
職場の会話でズレや食い違いが生じた経験は、誰にでも一度くらいはあるでしょう。
ただ、それが多いと感じるなら "聞き方" を少し変えてみてください。コミュニケーションが驚くほど円滑になるはずです。
もちろん、相手の伝え方が悪いケースもゼロではありません。しかし、自発的に聞き方を改善することは、「相手に変わることを期待する」よりもはるかに速く、確実に関係性を改善できるため、大いに価値があると言えます。
本記事では、無意識にやっている "聞き方のクセ" を振り返り、改善していく方法についてお伝えします。
認識(受容)と理解(消化)は別物
私たちは、とりあえず話を聞けば「わかった」と思う傾向にありますが、「相手がなにを伝えたかったのか」までは、正確に受けとれていない場合があります。
認識(受容)と理解(消化)はまったくの別物なのです。言葉をそのまま受け取ることと、「なぜそう言ったのか」まで把握することは、まったく異なるプロセスだということです。
それに、私たちは無意識のうちにスキーマ(より深い思い込み・信念の体系)を通して物事を解釈・理解します。すると、「多分こうだろう」と意味づけをしてしまうことがあるのです。*1
結果、相手の話を最後まで聞いたつもりでも「自分なりの理解」で完結してしまい、すれ違いが生じてしまいます。
そうした背景をふまえ、このあと「理解を妨げる『3つの聞き方のクセ』」と、「聞き上手な人がやっていること」を紹介します。
理解を妨げる「3つの聞き方のクセ」
(1)最初のリアクションが否定語
(話の途中で)「いや、でも」「わかるけど……」「いやいやいや」
このリアクション、無意識にやっていませんか? どんなに正しいことを早く伝えたかったとしても、話したそばから「否定語」を発していたら、対話の質が落ちてしまいます。
日本メンタルアップ支援機構の代表理事・公認心理師の大野萌子氏は、否定から入る会話は「相手への信頼」と「お互いを理解しようとするモチベーション」を低下させ、コミュニケーションの破綻を招くと説明します。
そして、相手が意見を述べる気力を失えば、「ベストな解決策を見つけるのが難しくなる」だけでなく、「問題をそのまま見て見ぬふりをすること」にもつながりかねないと警鐘を鳴らします。*2
条件反射で否定語から入った場合、相手が心理的な壁をつくり、建設的な対話が消失してしまうのです。
(2)相手の話をブロッキング
会話の最中に、こんな思いが湧き上がってきたことはありますか?
- 「へー。でも、じつはそれ〇〇なんだよね――」
- 「わかるわかる! そうそう、そのケースは以前にも――」
- 「え、そういうこと? じゃああの話をしなきゃ」
これは「ブロッキング」と呼ばれる心理現象です。
名古屋学芸大学管理栄養学部の安友裕子氏は、管理栄養士が面談をする際のシチュエーションで「聴く」ということに注目し、ブロッキングについて説明しています。
安友氏によれば、ブロッキングとは「相手の話を聴こうとすると、頭や心の中に、それを邪魔するものが生じてくる現象」のこと。ブロッキングがあると相手の話に集中できず、それが相手にも伝わって、信頼関係が築きにくくなるといいます。*3
たとえ内心であっても、会話の途中でさまざまな思考が巡ると、相手を不快にさせる聞き方になってしまう可能性があるのです。
(3)確証バイアスで聞きたいように聞く
- 「難しければ明日でもいいのですが、今日見てもらえると助かります」
- 「その案も面白いかもしれないけど、実現はちょっと難しいかも」
これらの言葉の表面だけを見て、「じゃあ明日見ればいいか」「面白いなら進めてOKだね!」と受け取ってしまうなら要注意。実際のところはこうです。
- 1番めの人は「今日中に見てほしい」と思っている
- 2番めの人は「別の案を考えたい」と思っている
「自分が聞きたいように聞く」「見たいものしか見ない」という心理傾向は「確証バイアス」と呼ばれます。「自身の先入観や意見を肯定するため、それを支持する情報のみを集め、反証する情報は無視または排除する心理作用」のことです。*4
結果的に、相手の意向を十分に汲み取らず、自分にとって都合のいいように言葉を受けとる態度になってしまいます。相手に「配慮がない人だ」「理解力がない人だ」という印象を与えてしまうのは明らかです。

では逆に、理解を妨げるような聞き方をしない人の "聞き方" とは、どんなものでしょう?
