「社会人にとって読書は重要だ」と頻繁に言われますが、その重要性はどこにあるのでしょうか。『頭がいい人の読書術』(すばる舎)などの著書で知られるコラムニストの尾藤克之(びとう・かつゆき)さんは、その重要性は「情報感度を高めることにある」と語ります。そして、その重要な情報感度を高めるための読書術を教えてくれました。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人
情報化社会で生きるために必須なのは高い情報感度
読書術に関する本を出版しながらも、個人的には「本なんて好きに読めばいい」と私は思っています。私の場合、本を読んだあとに書評記事を書くという仕事がありますから、じっくり時間をかけて読むような余裕はありません。1冊あたりだいたい10分くらいで読んで30〜40分で記事を執筆し、10分で投稿などの作業をしています。
ただ、それは必要に迫られてのこと。じっくり本を読みたいという人なら、自分が読みたいペースでじっくり読めばいいでしょう。ただ、世の中全体の風潮として、いまは「速く読む」ことが求められているのかもしれません。速読術がはやっているのも、速く読むことの重要性を感じている人が増えているからですよね。
その背景にあるのは、現在の情報化社会です。誰もがスマホを手にしているいま、私たちが触れる情報量はかつての比ではありません。でも、それらの膨大な情報のなかには、正しいものもあればそうではないものもある。そして残念ながら、フェイクの情報に踊らされてしまう人がいるのも事実です。
新型コロナウイルスの感染が急激に拡大し始めた頃、「新型コロナウイルスは26度以上の温度で死滅する」だとか「納豆が新型コロナウイルスの症状悪化に効果的」といったデマがSNSなどで広まったことを覚えていませんか? そういった情報がフェイクであることは、見る人が見ればすぐにわかるもの。でも、そうではない人も多いのです。
その違いはどこにあるのでしょうか? 私は、「情報感度」にあるのだと思います。ある情報に触れたとき、「これは真実だ、これはフェイクだ」「これは私にとって必要だ、これは不要だ」というふうに正しく判断する力です。そういった高い情報感度は、情報化社会に生きる現在のビジネスパーソンにとって必須のスキルであるはずです。
情報感度を高めるために必要なのは、数多くの「読む」経験
では、どうすればその重要な情報感度を高められるのでしょう。残念ながら、これに関しては結局のところ「読む」しかありません。なぜなら、情報感度はさまざまな「読む」経験を数多く積み重ねるなかでしか磨かれないからです。
そして、できれば活字の本を多く読むことをおすすめします。というのも、1冊の本を読み通すこともできないほど集中力が不足している人の場合、やはり多くの「読む」経験を積み重ねることが難しいからです。
また、「読む」ことで情報感度を高めるためには、読んだ内容や感想をまとめるなどして、読書で得られた情報をしっかりと自分の血肉にすることが大切です。せっかく本を読んでも、それらをきれいさっぱり忘れてしまっては、読書をした意味はまったくなくなってしまいます。
そうならないため、みなさんの読書を身になる読書にするための方法を紹介しましょう。ただ、先にも述べたように、私は基本的に「本なんて好きに読めばいい」と思っていますから、これもあくまで参考にしてほしいというだけのこと。それをふまえて、自分なりの読書法を確立してください。
本を丁寧に扱いすぎない読書が身になる読書になる
私が本を読むときに行なっているのは、定番ですが「メモ」です。とにかく思いついたことを本にどんどん書き込んでいきます。
本というものを大切に扱うべきものだと思っている人もいるようですが、そういう人も仕事で使う資料などにはいろいろとメモをしますよね? それは、忘れてはならないことや今後の仕事のヒントになりそうなキーワード、ふと頭に湧いたアイデアなどでしょう。つまり、資料から得られた重要な情報です。
資料にはそれらを書き込むのに、なぜ本にはそうしない人が多いのでしょうね。高値で取引されるような貴重な古書ならともかく、私たちが一般的に手にする本など、汚れてボロボロになったところで必要ならまた書い直せばいいだけの話ではありませんか。
では、どんなことを書き込むのか? これも人それぞれと言っていいでしょう。私とみなさんそれぞれで、同じ本を読んでも思いつくことがまったく同じというわけがありません。私の場合、本の読み手であると同時に書き手であり作り手ですので、両者の立場からのメモになります。
重要だと思ったキーワードに○をつけるようなこともあれば、「この見出しがいい」「余白の使い方がうまい」「余韻がある書き方!」などとまさに本の書き手や作り手の立場からメモをすることもあるという具合です。
また、重要だと感じたページに付箋を貼る人も多いようですが、これもやはり本をきれいに扱いたいからなのでしょう。ですが、私はおすすめしません。付箋がとれてしまうと、どこを重要だと感じたのかがわからなくなるからです。私の場合、ページの角を折る、いわゆるドッグイヤーをつくることにしています。繰り返しますが、本がボロボロになれば買い直せばいのですからね。
いずれにせよ、「よし、いまから読書をするんだ!」というふうに、妙にかしこまらない姿勢が大切ではないでしょうか。結局のところ、自分なりに楽しめる読書法を見つけられた人が、どんどん本を読むことができ、結果的に情報感度を高められるのだと思います。
【尾藤克之さん ほかのインタビュー記事はこちら】
「本が苦手」な人が「読書好き」に変わる方法。あなたはまだ○○に出会えていないだけ
“10分で1冊” 読める「3分の1リーディング」の極意。本は全部読まなくていいんです
【プロフィール】
尾藤克之(びとう・かつゆき)
コラムニスト、著述家、明治大学客員研究員 / 議員秘書、コンサル、IT系上場企業などの役員を経て現職。現在は障害者支援団体のアスカ王国を運営。「JBpress」「オトナンサー」「アゴラ」「朝日新聞telling,」「J-CAST会社ウォッチ」など数多くのメディアに寄稿している。著書16作品。近著は「頭がいい人の読書術」(すばる舎)。詳細なプロフィールはWikipediaをご確認ください。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。