多くの人間が働く企業では、周囲と協調してスムーズに仕事を進められる常識人こそ求められそうなものです。ところが、日本たばこ産業(JT)の元執行役員で、長く採用に関わってきた米田靖之さんは「これからの時代に活躍するのは『変な人』だ」と断言します。その理由、そして「変な人」とはどういう人なのか? 米田さんが大きく変えたJTの人材採用方法にまつわるエピソードを交えながら語っていただきました。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹(ESS)

異種格闘技戦のような時代に答えを見つけられる「変な人」

これまでの日本の企業、特に大企業は、いわゆる「まともな人」を戦力として求めていました。しかし、これからの時代に活躍できるのは、その対局にある「変な人」だとわたしは考えています。

その理由は、ビジネスの変化です。ビジネスというのはなにかといえば、極論すれば世の中の幸せを追求することなのだと思います。どんなビジネスでも、人々の幸せにつながっています。逆にそうでなければ利益を生むことができず、ビジネスとしては成立しません。これまでの時代は、ビジネスのターゲットを簡単に見つけることができました。というのも、「不便なこと」がたくさんあったからです。その不便を解消すれば、誰かが幸せになる。つまり、ビジネスになります。

「もっと大きなテレビがあればいいな」「腕時計で電話ができたらいいな」「もっと早く東京から大阪まで行けたらいいな」。そういう明確な目標がいくつもあったので、あとはそれを実現する方法を考えればよかった。ゴールがわかっていることをいかに効率良くやるかというプロセスには、まともな人こそ必要とされ、変な人はかえって邪魔になってしまうのです。

では、いまはどうでしょうか? 科学や技術の進化により、不便なことはどんどんなくなってきた。いままでのビジネスモデルが急に使えなくなってしまい、課題を探すところからはじめなければならなくなったのです。それは、まともな人にはじつはなかなか難しいこと。まともな人は、ルールが決まったなかでうまくこなすということは得意ですが、新たなルールをつくるようなことは苦手なのです。

いまの時代をスポーツにたとえれば、ルールがまったく決まっていない異種格闘技戦のようなものではないでしょうか? となると、従来の発想は通用しません。もちろん異種格闘技戦でも多少のルールは必要かもしれませんが、がんじがらめにされたルールのなかではこれからの時代に響く課題は見つからない。そういう時代に課題を見つけられるのが、変な人なのです。

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周囲の評価を気にせず、自分がいいと思ったことを進める推進力

とはいえ、わたし自身もJTに入社するまではごくまともな普通の学生でした。でも、入社6年目には明らかに変になっていましたね……(笑)。経験上、5年くらいで多くの人が会社の色に染まるものだと感じています。わたしをJTの色に染めたのは、やっぱり変な先輩たちです。

わたしが思う「変な人」とは、根が素直で無邪気な人。そして、好奇心旺盛な人ですね。普通は社会人になると、素直さや無邪気さ、好奇心は徐々に薄れ、周囲に気を使って頭でいろいろと考えるようになるものです。若いときには変だった人も、年齢を重ねて役職が上がるにつれてまともになっていきますよね。ところが、なかにはいつまでたっても目がキラキラした子どもみたいな人もいます。まわりの評価なんて気にすることなく、自分がいいと思ったことをどんどん進める。つまり、ルールにしばられない独自の推進力があるのだと思います。

ニューヨークに転勤していた時代の事務所の上司がまさにそういう人でした。発想の塊のような人で、すぐになにかをやるんですよ(苦笑)。時々「大ホームラン」を打つんですが、時代の先取りをし過ぎちゃうようなところがあって、当たりは少なくてだいたいは失敗に終わる。それでも本人はまったく気にしない。でも、大トラブルを招いて処分されることはあっても、クビにはならない。当時のわたしなんて彼の10分の1も無茶ができない人間だと思ったので、「あの上司が大丈夫なら、わたしがやりたい放題やってもクビになることはないな」と確信したわけです。

