湖池屋が証明した「ライバルを見るな、原点を掘れ」というブランド再生の極意【新人さんのためのマーケティング講座 Season6 vol.14】

📘 新人さんのためのマーケティング講座 Season6

Season5では、身近な事例を通じてマーケティングの原則を深掘りしました。
Season6でも引き続き、「なぜこのブランドは選ばれ続けるのか」を事例で解き明かしていきます。

まだ過去のSeasonを読んでいない方は、そちらからどうぞ。
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コンビニのポテトチップス売り場を見てください。100円前後の商品が並ぶ中に、ひと際白くスタイリッシュなパッケージが立っています。

湖池屋プライドポテト。2017年の発売初年度に40億円の売上を記録し、スナック業界のヒット目安とされる年間20億円の2倍を達成した商品です。*1

それまで業界2位として安売り競争に巻き込まれていた湖池屋が、なぜ突然「高くても売れる」ブランドに転換できたのか。前回のシマノが「技術インフラ」を軸に戦ったとすれば、湖池屋が使った武器は「感性の価値転換」です。

「ライバルを見ない」——原点回帰から始まったブランド再定義

湖池屋は1962年に「のり塩」を発売し、1967年に日本で初めてポテトチップスの量産化に成功した会社です。*2 文字通り、日本のポテトチップス文化をつくった老舗です。

しかし後発のカルビーが低価格で参入し、湖池屋は長らくシェア2位に甘んじてきました。価格競争に引きずり込まれ、2期連続赤字を記録した2016年、佐藤章がキリンビバレッジ社長からフレンテ(現・湖池屋)に転じて社長に就任します。*1

佐藤がまず打ち出したのが「ライバルを見ない」というコンセプトでした。競合の動向を追いかけるのではなく、向けるべき目を自社のルーツとお客様に、と社内に訴えたのです。*3

拠り所としたのは、創業者・小池和夫が残していた言葉——「業界で最高のものをつくる」。*3

この原点回帰が、すべての戦略の起点になります。社名を「フレンテ」から「湖池屋」に戻し、ロゴも刷新。そしてリブランディングの象徴として開発したのが、プライドポテトでした。

「プライド(誇り)」という名前には二重の意味があります。湖池屋自身の誇りであると同時に、この商品を選んだ消費者の「誇り」でもある。「フライドポテトのダジャレですか」と言われて「半分はそうです」と笑って答えた佐藤社長のエピソードは、このブランドの肩の力の抜け方をよく表しています。*1

「静かな自信」のパッケージ——デザインが語るプレミアム感

プライドポテトが市場に与えた最初の衝撃は、パッケージデザインでした。

当時のスナック菓子のパッケージは、視認性を最優先した暖色系の賑やかなデザインが主流でした。遠くから見て「あそこにある」と気づいてもらうための、競争の論理です。プライドポテトはそれを捨てました。真っ白を基調としたスタイリッシュなデザイン、コンパクトな名称表記、そして棚の上に自立する底が平らなスタンディング容器。*3

「湖池屋が本当の意味で自立していけるように」——自立式の容器にそんな思いを込めたという佐藤社長の発言は、デザインの選択が単なる見た目の話ではなく、ブランドの哲学の表明だったことを示しています。*1

「静かな自信を放つパッケージ」は、うるさい棚においてかえって目立ちます。周囲が声を張り上げているほど、静けさは異質な存在感を放つ——ラグジュアリーブランドが学んできたのと同じ原理が、100円台のポテトチップス売り場でも機能することを、プライドポテトは証明しました。

ただし、このデザイン戦略は一度「迷子」になります。2017年の発売後、好評を受けてラインナップを拡充した結果、「わかりにくい」デザインに陥ってしまったのです。*3 これを立て直した2020年のリニューアルでは、前年度比517%増という数字を叩き出しました。*3 ブランドの核心を守りながら修正し続ける姿勢もまた、この事例の重要な教訓です。

「スナック」ではなく「料理」——定義の転換が価格を変える

プライドポテトが当時のデフレ下で150円という価格設定に踏み切れた根拠は、商品の「定義」を変えたことにあります。*1

佐藤社長は「ひとつの料理と言ってもいいほどの思いと情熱を注ぎ込みました」と語っています。*1 このひとことに、戦略の核心があります。「スナック」と「料理」では、消費者が許容できる価格帯がまるで違います。

具体的に何が変わったのか。

  • 原料:国産じゃがいも100%を使用
  • 製法:皮のむき方・洗い方・厚さ・油の質・揚げ方すべてを見直し
  • フレーバー名:「神のり塩」「ぞっこん岩塩」——素材へのこだわりをそのまま名前に込めた

「神のり塩」というネーミングは秀逸です。「神」という言葉が、料理に対する評価として使われるとき(「神コース」「神メニュー」)、それは価値の絶対化を意味します。味の優劣の問題ではなく、「このクオリティはもう別の次元だ」という宣言です。150円を払う理由(エビデンス)を、名前のなかに込めたわけです。

その結果、ポテトチップスを「もう卒業しようとしていた」50代以上の大人世代を取り込むことに成功しました。*3 「自分へのご褒美」として選ばれる商品になったのです。市場の平均(100円・若者向け)に合わせるのではなく、潜在していた「こんなポテトチップスを待っていた」という需要を掘り起こした。

