“ただの作業” は仕事にあらず。仕事が遅い人はそもそも「仕分け」ができていない。

インターネットが浸透し、パソコンやスマホ、タブレットなどの端末が飛躍的に進化したことで、ひとりのビジネスマンがこなすべき仕事量はかつてないほどに増加しています。そのため、仕事の効率化を図ることはあらゆるビジネスマンにとっての最重要課題といっていいでしょう

かつて、ボストン・コンサルティング・グループの日本代表を務めた早稲田大学ビジネススクール教授の内田和成(うちだ・かずなり)先生が、仕事の無駄を省くための秘策を教えてくれました。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人

「仕分け」が効率化のはじめの一歩

仕事の効率化を考える前に、まず「仕事をどういうものだととらえているか」、それが重要です。わたしは、仕事とは「なんらかの目的を達成すること」だと考えています

プロのスポーツ選手なら、本番で結果を出すことが目的となります。たとえ人の何倍も練習をしたところで、結果につながらなければ評価されない。厳しいいい方になりますが、スポーツ選手としては、それでは仕事をしたことになりません。

ビジネスパーソンであっても同じことです。自分の仕事が果たして目的を達成するためのものになっているか、そこをまず問い直してみましょう。そして、仕事だと思ってやっていることが「ただの作業」であれば問題です

作業とは、会議に出るとか、電話で話す、メールのやり取りをするといったことでしょう。「それだって立派な仕事じゃないか」と思う人も多いかもしれません。でも、わたしからいわせると、これらは必ずしも仕事とは限りません。

でも、多くの人は仕事だと思い込んでいます。だから、効率的な会議のやり方やメールの処理法を考えようと躍起になる。そうではなくて、そもそもそれらの作業が必要なのかを考えることからはじめないといけませんさまざまな作業を、目的達成のために「必要な作業」と「不要なただの作業」に「仕分ける」のです

たとえ話をしましょう。仕事の効率化のために無駄なコミュニケーションを省くという考え方もありますよね。社内メールは簡略化する、会議では重要なポイントだけを話すといった社内ルールをつくることです。でも、それをカウンセラーにあてはめるとどうなるでしょうか?

カウンセラーの仕事であり目的は、相談者とのコミュニケーションから問題点を見つけ出し、その問題を解決することです。そのためには、他人にとっては無駄に見える、どうということのない会話も重要で不可欠の作業となるわけです。ポイントだけの会話では、カウンセラーは仕事になりません。

繰り返しになりますが、まずは自分自身の仕事に関連するあらゆる作業を必要な作業と不要な作業に仕分ける。そして、その次のステージでようやく必要な作業の効率化を図るべきなのです。

「勘」で動くことも効率化には重要

また、仕事の効率化を阻むものとして、多くの人がもともと持っている癖のようなものもあります。完璧主義者に目立ちますが、「すべてを網羅的にやりたい」という考えです。

100社の潜在顧客のなかから3社の新規顧客開拓をまかされた営業マンがいるとしましょう。100社すべてのあらゆるデータを調べ上げ、さまざまな基準によって1番から100番までの優先順位をつけた。完璧主義を自覚している人ならよくわかると思いますが、安心できますよね(笑)。

だけど、必要な新規顧客が3社であるなら、4番から100番までの優先順位をつける作業はまったく無駄ということになります。もちろん、確実に新規顧客を開拓するためには必要な作業だという考え方もあるでしょう。

でも、それにかける労力や時間と結果を照らし合わせた場合、はたしてそうだといえるでしょうか? 仮にざっとあたりをつけた3社が見事に顧客になってくれたとしたら? 使った労力も時間も100分の3。それこそ、超効率的ではないですか

もちろん、あたりをつけるのは簡単ではありません。経験によって磨かれる勘やひらめきのようなものが必要になりますインタビュー第1回参照)。経験の浅い人間が「えいや!」とやってみても、3社すべてがはずれということが大半でしょう。

でも、それでいいのです。何度も何度もはずれを引くうち、そのうち1社が新規顧客になってくれた。そうすると、「そうか、こうすればいいのか」「こういうところに着目すればいいのか」と要領がわかってくる。あたりをつける能力が高まるのです。しかも、3社の新規顧客を獲得するまでに、3社にあたりをつける作業を10回繰り返したとしても、分析したのはたかが30社。100社すべてを調べ上げることと比較すればはるかに効率的です。

一方、毎回すべてを調べ上げるようなやり方を続けていたら、あたりをつける能力はいつまでたっても身につきませんよね。永遠に非効率的な仕事のやり方を続けなければならないのです。

シミュレーションが今後のキャリアを変える

とはいえ、企業という組織に属しているなら、どうしても上層部の意向に従わないといけないこともあるでしょう。先の例なら、「ちゃんと100社を調べてから候補を挙げろ」と上司に命令されるというようなことです。それでも、効率化の力を伸ばすということだけでなく、のちの自身のキャリアのためにやれることがあります。

それはなにか? シミュレーションです。自分の意志と異なる上司の命令に従わないといけないのなら、自分の案もきちんとシミュレーションして検証をするのです。その結果、自分の案が正しかったのなら、きちんと仕事の力が身についているということになるでしょう

もちろん、逆のケースもあるはずです。上司が正しかったのなら、「上司はそこまでわかってこういっていたのか」「自分にはまったく思い至らなかった。気をつけよう」と謙虚に受け止める。そうして力を磨いていけばいいのです。

上司の命令だからと、不満を抱えながらただ従うのか、あるいは先の人生を見越してシミュレーションを重ねるのか。長いキャリアを考えれば、両者には大きな差がつくはずです。

【内田和成さん ほかのインタビュー記事はこちら】 “ロジック頼り” では感動は生まれない。一流が「勘」と「ひらめき」をとても大切にする理由。 一流シェフが “道端の雑草” をみて新メニューを思いつくカラクリ。「発想のスパーク」はどうすれば生まれるのか?

『右脳思考』

内田和成 著

東洋経済新報社(2018)

【プロフィール】 内田和成(うちだ・かずなり) 東京都出身。早稲田大学ビジネススクール教授。東京大学工学部電子工学科を卒業後、1984年に慶應義塾大学大学院経営管理研究科(KBS)を修了し、MBAを取得。日本航空を経て、ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)に入社。2000年6月から2004年12月までBCG日本代表を務める。ハイテク、情報通信サービス、自動車業界を中心にマーケティング戦略、新規事業戦略、グローバル戦略の策定、実行支援を数多く経験。2006年には米国『Consulting Magazine』誌により「世界の有力コンサルタント25人」に選出。同年より現職となる。『ゲーム・チェンジャーの競争戦略 ルール、相手、土俵を変える』(日本経済新聞出版社)、『BCG経営コンセプト 市場創造論』(東洋経済新報社)、『スパークする思考 右脳発想の独創力』(KADOKAWA/角川書店)など著書多数。

【ライタープロフィール】 清家茂樹(せいけ・しげき) 1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。

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