと読みたい やる気なんて関係ない。結果を出す人が密かに続けている「仕組みづくり」の正体

成功体験の「コレクション化」で「できるかも」を蓄積する

条件を整えたら、次は始め方です。ここでひとつ、注意すべきことがあります。

「小さく始める」はよく聞くアドバイスですが、バンデューラ氏は「簡単すぎる課題の達成は、自己効力感を変える新しい情報をもたらさない」とも述べているのです。*1

手応えのある課題を乗り越えてこそ、「自分の力が伸びた」という確かな証拠になる、というわけですね。

つまり必要なのは、「小さく始めること」と「少しずつ手応えを上げていくこと」の両立。この2つを同時に満たす方法を、ひとつご紹介します。

ノートを8分割し、まずは1マスだけ埋める

筆者が実践しているのは、成功体験をより明瞭に、でも簡単にして、なおかつコレクション化してしまう『8分割ノート術』です。

やり方はシンプル。ノートの片ページを4分割、見開きで8分割にして、自分にとっては難しいと思っていた資格の勉強を始めます。

片ページを4分割し、見開きで8マスになるように区切った勉強用ノート

まずは1日、その8分の1を埋めれば「良し」としてしまうのです。

(以下は「中小企業診断士」の勉強を想定した例です)

8分割したノートの1マス目に、中小企業診断士の学習内容を書き込んだ状態

たったこれだけ。

マスが増えるほど、難度も自然に上がっていく

その8分の1が埋まると、コレクションを充実させたくなってくる。少なくとも筆者はそうでした。

「絶対ムリ」だと思い込んでいたものほど、埋まったマスが貴重に見えてくるのかもしれません。

そうなれば、8分の1では足りなくなります。今日は2マス。明日は3マス。

8分割したノートのうち3マスが学習内容で埋まった状態

明後日は半ページ、翌週には見開きになるかもしれません。

8分割したノートが見開き全体まで学習内容で埋まった状態

この設計が優れているのは、入口が「1マス」と極端に低いのに、進むにつれて課題の難度が勝手に上がっていく点です。

1マスならフォッグ氏の言う「小さく始める」条件を満たし、3マス・半ページ・見開きと増えていけば、バンデューラ氏の言う「手応えのある課題」に変わっていきます。

しかも、埋まったマスは目に見える記録として残ります。自分が着実に前進していることを確認しながら進められるわけです。

そうするうちに、「絶対ムリ」だという気持ちが薄れていく可能性も十分にあるでしょう。

見開き全体が学習内容で埋まった8分割ノートを、斜め上から見たところ

それどころか、「絶対ムリ」が「絶対最終ゴールに到達したい」に変わっていくことさえ、期待できるかもしれません。

「下手が却って上手」。慎重さは、じつは武器になる

もうひとつ、心強い言葉を紹介させてください。

「下手が却って上手」。下手な人は念入りに仕事をするため、上手な人よりも却ってよい仕事をする、という意味のことわざです。*3

自分が「できないこと」だと考えるゾーンに足を踏み入れたときこそ、私たちはより慎重に、より注意深く学びます。その結果、予想外に素晴らしい結果を出すことがある。

つまり「絶対ムリ」への挑戦は、二重の意味で理にかなっているのです。

ひとつは、入口を1マスまで下げることで挫折しにくいから。もうひとつは、不慣れな領域だからこそ丁寧に取り組めるから。

「絶対ムリ」だと思っていたことへの挑戦が、じつは「いちばん安全な選択」だった、というロジックです。

📘 もっと読みたい 「1分だけ」から始めると、なぜか続く。三日坊主を卒業する小さな習慣の科学

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ぜひみなさんも、「それ、絶対ムリ」で立ち止まらずに、まずは入り口を整え(条件を整え)、少しずつ進んでみて(小さな成功体験を積み重ねてみて)ください。

そのときのあなたは、とても安全で挫折しにくい状況を、自らつくり出しているはずです。

よくある質問(FAQ)

Q. 「絶対ムリ」という感覚は、本当にただの思い込みなのですか?

思い込みだけとは限りませんが、能力そのものより「過去の達成経験」に左右されている部分が大きいと考えられます。心理学者のバンデューラ氏は、自己効力感(自分ならできるという感覚)が実際の能力とイコールではなく、成功体験によって高まり、失敗体験によって下がると指摘しています。とくに早い段階での失敗は影響が大きいとされます。過去の挫折が、いまの能力とは無関係に「今回もムリだろう」という予測をつくっている可能性を、まず疑ってみてください。

Q. 意志が弱くて何も続きません。どこから変えればいいですか?

意志ではなく「条件」から変えてみてください。行動科学者のBJ・フォッグ氏は、行動が起こるにはモチベーション・行動のしやすさ・きっかけの3つが同時にそろう必要があり、なかでもモチベーションはうつろいやすく当てにならないと述べています。そこで、1回あたりの量を減らす、取り組む時間帯や場所を決める、すでにある習慣の直後にくっつけてきっかけをつくる、といった調整が有効です。

Q. 目標は「簡単すぎるほど小さく」してよいのでしょうか?

始めるときは小さくてかまいませんが、そのままでは不十分です。バンデューラ氏は「簡単すぎる課題の達成は、自己効力感を変える新しい情報をもたらさない」と述べており、手応えのある課題を乗り越えてこそ能力が伸びた証拠になるとしています。つまり、入口は極端に低くしつつ、進むにつれて少しずつ負荷が上がっていく設計にすることが大切です。

Q. 『8分割ノート術』の具体的なやり方を教えてください。

ノートの片ページを4分割し、見開きで8マスになるように線を引きます。初日は、そのうち1マスを埋めれば達成とします。慣れてきたら1日2マス、3マス、半ページ、見開き全体へと増やしていきます。埋まったマスがそのまま学習記録として残るため、自分の前進を目で確認しながら進められるのが利点です。

Q. 「下手が却って上手」とは、どういう意味のことわざですか?

下手な人は念入りに仕事をするため、上手な人よりも却ってよい仕事をする、という意味の言葉です。「下手の横好き」の対義語のひとつとして挙げられます。不慣れな領域に踏み込んだときほど慎重に、注意深く取り組むことになるため、結果的に高い成果につながる場合があります。挑戦をためらっている人にとっては心強い考え方です。

(参考)

*1: APA PsycNet|Bandura, A. (1977). Self-efficacy: Toward a unifying theory of behavioral change. Psychological Review, 84(2), 191–215.
*2: BJ・フォッグ著, 須川綾子訳 (2021), 『習慣超大全――スタンフォード行動デザイン研究所の自分を変える方法』, ダイヤモンド社.
*3: マイナビニュース|「下手の横好き」の意味とは? 読み方や使い方・例文、類語・対義語も紹介(「下手が却って上手」の項)

【ライタープロフィール】
STUDY HACKER 編集部

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