
「うちは商品写真がないから、Instagramは難しい」
コンサルティング、人材紹介、SaaS、士業、金融、スクール運営——いわゆる「無形商材」を扱う企業のSNS担当者から、こうした声をよく聞きます。
そして彼らがたどり着く「解決策」は、たいてい同じです。フリー素材の握手している写真。パソコンを打つ手元。青空に浮かぶ雲。光る地球儀——。
断言します。それは解決策ではありません。むしろ、あなたのアカウントを「存在しないも同然」にしている原因です。
私は株式会社スタディーハッカーの代表として、英語コーチングサービス「ENGLISH COMPANY」「STRAIL」という典型的な無形商材を扱いながら、Instagramで27万人のフォロワーを獲得し、月間700万人にリーチする運用を行ってきました。Webセミナーには最大1,000人の参加者を集めています。
形のない商品だからこそ、Instagramは強力な武器になる。今回は、無形商材が陥りがちな「イメージ写真の罠」と、それを抜け出すための具体的な方法をお伝えします。
無形商材のInstagram運用がうまくいかない最大の理由は、写真では価値が伝わらない商品なのに、イメージ写真中心の投稿になってしまうことです。本記事では、コンサル・人材紹介・SaaS・スクールなどの企業が、図解や教育コンテンツを使ってInstagramで成果を出すための具体的な方法を解説します。
- なぜ「イメージ写真」は機能しないのか
- Instagramは「カタログ」ではなく「ミニセミナー会場」
- ブラックボックスを「因数分解」して見せる
- センスはいらない、「資料作成力」があれば勝てる
- 「見せる」のではなく「説明する」
なぜ「イメージ写真」は機能しないのか
まず、厳しい現実をお伝えしなければなりません。
あなたが投稿している「握手の写真」や「オフィスで微笑むビジネスパーソン」の画像。あれを見て、ユーザーは何を感じるでしょうか。
答えは「何も感じない」です。
ユーザーがサービスを選ぶとき、知りたいのは「雰囲気」ではありません。「このサービスは、私の課題をどう解決してくれるのか」という具体的な機能です。抽象的なイメージ写真は、その問いに対して情報量ゼロ。見た瞬間にスワイプされて終わりです。
ここで、有形商材と無形商材の違いを整理しておきましょう。
アパレルや飲食店のInstagramが「映える写真」で成功するのは、商品を見れば価値がわかるからです。美味しそうな料理、かっこいい服——視覚情報だけで「欲しい」と思わせることができる。彼らにとってInstagramは「カタログ」として機能します。
しかし、無形商材は違います。コンサルティングの価値は写真に写りません。人材紹介の強みは画像では伝わりません。「説明しないと価値が伝わらない」商品に、カタログ型の運用は通用しないのです。
イメージ写真を投稿し続けている企業アカウントは、いわば「商品を並べていないカタログ」を配っているようなもの。誰も手に取らないのは当然です。

Instagramは「カタログ」ではなく「ミニセミナー会場」
では、無形商材はInstagramをどう使えばいいのか。
発想を変えてください。無形商材にとってのInstagramは「カタログ」ではなく、「プレゼン資料」であり「ミニセミナー会場」です。
考えてみてください。Instagramのカルーセル投稿(複数枚投稿)は、スワイプで1枚ずつ読み進めていく形式です。これ、何かに似ていませんか。
そう、PowerPointのスライドショーとまったく同じ構造なのです。
1枚目で興味を引き、2枚目で課題を提示し、3〜7枚目で解決策を説明し、最後にまとめと行動喚起を入れる。これは営業資料やセミナーで普段やっていることと同じです。
Instagramカルーセル=スライドショー
- 1枚目:興味を引くタイトル
- 2枚目:課題の提示
- 3〜7枚目:解決策の説明
- 最終枚:まとめと行動喚起
私たちStudyHackerのInstagramでは、英語学習のノウハウや勉強法の科学的知見を、図解を使って「教育コンテンツ」として発信しています。1投稿が、いわば5分間のミニセミナー。ユーザーはそれを見て「この会社は英語学習に詳しそうだ」と感じ、信頼を蓄積していく。この「教育コンテンツ」をどう企画し、運用に落とし込むかについては、企業SNSの運用OSを解説した記事で詳しく紹介しています。
無形商材の価値は「目に見えないノウハウ」や「課題解決のプロセス」にあります。それを可視化して見せるのに、Instagramほど適したプラットフォームはありません。