その後、人事課に異動したことも、わたしが変になった大きな要因です。JTには、理系と文系それぞれに人事異動を担当する管理職がひとりずついました。その管理職の人が、とにかく社員のことをよく見てよく知っているんですよ。いろいろな情報網を駆使して、頭には社員2000人くらいの情報が入っているんじゃないかと思うくらいでした。そんな人たちの動きを見ていると気づくことがある。たとえ社員が上司とけんかしたって、最後は人事が見てくれているんですね。そんなことを何度も見ていて、安心して無茶ができると思ったのです。

「常識と逆」の発想で人材採用方法を一変

こうして、すっかり変な人になったわたしが採用担当になったことで、JTの新入社員の採用方法は大きく変わりました。時代は30年前。相次いで民営化したNTT、JR、JTの人気にはくっきり差がつきました。NTT、JRは就活市場で大人気なのに、JTの人気は下がる一方……。そんな状況でまともに新卒採用をやったらいい人材が採れるわけがありません。

そのときひらめいたのが、「常識の逆をやればいいんじゃないか?」ということでした。当時もいまも、企業は、1000人より2000人という具合に、よりたくさんの学生と会ったほうがいい人材を採れると考えている。それが採用の常識です。ところがわたしは、ただ1000人に会うより、じっくり100人に会ってその人間性をしっかり見るほうがいい人材を採れると考えた。ただの苦し紛れだったのでしょうし、なぜそれがいいと思ったのかははっきりわかりませんが、やっぱり当時のわたしがすでにまともじゃなくなっていたんでしょうね(笑)。

そして、学生たちには自分で会いに行きました。見るポイントは「10年後に活躍できそうかどうか」というところ。でも、当時の社内には10年後の「絵」はなにもなかった。これ幸いと、「10年後はこういう事業をするためにこういう人材が必要だ」とわたしが勝手に決めました。もう、やりたい放題です(笑)。ただ、「10年後」という数字には明確な根拠がありました。新入社員で採用するのは即戦力ではありません。ビジネスパーソンが本当の意味で活躍しはじめるのは30代半ばころからが大半です。であれば、そういうポテンシャルを持った人間が企業には必要なのです。

とはいえ、「10年後に活躍できそうな人間」も、言葉にすると「とにかく面白い、変なやつ」というくらいでしかありません。そういう人間は本当にひと握りしかいないんですよ。そんな学生を見つけると、わたしの次にいつも決まった3人の社員が順に会って口説く。その3人は、わたしが意図的に選んだ「変な人」です。わたしを含めて全員30歳前後でした。 変な学生を採用しようとしているのですから、学生には「この会社とは相性が良さそうだ」と思ってもらわなければなりませんからね。

そして、自分で言うのはおこがましいですが、当時、学生に会っていたわたしと3人の変な社員はそれぞれ出世しました。わたしは執行役員、ふたりは副社長、残りのひとりは子会社の執行役員になり、結果的に全員が会社の中枢に入りました。

ということは、先に「これからの時代には変な人が必要とされる」と述べましたが、「これからの時代にはこれまで以上に変な人が必要とされる」というのが正しいのでしょう。ただ、変な人を探すのは砂漠のなかで砂金を探すようなものでもある。これから就職する学生、転職を考えているビジネスパーソンには、ぜひ、常識にとらわれない感覚を持ち続ける「変な人」になってほしいですね。

■第2回『幸せなビジネスパーソンになるために必要なこと』はこちら
■第3回『これからの時代に求められる「変な人」は「感動する心」を忘れない』はこちら

JTの変人採用 「成長を続ける人」の共通点はどこにあるのか

米田靖之

KADOKAWA(2018)

【プロフィール】
米田靖之(よねだ・やすゆき)
1958年生まれ。1982年、東京大学工学部を卒業し日本専売公社(現JT)に入社。ニューヨーク事務所、人事課採用担当、人事部採用チームリーダー、人事部長、製品開発部長、たばこ中央研究所長などを経て、執行役員R&D責任者となる。2015年末に退任し、2018年1月に「LIFE STAGE LAB」を設立。現在は企業の人材採用アドバイザーを務める。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。