天才たちの"究極の思考法"が明らかに——ジョブズ、ゲイツ、ベゾスに共通する意外な習慣

黄色の背景に、電球のイラスト

「考えても考えても答えが出ない」
「来週までに企画案を出さないといけないのに、まったく進まない……」

そんなとき、あなたはどうしていますか?
さらに机に向かい、必死に考え続けますか?
それとも、諦めてしまいそうになりますか?

実は、世界的な経営者たちは、こんなときにある共通の戦略を取っています。
それは「意図的に問題から離れる」という意外な選択です。

今回は、ビジネスの最前線で活躍する経営者たちが実践している"戦略的な離脱"の方法をお伝えします。

インキュベーションとは?

incubation
「孵化」「温める」という意味

問題が解決しないとき、そこからあえて一時的に離れることを、心理学用語で「インキュベーション」といいます。インキュベーション(incubation)は「孵化」や「温める」という意味。無意識下でアイデアが育つという心理学的な効果があり *1、解決の糸口や新たなアイデアをひらめきやすくする方法です。

組織心理学者のデイビッド・バーカス氏によれば、インキュベーションとは「目の前の問題への取り組みをいったん中断・放置している状態」のことです。バーカス氏は、ひらめきは課題に意識を集中させていない時に訪れやすく、意図的な中断や小休止によって、無意識下でアイデアが次第にまとまってくると指摘しています。 *1より筆者がまとめた

通勤途中やお風呂に入っているときなど、仕事から離れているときにアイデアが浮かんできた経験はありませんか? このとき、あなたの脳は「バックグラウンド処理」を行なっているのです。デスクで必死に考え続けるよりも、一度問題から離れたほうが早く解決する理由がここにあります。

バーカス氏はさらに興味深い指摘をしています。インキュベーションによって「1つのアイデアに縛られている状態をリセットでき」るというのです。*1 たしかに、行き詰まったときの思考は、同じところをグルグルと回り続けがち。そんなとき、意図的に離れることで、脳は新しい視点を見つけ始めます。

つまり、インキュベーションの本質は、あえて問題から戦略的に離れること。そうすることで、凝り固まった思考がリセットされ、新しいひらめきが生まれやすくなるのです。
では、ビジネスの最前線で活躍する経営者たちは、この「戦略的な離脱」をどのように実践しているのでしょうか?

ノートパソコンを操作しながらノートに書き込む人の手元

1. スティーブ・ジョブズの散歩

インキュベーションは、実際にビジネスの最前線で実践されています。その代表例が、Appleの共同創業者スティーブ・ジョブズ氏の手法です。

ジョブズ氏は、難しい問題に直面したときや真剣な話し合いをするために散歩をしていました。これは、本人の全面協力のもとでジョブズ氏の伝記を書いたウォルター・アイザックソン氏が明らかにしています。

特に注目すべきは、ジョブズ氏が設けていた「10分ルール」です。「困難な問題に10分間取り組んで解決できない場合、立ち上がって散歩に出かける」というシンプルなルール。 *2から筆者が訳してまとめた

つまり、早い段階であえて問題から離れる判断をしているのです。

この10分ルールの効果について、神経科学者のミトゥー・ストロニ氏は興味深い見解を示しています。「創造的なアイデアや問題解決には、より柔軟で開かれた精神状態が必要で、長時間苦しむことで解決策が生まれるわけではありません」 *2から筆者が訳してまとめた

さらにストロニ氏は、散歩という行為自体の効果も指摘します。「歩くことで注意が分散され、考えが自由に流れるため、新しい解決策や視点が生まれやすく」なるというのです。*2から筆者が訳してまとめた

つまり散歩は、インキュベーションを促す最適な行動と言えます。

「考えても考えてもいいアイデアが浮かばない」「気づけば数十分も同じ問題に悩んでいる」—そんなとき、ジョブズ流の戦略的な離脱を試してみませんか? 外への散歩が難しければ、社内を軽く歩くだけでも、新しい視点が生まれるきっかけになるはずです。