📝 私たちも、最初から成功したわけではない
偉そうに語っていますが、正直に告白します。私たちENGLISH COMPANYのInstagramも、最初は完全に間違った運用をしていました。
当初やっていたのは、トレーナー(講師)が登場して英語フレーズを紹介していくという形式。いわゆる「英会話アカウント」のフォーマットをそのまま真似したものでした。
フォロワーは徐々に増えていきました。でも、反応はほぼゼロ。保存もされない、コメントもつかない、もちろん問い合わせにもつながらない。ただ数字だけが増えていく、中身のない運用でした。
この「黒歴史」を経て、「そもそも何のためにInstagramをやるのか」を根本から考え直し、図解による教育コンテンツへと舵を切った。そこから、ようやく成果が出始めたのです。
ブラックボックスを「因数分解」して見せる
具体的にどうすればいいのか。ポイントは、あなたのサービスという「ブラックボックス」を因数分解して、中身を見せることです。
手法①:メソッドを図解化する
サービスの流れや仕組みを、徹底的に図解してください。
「安心感」とは何か。それは「中身が見えている状態」のことです。
コンサルティングなら「課題発見→戦略立案→実行支援→効果測定」の4ステップを図解する。人材紹介なら「ヒアリング→求人選定→面接対策→入社後フォロー」のプロセスを見せる。SaaSなら「導入→設定→運用→改善」のサイクルを示す。
これだけで「何をしてくれるのかわからない」という不安は大きく軽減されます。
私たちの英語コーチングサービスでは、「第二言語習得研究に基づく学習ステップ」を繰り返し図解して発信しています。なぜこの順番で学ぶのか、各ステップで何が起きるのか。それが見えるから、ユーザーは「科学的にやっているんだな」と納得できるのです。第二言語習得研究の概要については、こちらの解説記事も参考にしてください。
手法②:Before/Afterを数値化する
ビジュアルがないなら、数字の変化で見せましょう。
「受講前TOEIC 600点 → 3ヶ月後 850点」「導入前の業務時間 月40時間 → 導入後 月15時間」「成約率 12% → 28%」——こうした数字は、どんな美しい写真よりも雄弁です。
グラフや比較表を使い、変化を視覚的に示す。これは写真のセンスではなく、Excelでグラフを作る能力があればできることです。
私たちのアカウントでも、図解による教育コンテンツに切り替えたあと、保存数は大幅に増え、結果として500人規模のWebセミナーを連発できるようになりました。
手法③:「中の人」の知見を惜しみなく出す
サービスそのものを売り込む必要はありません。代わりに、社員が持っている「プロの知見」を惜しみなく出してください。
「人事担当者がやりがちな採用面接の3つのミス」「契約書で見落としがちな5つのポイント」「英語学習で最初にやるべきこと、やってはいけないこと」——こうした教育的コンテンツは、「この会社は詳しい」という権威性を担保します。
ユーザーは、役に立つ情報をくれる会社を信頼します。そして、信頼している会社に問い合わせをします。
直接的な宣伝を100回するより、役立つ知見を100回発信するほうが、最終的な成約数は多くなる。これが無形商材のInstagram運用の本質です。

センスはいらない、「資料作成力」があれば勝てる
ここまで読んで気づいた方もいるかもしれません。
無形商材のInstagram運用に必要なのは、写真のセンスでも、デザイナーのスキルでもありません。必要なのは「複雑なことをわかりやすく要約する力」と「見やすい資料を作る力」——つまり、要約力と図解力です。
これは、普段の営業資料や企画書作りとまったく同じ筋肉を使います。
PowerPointで提案資料を作れる人は、Instagramのカルーセル投稿も作れます。クライアントへのプレゼンができる人は、フォロワーへの「ミニセミナー」もできます。
無形商材のインスタ運用に必要なスキル
- ❌ 不要なもの:写真のセンス、高価なカメラ、プロのカメラマン、インスタ映えする商品
- ⭕ 必要なもの:要約力(複雑なことをわかりやすく)、図解力(見やすい資料を作る力)
考えてみれば、これは逆説的な朗報です。「映え」がないことは弱みではなく、参入障壁の低さを意味します。高価なカメラも、プロのカメラマンも、インスタ映えする商品もいらない。CanvaやPowerPointで図解を作り、論理的にわかりやすく説明できれば、それで戦えるのです。
つまり、優秀なビジネスパーソンこそ、実は無形商材のInstagram運用に向いている。