競合が「安さ」で勝負してくるなら、自分たちは「誇り(ストーリー)」で勝負できないか。顧客は単に「安いもの」が欲しいのではなく、「納得感のある高いもの」を求めている瞬間が必ずある——プライドポテトはその確信を、40億円という数字で証明しました。

2026年のマーケティングは、市場の平均に合わせるのではなく、自分たちの「原点」を掘り起こして光を当てることです。湖池屋が「業界で最高のものをつくる」という創業者の言葉に立ち返ったように、あなたの会社の原点の中にも、まだ語られていない「誇り」があるのではないでしょうか。

 

【本記事のまとめ】

1. 「ライバルを見ない」——競争軸を自分で定義した者が価格を支配する
カルビーとの安売り競争から降り、創業者の「業界で最高のものをつくる」という言葉に立ち返った。競合の動向ではなく自社の原点を見つめ直すことが、コモディティ市場から抜け出す唯一の方法だ。

2. 「静かな自信」のデザイン——賑やかな棚では、静けさが最も目立つ
白を基調としたスタイリッシュなパッケージと自立式容器が、スナック売り場に「別次元の存在」という印象を与えた。デザインは見た目の問題ではなく、ブランドの哲学の表明だ。

3. 「スナック」から「料理」へ——定義の転換が許容価格帯を変える
国産じゃがいも100%・製法の徹底見直し・「神のり塩」という命名によって、消費者に「150円払う理由」を提供した。市場の平均価格に合わせるのではなく、語られていなかった需要を掘り起こすことが、プレミアム化の本質だ。

よくある質問(FAQ)

湖池屋はなぜ「フレンテ」という社名を「湖池屋」に戻したのですか?

2004年に持株会社制に移行した際「フレンテ」という社名になっていましたが、2016年に佐藤章が社長に就任した際、リブランディングの一環として「湖池屋」に戻しました。「日本で初めてポテトチップスを量産化した」という原点のパイオニア性こそがブランドの核心であり、それを社名で表明することがリブランディングの第一歩だったからです。名前を変えることで社員の意識を変え、「新生・湖池屋」の幕開けを内外に示す意図もありました。

「価格を上げてブランド価値を高める」戦略は、どんな商品・サービスでも使えますか?

価格を上げることは手段であって目的ではありません。湖池屋の場合、「150円払う理由」を素材・製法・ネーミング・デザインすべてで一貫して提供したから機能しました。重要なのは、「高い価格」ではなく「価格に見合う価値の可視化」です。自社の商品やサービスのどこに、まだ言語化されていない価値があるかを探し、それを顧客が理解できる形で伝えること——これができて初めて価格改定が成立します。値上げだけを先行させると顧客離れを招くため、順序を間違えないことが大切です。

プライドポテトは一度「迷子」になったと書かれていましたが、なぜですか?

発売初年度に大ヒットした後、好評に応えようとしてラインナップを拡充した結果、パッケージが「わかりにくい」デザインになってしまったからです。ブランドの世界観を保ちながら多様な需要に応えようとした際に、本来の立ち位置を見失いました。2020年のリニューアルでは「ライバルではなく自分たちを見つめ直す」という原点に戻り、結果として前年度比517%増を達成しています。成功した後こそ、ブランドの核心を守ることの難しさと重要性が試されるという好例です。

(参考)

*1|Real Sound「ポテトチップスの湖池屋、ヒット商品連発の秘訣とは?佐藤章氏インタビュー」。初年度40億円・スナック市場のヒット目安は年間20億円・発売時の価格150円・「ひとつの料理と言ってもいいほど」・「フライドポテトのダジャレ」発言・社名変更の経緯など
*2|日清食品グループ「湖池屋」企業情報。1962年「湖池屋ポテトチップス のり塩」発売・1967年日本で初めてポテトチップスの量産化に成功
*3|XD「手に取るかどうか、判断時間はたったの2秒。湖池屋プライドポテトが刺さる理由」。「ライバルを見ない」というコンセプト・創業者「業界で最高のものをつくる」という言葉・2017年発売時の白を基調としたデザインと自立式容器・50代以上の支持・2020年リニューアルで前年度比517%増・「迷子」になった経緯と立て直し

▼ 新人さんのためのマーケティング講座 Season6

「なぜこのブランドは選ばれ続けるのか」を事例で深掘りしていきます。

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【プロフィール】
岡 健作(おか・けんさく)

株式会社新恵社代表取締役/スタディーハッカー(現(株)イングリッシュカンパニー) 創業者。
1977年生まれ、福岡出身。同志社大学卒業。2010年に創業。「Study Smart(合理的に学ぶ)」をコンセプトに、科学的知見に基づく英語パーソナルジム「ENGLISH COMPANY」を設立し、人気ブランドへと成長させる。 事業拡大の要として、自らオウンドメディアとSNSの編集長を兼任。オウンドメディアは最大500万PV、Instagramでは月間700万PV、フォロワー27万人規模のメディアにするなど、広告費に依存しない集客モデルを確立する。現在はその知見を活かし、「企業の認知獲得の専門家」として、論理とデータに基づいた再現性の高いメディア戦略・ブランディング論を発信している。
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