仕事で大きな成果を導く「俯瞰力」——東大首席卒・NY州弁護士 山口真由さんインタビュー【第3回】

「正しい勉強法を確立すれば、仕事で結果を出すためにも役に立つ」と、数々の難関試験に合格してきた山口真由さんは言います。自分に合った勉強法は、自ずと自分に合った正しい努力の方法や方向も示してくれるもの。

今回は、実際に山口さんが仕事での失敗や挫折を経て身につけてきた、まわりを把握し、先を見るための「俯瞰力について紹介します。

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構成/岩川悟 取材・文/辻本圭介 写真/玉井美世子

「努力の方法」を確立すれば、どんなハードルも乗り越えられる

「勉強ができる人が、仕事もできる人とは限らない」。これが、わたしが社会人になって思い知ったことでした。わたしはこれまで仕事でたくさんの失敗や挫折をしてきましたが、そんな経験をするたびに、「ならどうすればいいか?」と考えて、自分を前に進める原動力に変えてきました。

では、どのようにして失敗をポジティブな力に変えていったのか? これには、自分なりの「努力の方法」を確立していたことが役に立ちました。なぜなら、自分の必勝パターンがあれば、どんなハードルにぶつかっても得意なフィールドに持ち込んで対処できるからです。

たとえば、わたしが得意なのは読むこと。そこで、失敗したときは「そうか、読む量が足りなかったんだ」「もっとリサーチ量を増やそう」と考えるように意識したのです。苦手なことを克服しようとするのではなく、「これだけは誰にも負けない」と信じられる自分の得意分野に持ち込んで勝負することで、仕事でも成長することができたのでした。

また、結果の出し方でもうひとつ重要なポイントがあります。それは、仕事は結果がすべてと言われますが、わたしの経験上、人はむしろ過程を見ているということです。たとえば同じミスでも、遅くまで働いている部下がするのと、定時に帰る部下がするのとでは、上司の印象はガラリと変わります。いまの働き方改革の流れに逆らうようですが、キャリアの浅いうちはある程度努力の過程をアピールすることも必要ではないでしょうか。

上司は大きく「省力派」と「情熱派」のふたつのタイプにわかれます。要は、効率的に仕事を進めたいタイプと、やる気にこだわるタイプということですね。そして後者の場合、最初の努力アピールがうまくいけば、その後もかわいがられてうまく伸びていけることが日本ではとても多いのです。

なぜこんなことを言うのかというと、いったん「この子はダメだな」と思われると、なかなか盛り返せず貴重な成長の機会を失ってしまうから。それはとてももったいないことです。そこで、細かい例を挙げるなら、若いうちは上司にメールを送る時間さえも気にしたほうがいいでしょう。要は、省力派の上司には素早く返信し、情熱派の上司には残業して帰る直前の時間に送る(笑)。なんだか小手先のような話ですが、上司は部下のメールを送る時間まで見ています。そして恐ろしいことに、それがあなたの評価を左右しているかもしれないのです。

まわりを把握し、先を見るための「俯瞰力」を磨こう

こうしたことを、わたしは一つひとつ失敗しながら学び、いまではまとめて「俯瞰力」と呼んでいます。俯瞰力とは、まわりを把握し先を見る力のこと。仕事ではつい自分のパートだけに集中しがちですが、会社や部局が全体としてなにをしているか、上司はいまどんな仕事を持っているかなどを感じ取っておくことが大切なのです。

具体的には、わたしは俯瞰力を鍛えるために「自分のバイアスを認識すること」と「他者の立場からどう見えているかを想像すること」を心がけています。

●みんな賛成しているけれど、これはほんとうに正しいのだろうか? ●自分の立場と異なる意見や情報は他にないだろうか? ●自分の考え方はほんとうに正しいのだろうか? ●相手にはこの状況がどう見えているのだろうか? ●相手の意見には、どのような背景や立場があるのだろうか?

つまり、自分やまわりの状況を客観視するということですね。仕事の多くはコミュニケーションで占められていることを思えば、思い込みを排して新しい視点を得ることは大きなアドバンテージになることでしょう。そして、この力こそが「自分の頭で考える」という本質的な力だと考えています。

俯瞰力があれば、より高次元の解決策が見つかる

俯瞰力を身につけると、仕事で問題や争いが生まれたときに、自分の意見を通したり相手の意見に屈したりする以外の「第三の道」が見えてきます。

●お互いの意見の良い点を生かせないだろうか? ●仲裁してくれる立場の人間はいないだろうか? ●より次元の高い解決策はないだろうか? ●全体がより良くなる方法はないだろうか?