あなたの会社には、営業資料を作れる人がいますよね。企画書を書ける人がいますよね。その人たちが持っているスキルが、Instagramでも活きる。これは間違いありません。
ただし、ひとつだけ注意点があります。
営業資料をそのままInstagramに載せても、刺さりません。
なぜか。営業プレゼンを聞いている相手と、家でInstagramを見ている相手は、同じ人でも「モード」が違うからです。
営業の場にいる相手は「リサーチモード」。前のめりで、情報を取りにきています。でも、仕事終わりにソファでInstagramを開いている人は「省エネモード」。脳のメモリを使いたくない状態で、ダラダラとスクロールしています。
だから、同じ内容でも「伝え方」を変えなければいけない。認知負荷を下げ、軽めのトーンで、生活に溶け込む形に翻訳する必要があるのです。
(この「モードに合わせた翻訳」については、私のnote「「ペルソナ信仰」が危険なワケ。——「都内在住・30代・意識高い男性」に向けた広告が、なぜターゲットに無視されるのか」で詳しく解説しています)
資料作成力という「ベース」があれば、無形商材のInstagram運用で戦える。あとは、その力をInstagramというメディアの文脈に合わせてチューニングするだけです。

「見せる」のではなく「説明する」
無形商材のInstagram運用で覚えておいてほしいことを整理します。
無形商材のInstagram運用 4つの原則
- 原則①:イメージ写真は捨てる。雰囲気では何も伝わらない。
- 原則②:Instagramを「カタログ」ではなく「ミニセミナー会場」として使う。
- 原則③:ブラックボックスを因数分解し、メソッドの図解・数字の可視化・プロの知見で信頼を勝ち取る。
- 原則④:必要なのはセンスではなくビジネススキル。
形のない商品を売っている皆さん。「写真がないからInstagramは無理」という思い込みを、今日で捨てましょう。むしろ、あなたたちこそがInstagramで最も輝ける存在なのです。
無形商材のInstagram運用に関するFAQ
Q. 本当に写真のセンスがなくても大丈夫ですか?
A. 大丈夫です。無形商材のInstagramで重要なのは「美しさ」ではなく「わかりやすさ」。CanvaやPowerPointで図解を作れれば十分です。むしろ、普段から営業資料を作っているビジネスパーソンのほうが向いています。
Q. 「教育コンテンツ」ばかり出していたら、サービスの宣伝ができないのでは?
A. 逆です。役立つ知見を発信し続けることで「この会社は詳しい」という信頼が蓄積されます。信頼があるから問い合わせが来る。直接的な宣伝100回より、教育コンテンツ100回のほうが成約につながります。
Q. どのくらいの頻度で投稿すればいいですか?
A. 頻度より質です。週1〜2回でも、「保存したい」と思わせる図解コンテンツを出し続けるほうが、毎日イメージ写真を投稿するより遥かに効果があります。
▼ 企業SNS運用の連載記事
- 第1回:企業のSNS運用で「インフルエンサーの真似」が絶対に失敗する構造的理由
- 第2回:企業のSNSに「センス」は不要。「運用OS」で勝つための完全設計図
- 第3回:フォロワー数より「認知の質」。Instagramでセミナー500人を満席にした集客戦略
- 第4回:「35歳・女性・ヨガ好き」では刺さらない。企業SNSのターゲット設計、本当の正解
- 第5回:「形のない商品」こそInstagramが効く。無形商材が陥る"イメージ写真"の罠(本記事)
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岡 健作(おか・けんさく)
スタディーハッカー 代表取締役社長
1977年生まれ、福岡出身。同志社大学卒業。2010年に創業。「Study Smart(合理的に学ぶ)」をコンセプトに、科学的知見に基づく英語パーソナルジム「ENGLISH COMPANY」を設立し、人気ブランドへと成長させる。 事業拡大の要として、自らオウンドメディアとSNSの編集長を兼任。オウンドメディアは最大500万PV、Instagramでは月間700万PV、フォロワー27万人規模のメディアにするなど、広告費に依存しない集客モデルを確立する。現在はその知見を活かし、「企業の認知獲得の専門家」として、論理とデータに基づいた再現性の高いメディア戦略・ブランディング論を発信している。
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