聞き上手な人がやっていること
(1)一度必ず受け止めてから考えを述べる
前出の大野氏は「相手の意見への賛成・反対はいったん置いて、まずは『相手の言葉や気持ちを受け止めること』」をすすめます。*2
✖️「そんなのできるわけない」
⭕️「〜をやりたいのですね」と受け止めてから、「できるかどうか検討してみましょう」
✖️「それは違うよ」
⭕️「〜だと感じているんだね」と受け止めてから、「私が聞いた話によると〜という背景があったようだよ」と事実を添える
大切なのは、まずは最後まで話を聞くことです。大野氏も「重要なのは、最初から可能性を全否定しないこと、前向きな道筋に向けてコミュニケーションできるようにすること」だと話します。*2
相手の話をいったんは受け止め、遮らずに最後まで聞く姿勢をもちましょう。
(2)自分のブロッキング現象を認識する
聞き上手な人にはブロッキングが起きないわけではありません。「自分はブロッキングが起きる」と認識しているのです。その自覚をもつだけで、意識して最後まで話を聞けるようになるはずです。
筆者もブロッキングという現象を知ってからは「気をつけよう」という意識が芽生え、すぐ相手の話に集中し直すクセがつきました。
前出の安友氏も、まずは「ブロッキングしていることに『気づくこと』です。気づいて、脇に置いて、話に集中する。それを癖付けていくと、自然と身についてい」くと話しています。*3
小さな意識の積み重ねが、相手との大きな信頼関係を支える土台になるのです。

(3)先入観をいったん脇におく
株式会社コーチ・エィ執行役員でエグゼクティブコーチの片桐多佳子氏は、相手にレッテルを貼ってしまうと、その人の新しい一面を見逃してしまうと指摘します。先入観を一度脇に置き、「なぜそう考えるのか」という興味を持って対話することが大切だと話します。*5
先入観をよけて、ありのままの事実を見ようとすることで、相手の発言をよりフラットに受けとれるようになるはずです。それができれば、相手の意図を汲み取ることも、よりスムーズになるでしょう。
素晴らしい一面にも気づきやすくなり、コミュニケーションが最適化されるはずです。
(4)自分の解釈を確認する
相手の話を最後まで聞くと言っても、なにも話してはいけないわけではありません。適度に質問を挟むほうが、「真剣に話を聞いている」という姿勢を示せます。
そんなとき、聞き上手な人は相手の意図をつかむためにも、
と聞く習慣があります。
前出の片桐氏も「聞いたことをそのまま相手に返して、自分がきちんと理解しているかどうかを確認する」のは、いい聞き手であるためのポイントだと述べています。*5
自分の解釈を確認し、ズレをその場で修正する――。
「聞いたつもり」で終わらせないその姿勢が誤解を防ぎ、信頼の構築につながるのです。
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聞き方を少し意識するだけで、コミュニケーションは格段に改善されます。
- 「否定から入っていないか?」
- 「最後まで遮らずに話を聞いているか?」
- 「ブロッキングが起きていないか?」
- 「自分の解釈を押しつけていないか?」
こうした小さな意識改革を、今日から始めてみませんか。
よくある質問(FAQ)
Q. 否定語から入るクセがなかなか直りません。どうすればいいですか?
A. まずは「相手の言葉をそのまま繰り返す(オウム返し)」から始めてみてください。たとえば「〜をやりたいのですね」と受け止めるだけで、否定語が入る余地がなくなります。最初のひと言を変えるだけで会話の流れが大きく変わるはずです。
Q. ブロッキングが起きていることに気づくにはどうしたらいいですか?
A. 会話中に「次に自分が話すこと」を考え始めたら、それがブロッキングのサインです。「いま自分は相手の話に集中できているか?」と自問するクセをつけると、次第に気づけるようになります。
Q. 確証バイアスに陥らないためには、具体的になにをすればいいですか?
A. 相手の話を聞いたあと、「自分の解釈で合っているか」をその場で確認する習慣が効果的です。「それはこういう意味ですか?」とひと言添えるだけで、思い込みによるズレを防ぐことができます。
Q. 聞き上手になるために、今日からできる一番簡単なことはなんですか?
A. まずは相づちだけで、「相手が話し終わるまで口を開かない」と決めることです。たったそれだけで、否定語から入ることもブロッキングも自然と減り、相手に「この人はちゃんと聞いてくれる」という安心感を与えられます。それに慣れたら、適度な質問(「この解釈で合ってますか?」など)を始めてみましょう。
*1: 心理療法専門解説サイト(ダイレクトコミュニケーション)|認知療法,スキーマ,自動思考の意味
*2: NTT docomo Business Watch|【伝え方】否定から始まる会話は、信頼喪失のリスク
*3: 名古屋学芸大学 管理栄養学部|あなたは「聞き上手」ですか?
*4: 一般社団法人日本経営心理士協会|確証バイアス
*5: NTT docomo Business Watch|「聞く力」をトレーニング…スキルより重要な10のポイント
澤田みのり
大学では数学を専攻。卒業後はSEとしてIT企業に勤務した。仕事のパフォーマンスアップに不可欠な身体の整え方に関心が高く、働きながらピラティスの国際資格と国際中医師の資格を取得。日々勉強を継続しており、勉強効率を上げるため、脳科学や記憶術についても積極的に学習中。