上司の指示が、朝と夕方で変わる。顧客の都合で、組み上げた段取りが白紙になる。
こうした場面に出くわしたとき、あなたは「理不尽だ、許せない」と憤るタイプでしょうか? それとも「しかたない」と飲み込むタイプでしょうか?
仕事をしていれば、この種の「自分ではどうにもできないこと」「負担に感じること」が起こるのは日常です。標準仕様と言ってもいいくらいです。
そして実は、冒頭の2つのタイプはどちらも消耗します。憤るタイプは変えられないものと戦って疲れ、飲み込むタイプは我慢を抱え込んで疲れる。必要なのはどちらでもない、「どこまで関わるか」を線引きする視点です。
本記事では、思いどおりにならない出来事に振り回されず、円滑に成果をあげていくための、切り分け方と対処法をご紹介します。
1.【前提】仕事は「思いどおりにいかない」のが標準である
なぜ、仕事は思いどおりにいかないのが標準なのでしょうか。答えはシンプルで、仕事はひとりでは完結しないからです。
成果は、上司の判断、顧客の事情、他部署の都合といった、他者の意思決定の連なりのうえに成り立っています。そして、あなたに能力の限界があるように、上司にも経営者にも限界はあり、誰もが自分に見えている範囲でそのつど判断しています。朝の指示が夕方に変わるのも、機嫌で判断が揺れることさえ、その現れです。
つまり、予定が崩れるのは、誰かの悪意でも自分の不運でもなく、限られた情報と能力のなかで判断する人間どうしが関わり合って働くことの、構造上の必然です。
それでも原因を探したくなるのが人間です。ただ、原因が分かっても自力ではどうにもならないものは多く、答えの出ない問いを抱え続けても、すり減っていくだけです。

だからこそ、大切なのは次の視点をもつことです。「考えれば解決する問題」と「考えても自分では解決できない問題」は別物なのです。
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2.【仕分け】「効く領域」と「効かない領域」を分ける
変えられないものまで変えようとすると、人は消耗してしまいます。相手の性格や組織の事情など、自分の意思では動かせないことが多いためです。
だからこそ重要なのは、「なにが自分にコントロールできて、なにができないのか」を切り分けることです。
『7つの習慣』の著者スティーブン・R.コヴィー氏は、自分が関心をもつ事柄の全体を「関心の輪」、そのなかでも自分がコントロールしたり影響を与えたりできる事柄を「影響の輪」と呼んでいます。*1
私たちのエネルギーが漏れていくのは、主に「影響の輪」の外にある事柄、つまり自分では変えられないものに意識が向いているときです。*2
「どうすれば相手は変わってくれるのだろう」という問いは、その典型です。考える先が他人の内面にある限り、答えは出ません。

一方で、「影響の輪」のなかにいれば具体的な行動につなげられ、前進できます。
出来事そのものには影響できなくても、自分の思考や受け取り方には働きかけられます。自分が影響できる領域を見極め、そこにエネルギーを集中させるのが、消耗せずに前進するための第一歩となるのです。
コーピングの観点から考える
こうした切り分けは、心理学で言う「コーピング(ストレス対処)」の考え方にも通じます。
問題そのものに働きかける「問題焦点型コーピング」は、自分が影響できる領域で有効です。一方、自分では変えられない問題に対しては、感情を整える「情動焦点型コーピング」が役立つ場合もあります。*3
重要なのは、すべてを同じ方法で解決しようとしないこと。状況に応じて対処法を切り替えることで、不要な消耗を減らしやすくなります。
3.【心得】「撤退ライン」をあらかじめ決めて、判断を保留する
状況が思うように動かないと、原因を突き止めてすぐに対策したくなるかもしれません。
「自分が悪いのか」「辞めるべきなのか」「戦うべきなのか」
しかし、強いストレス状態では視野が狭くなり、極端な判断をしやすくなるリスクがあります。
そこで有効なのが、「撤退ライン」を先に決めておくことです。たとえば、以下のように自分なりの線引きをあらかじめ明確にしておくのです。
撤退ラインの例
あらかじめ自分で決めておく、切り替えの基準
こうした場面で必要なのは、無理に戦うことではなく、自分を消耗させすぎないことなのです。
撤退ラインを決めておくことで、「いまはこの状況を受け入れ、エネルギーを温存する時期」という判断が立てやすくなります。
ここでは、先述の「問題焦点型コーピング」と「情動焦点型コーピング」の具体例をいくつかご紹介します。
どちらのコーピングをしても状況に変化がない場合、もしくは余計にストレスが増幅してしまう場合は、そこがあなたの「撤退ライン」かもしれません。
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どんなに対策を講じても、思いどおりにならない出来事は急に降りかかってくるものです。それが仕事の標準仕様である以上、なくすことはできません。
そこで思い出したいのが、冒頭の2つのタイプです。憤って変えられないものと戦うのも、我慢を抱え込むのも、どちらも消耗する道です。大切なのは、「自分が影響できる範囲」を見極め、その範囲のなかで動くこと。

自分が影響できる部分には働きかけ、影響できない部分は省エネモードに切り替える。この切り分けが、憤るのでも飲み込むのでもない、第3の選択肢です。
振り回されない人とは、なにも感じなくなった人ではありません。限界まで耐える前に、自分のエネルギーの使いどころを選べる人なのです。
よくある質問(FAQ)
Q. 変えられないことを「割り切る」のは、問題から目を背けることになりませんか?
Q. 問題焦点型コーピングと情動焦点型コーピングは、どちらかを選ぶべきですか?
Q. 「撤退ライン」を決めることは、諦めることですか?
Q. 状況がどうしても改善しないとき、転職も視野に入れるべきですか?
Q. 「影響の輪」を広げるにはどうすればよいですか?
*1: スティーブン・R.コヴィー『完訳 7つの習慣 人格主義の回復』キングベアー出版
*2: HRドクター|『7つの習慣』影響の輪と関心の輪とは?影響の輪の広げ方も解説
*3: コグラボ|問題焦点型コーピングとは?具体例やストレスの仕組み、情動焦点型との違いも解説
澤田みのり
大学では数学を専攻。卒業後はSEとしてIT企業に勤務した。仕事のパフォーマンスアップに不可欠な身体の整え方に関心が高く、働きながらピラティスの国際資格と国際中医師の資格を取得。日々勉強を継続しており、勉強効率を上げるため、脳科学や記憶術についても積極的に学習中。