甲子園、部員の8割はスタンドにいる。腐る人と、成長を続ける人の決定的な違い

野球少年

夏の甲子園中継で、ふと目に入る光景があります。アルプススタンドで声を枯らす、ユニフォーム姿の部員たちです。強豪校では部員が100人を超えることも珍しくありません。しかし、ベンチ入りできるのは20人だけ。多くの部員は試合に出ることなく、スタンドから仲間を見守っています。

この構図は、高校野球だけの話ではありません。会社でも、多くの人は「選ばれる側」より「支える側」に立つ時間のほうが長いでしょう。では、選ばれなかった人は、意欲を失ってしまうのでしょうか。

じつは、その分かれ目は、能力だけで決まるものではないようです。今回は、スタンドの部員たちから「選ばれなかったあとも前を向き続ける人」の共通点を考えます。

「腐る」のは弱いからではない。まず知っておきたい前提

高校野球では、「控えでも腐らず頑張った」という美談がよく語られます。

一方で、現実には途中で辞める部員もいます。大量の補欠を生む構造を「美談ではない」と批判する論考も、メディアや当事者の手記でたびたび取り上げられています。*1

選ばれない状況で意欲が下がること自体は、特別なことではありません

心理学でも、結果を自分でコントロールできない状況が続くと、人は努力する意味を見失いやすくなると考えられています。*2

だから、本当に考えたい問いは「なぜ腐らないのか」ではなく、「同じ状況なのに、何が分かれ目になるのか」です。

その違いは才能よりも、自分の状況をどう捉え直したかにあるのかもしれません。

「与えられた役割」を「自分の役割」に変えた人は強い

ヒントになるのが、ジョブ・クラフティング(Job Crafting)という考え方です。

米国の組織心理学者レズネスキー氏らは、仕事への意味づけや関わり方を自分なりに工夫することで、意欲や満足感が変わる可能性があると提唱しました。*3

要するに、「役割は、自分でも作り替えられる」という考え方です。

今大会の仙台育英高校では、学生コーチ兼マネジャーを務める3年生の部員が、チームへの貢献を認められ「記録員」としてベンチ入りしました。*4

フェンス前で語らう野球選手たち

記録員は試合に出ませんが、記録やデータの整理を通じてベンチの采配を支えます。選手としてプレーする道だけが貢献ではなく、「勝利を支える専門職」という役割の作り方があることを示す事例です。

仕事でも、会議の議事録を「押し付けられた単なる作業」と考えるか、「チームの認識をそろえる情報のハブ」と捉えるかで、同じ仕事の意味は変わります。

役割は待つものではなく、自分でも少しずつ作り替えられるものなのです。

「選ばれること」だけを目標にすると、人は折れやすい

もうひとつの分かれ目は、目標をどこに置くかです。

教育心理学の「達成目標理論」では、「他人より良い評価を得たい」という目標と「昨日の自分より成長したい」という目標では、困難に直面したときの行動が変わりやすいことが知られています。*5

「ベンチ入り」だけが目標だと、そこから外れた瞬間に努力する理由まで失ってしまいます。一方、「送球をもっと正確にする」といった成長目標も持つ人は、選抜結果にかかわらず努力を続けやすくなります。

職場なら、「今年こそ昇進する」だけでなく、「伝わる資料を作れるようになる」という熟達目標も並行して持つイメージです。

わかりやすい説明資料

他人が決めるゴールだけでなく、自分で積み重ねられるゴールも持つこと。それが、選ばれなかった日にも歩みを止めない人の特徴なのかもしれません。

「ここにいる意味」を、自分の言葉で語れる人は折れにくい

それでも「自分は何のためにここにいるのだろう」と迷う日はあるでしょう。ヒントになるのが、心理学の自己決定理論(Self-Determination Theory)です。

この理論では、人が自発的に行動し続けるには「自律性」「有能感」「関係性」の3つの欲求が満たされることが大切だと考えられています。*6

なかでも印象的なのが「自律性」、つまり「自分で選んでいる」という感覚です。

実際、強豪校でベンチ入りできないまま3年間を終えた元高校球児は、公開した手記のなかで、ベンチ外の部員たちはおおよそ覚悟の上でその環境に身を置いていたと振り返っています。*7

そこにあったのは「腐らなかった」という美しい結果ではなく、その場所に残ることを自分で選び直したという事実です。

自分で行った選び直し

希望通りの配属でないときも、「ここから何を持ち帰れるだろう」と問い直してみる。その小さな選び直しが、「やらされている仕事」を「自分で選んだ時間」へと変えていくのかもしれません。

今日からできる。「スタンドの時間」を書き換える3つの質問

おすすめは、3分でできる小さな振り返りです。

1いま、自分に与えられている役割を一文で書く

「会議の議事録を作る」「新人教育を担当する」など、具体的に書きます。

2その役割は、誰の何に役立っているかを書き足す

議事録なら「参加できなかった人が状況を把握できる」。役割の先にいる人を思い浮かべると、意味が見えやすくなります。

3選抜と関係なく伸ばせる熟達目標を1つ決める

「説明を1分短くまとめる」など、自分でコントロールできる目標を選びましょう。

どれも大きな挑戦ではありませんが、「役割」「意味」「成長」を自分の手に取り戻すきっかけになります。

スタンドにいる人たちを、少し違う目で見てみる

今年の夏も、甲子園のアルプススタンドから大きな声援が響くでしょう。

本当に目を向けたいのは、選ばれなかった翌朝も、もう一度グラウンドに立ったという事実です。

「選ばれること」は自分だけでは決められません。しかし、役割の意味づけと、何を伸ばすかは、自分で選び直すことができます

もし今、自分が「スタンドにいる」と感じるなら、今日変えられるのは立ち位置ではなく、その時間の使い方なのかもしれません。

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選ばれない状況で意欲が下がるのは、決して弱さではありません。大切なのは、役割を自分で意味づけ、他人の評価だけでなく自分の成長にも目標を置き、「ここにいる意味」を自分の言葉で持つことです。その小さな選び直しが、次の一歩につながります。

よくある質問(FAQ)

選ばれなかった状況でモチベーションを保つには、何から始めればいいですか?
まず、意欲が下がること自体は自然な反応だと受け止めることが出発点です。そのうえで、「自分の役割を一文で書き出す」「その役割が誰の役に立っているかを書き足す」「選抜と関係なく伸ばせる熟達目標を1つ決める」という3分の振り返りから始めるのがおすすめです。
ジョブ・クラフティングとは何ですか?
与えられた仕事の意味づけや関わり方を自分なりに工夫することで、仕事への意欲や満足感を高めていく考え方です。米国の組織心理学者レズネスキー氏らが提唱しました。たとえば議事録係を「チームの認識をそろえる情報のハブ」と捉え直すことも、その一例です。
熟達目標とパフォーマンス目標の違いは何ですか?
パフォーマンス目標は「他人より良い評価を得る」「選ばれる」など、他者との比較や他者の判断に依存する目標です。一方、熟達目標は「昨日の自分より成長する」など、自分でコントロールできる目標を指します。熟達目標も併せ持つ人のほうが、困難に直面しても努力を続けやすいことが達成目標理論の研究で示されています。

【ライタープロフィール】
橋本麻理香

大学では経営学を専攻。13年間の演劇経験から非言語コミュニケーションの知見があり、仕事での信頼関係の構築に役立てている。思考法や勉強法への関心が高く、最近はシステム思考を取り入れ、多角的な視点で仕事や勉強における課題を根本から解決している。