オフィス街を歩く人の足元

2. ビル・ゲイツの皿洗い

スティーブ・ジョブズが散歩で実践した戦略的な離脱。これに対し、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏は、異なる形でインキュベーションを実践しています。ゲイツ氏は「Reddit」で興味深い習慣を明かしています。「ほぼ毎晩家族の汚れた皿やコップを洗う時間を作っている」というのです。*3

一見、単純な家事に見えるこの行為にも、実は深い意味があります。脳科学者の加藤俊徳氏によれば、家事を無心で行なうことは、効果的なインキュベーションの手段のひとつなのです。

加藤氏は、仕事と皿洗いでは脳の使い方が異なることに注目します。仕事での「人との会話」は「聴覚系や伝達系の脳番地」を使うのに対し、皿洗いは「手と目を使って洗い方を工夫するので、運動系と視覚系、あるいは理解系」を使う—この切り替えが、重要な効果をもたらします。

加藤氏は、その効果をこう説明します。*4
「日常とは違う脳の使い方をすることで、さっきまで使っていた脳は頭の中で静まり返っています。(中略)この状態は無の境地に近いわけで、当然、脳全体にとってもバランスがよくなります。」

つまり、皿洗いをすることで、仕事で酷使していた脳が完全に休まり、頭の中に静けさが訪れるのです。家に帰ってからも仕事のことが頭から離れない人にとって、皿洗いや料理、掃除といった家事は、脳を自然な形で休ませ、新しいアイデアを育むための貴重な機会となるかもしれません。

皿洗いの様子

3. ジェフ・ベゾスの朝活

ジョブズの散歩、ゲイツの皿洗いに続いて、さらに興味深いインキュベーションの実践例があります。アマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏は、思考や決定の質を高めるために、より体系的なアプローチを取っているのです。

ベゾス氏は、毎日「一切仕事をしない時間」を意図的に設けています。その様子を、自身の著書『Invent & Wander』でこう語っています。*5

「新聞を読むのも好きだし、コーヒーも好きだ。子どもたちが登校する前に一緒に朝ご飯を食べる。そうやってのんびり過ごす時間が私にとってはとても大切だ。
だから一日の最初の会議は10時からと決めている。」

起床から午前10時まで—この時間帯を、ベゾス氏は完全に仕事から解放しています。なぜでしょうか? それは「(経営層として)数少ない、優れた判断をする」ため。「一日に3つでも良質な決定ができたらそれで十分だし、その3つの判断の質を最高に上げなければならない」と、ベゾス氏は説明します。*5

つまり、朝の時間をインキュベーションにあてることで、その後の重要な意思決定の質を高める—これが、ベゾス氏の戦略なのです。

さらに興味深いのは、夕方の対応です。ベゾス氏は「午後の5時になると、もうヘトヘトで、これ以上考えられない感じになる」と率直に語り、そんなときは「明日の朝一に持ち越し」にすると言います。*5 疲れた頭で無理に判断を下そうとはせず、インキュベーションを経た翌朝の清明な頭で決断を下すのです。

このベゾス氏の実践から、私たちも重要な示唆を得ることができます。朝のスケジュールは慌ただしくなりがちですが、可能な限り余裕を持って始める。仕事のことは一切考えず、新聞を読んだり、家族と過ごしたり—。そうして迎える一日の始まりは、より質の高い思考と判断を可能にしてくれるはずです。

海辺での新聞とコーヒーのある時間

***
ビジネスの第一線で活躍する経営者たちが実践する「戦略的な離脱」。
単なる休憩や気分転換ではなく、より良いアイデアや判断を生み出すための積極的な思考法です。
あなたも、行き詰まったときは意図的な離脱を試してみてはいかがでしょうか。

※引用部分の太字は筆者が施した

【ライタープロフィール】
藤真唯

大学では日本古典文学を専攻。現在も古典文学や近代文学を読み勉強中。効率のよい学び方にも関心が高く、日々情報収集に努めている。ライターとしては、仕事術・コミュニケーション術に関する執筆経験が豊富。丁寧なリサーチに基づいて分かりやすく伝えることを得意とする。

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