このように自分の頭で考えることで、全体の構造を見渡したうえで取るべき最良の選択肢を見つけることができるのです。

特に日本では、仕事がプレイヤーの優秀さに支えられている面が多く、マネジメント能力に欠けた上司が多いとも言われます。みなさんのまわりにも、「わたしならもっと速くできたのに」「むかしはこうだったんだ」と、自分のバイアスだけでものごとを判断するような上司はいませんか? こうした状態に陥らないためには、まだ若いプレイヤーのときから「どんな背景や価値観でこの人は行動しているのだろう?」と、上司の行動を冷静に観察できる俯瞰力を磨いておくことが必要です。

バイアスにとらわれない人がまわりの信頼を集めていく

仕事の全体像をつかみ、自分のバイアスにとらわれず、いまできる最良の行動を積み重ねていくこと。お気づきかもしれませんが、じつはこれは「7回読み」勉強法(第1回『最速で確実に結果がついてくる「7回読み」勉強法』を参照)とまったく同じ考え方です。まず、全体像をつかむことを目指して1冊を読み流すのと同じように、自分がいま全体のなかでどこにいるのかを理解することは、仕事においても大切な視点を与えてくれます。

俯瞰力が磨かれると、たとえ他人に理不尽な振る舞いをされたとしても、それに対する耐性が高まります。いまは会社が社員を支えてくれる時代ではなくなりつつあり、「この人についていけば……」という考え方も通用しなくなりました。だからこそ、「この上司はどんな働き方を好み、背景にはどんな仕事の考え方があるのだろう?」「自分はどの程度合わせるべきだろうか?」などと客観的に考えられることで、バランスのとれたポジションをとることができます。そして、そんな人にこそまわりの信頼は集まっていくのです。

ただしひとつだけ注意したいのは、どんな人からも良いところは学べるということ。特に女性のなかには、「あの人は生理的に無理!」と心を閉ざす人もいますが、そんな態度では自分の世界をどんどん狭めていくことになりかねません。ましてや、セクハラやパワハラの懸念から、今後は男性の上司に声をかけられたり注意されたりする機会が減っていく可能性もあり、自分から扉を閉ざしていては損をするだけです。

その意味でも、できるだけバイアスをなくして全体を俯瞰して判断できる力は、これからの時代を生きる社会人にとって欠かすことのできない力になると見ています。

■第1回『最速で確実に結果がついてくる「7回読み」勉強法』はこちら ■第2回『学力向上は生活習慣の確立と時間の使い方で勝負が決まる』はこちら

東大首席・ハーバード卒NY州弁護士と母が教える合格習慣55

山口真由

学研プラス (2018)

【プロフィール】 山口真由(やまぐち・まゆ) 1983年生まれ、札幌市出身。東京大学法学部を首席で卒業。大学3年次に司法試験、翌年には国家公務員Ⅰ種に合格。学業成績は在学中4年間を通じて「オール優」で4年次には総長賞も受ける。2006年4月に財務省に入省し、主税局に配属。2008年に退職し、2009年から2015年まで大手法律事務所に勤務し企業法務に従事。2015年から1年間ハーバード・ロースクールへの留学、修了し、ニューヨーク州弁護士資格も取得。現在は、テレビのコメンテーターや執筆でも活躍している。著書に『東大首席が教える超速「7回読み」勉強法』、『東大首席が教える「間違えない」思考法』(以上PHP研究所)、『リベラルという病』(新潮社)など多数。

【ライタープロフィール】 辻本圭介(つじもと・けいすけ) 1975年生まれ、京都市出身。大学卒業後、主に文学をテーマにライター活動を開始。2003年に編集者に転じ、芸能・カルチャーを中心とした雜誌の編集に携わる。2009年以後、上場企業の広報・IR媒体の企画・専門編集に携わりながら、月刊『iPhone Magazine』編集長を経験するなど幅広く活動。現在は、ブックライターとしてもヒット作を手がけている。

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