
「何を学ぶべきか?」 この問いに対して、私たちはつい「正解」を探してしまいます。AIスキル、英語、データ分析……。市場価値を高めるために、“今、足りないもの”を埋める学習に走りがちです。
しかし、変化の激しい現代において、誰かが用意した「正解のカリキュラム」をこなすだけの学びに限界がきていることは、多くのビジネスパーソンが薄々気づいていることではないでしょうか。
2025年秋、コクヨが学生たちと共に開催したプロジェクト「ヨコク式」は、就職活動という枠組みを超え、「教わる」から「自ら問いを立てる」ことの転換のあり方を私たちビジネスパーソンにも教えてくれました。
「ヨコク式」プロジェクトとは?
ヨコク式とは、成人式のように若者が「ヨコク」するための式として企画されたものだそうです。しかし、「ヨコク」と言われても、ピンと来ない読者が多いでしょう。コクヨのサイトでは、以下のように説明されています。
コクヨが掲げる「ヨコク」は、よりよい未来をつくるための意志であり、挑戦であり、実験です。一人ひとりが未来への想いを言葉にし、仲間と協働して形にしていくことを大切にしており、「自律協働社会」の実現を目指しています。(プレスリリースより。太字は編集部による)
言い換えると、未来に向けた自分の意志や思いを表明するということ。それを、仲間たちと表明し合うことで、社会を変えていく力にしていこう、ということになるでしょうか。「成人式」のように未来の自分を予告する新しいセレモニーをイメージして名付けられています。
当日参加したのは卒業や就職を前にした大学生が中心でしたが、それに限定されるものではなく、高校生から大学1、2年生の参加も見られ、約80名の学生が集まりました。
会場に集まった学生たちはグループワークや対話セッションを重ね、最終的に一人ひとりが磨き上げた「予告」を発表し、フィナーレとなっています。それは単なるプレゼンテーションではなく、自分の弱さや迷いも含めた自分の思いを込めた「ヨコク」でした。 フィナーレでは、ランタンのバルーンでヨコクを打ち上げ、未来に向けた思いを新たにしていました。
と、当日の模様をまとめてしまえば、取り立てて特徴のないイベントのようにも聞こえるかもしれません。しかし、いくつかの点で、非常にユニークで挑戦的なものだったと言えます。

予定調和に甘んじない
まず、ワークショップイベントにありがちな、予定調和的な結論やフィナーレにならないよう配慮されていたことが挙げられます。
「若者が社会の未来を考える」というシチュエーションは、「私たちは社会課題に向けて◎◎します、取り組みます」と宣言して終わったり、あるべき未来像を共有し、そこからバックキャストして今やるべきことを宣言したりといった、よくあるパターンに収束しがちです。
しかし、ヨコク式はそんなよくあるパターンにならないよう工夫がされていました。
迷いも不安も含めて、生の自分自身をそのまま提示する。対話セッションもワークショップもそう設計されており、安易な答えに身を任せないようになっていました。よくある答えは一種の思考停止であり、そこに身を任せないことは、ネガティブ・ケイパビリティに通じる姿勢と言えるでしょう。
完全に学生主体
ヨコク式は、コクヨとPARADOX社が共同で発案したものですが、企画、運営は主に学生が行っています。4月にコアメンバーを募集し、運営チームを発足。その後は、コクヨなど企業側は、サポートはするものの一定の距離をとっています。運営チームの学生たちは自分たちの判断で合宿までしているそうです。当日の運営もすべて学生が担っています。
完全にフリーハンドにしたわけではありませんが、企業が学生を信じ、任せきるのは非常に珍しいケースではないでしょうか。
社会課題で未来を考えない
SDGsの登場前後から、こうしたワークショップでは「社会課題解決」が切り口になるのが一般的でした。しかし、ヨコク式は社会課題を起点にはしていません。オープニングのイントロダクションで「好奇心・ワクワクから未来を考えよう」と呼びかけられています。
好奇心、ワクワクとは、自分の心に立脚して未来を考えようということ。社会課題解決を起点に、どこかの遠くのかけ離れた未来を描いても、それは美しくはあっても宙に浮いたものになります。予定調和同様、ありがちな、キレイだけどどこかリアリティのない未来を否定しているのです。
このようにして実施されたヨコク式は、やっていることはシンプルでしたが、会場には心地よい緊張感があふれ、フィナーレには晴れ晴れとした爽やかさが残されていたのでした。
答えを与えない“学びの場”

このヨコク式には、ビジネスパーソンにとっても重要な示唆が多くあるように思えます。
例えば、ヨコク式は正解を提示せず、すべて学生たちに任せてしまっていること。企画を担当したコクヨのHR担当の櫻木澄さんと川端奨平さんによると、これは「自律協働社会」の実現をコクヨが目指しているからでした。 ”
「会社がテーマとして自律協働を掲げているのに、上からああしろ、こうしろと言ったり、発信するものに従わせようとするのはちょっと違うだろうと。もちろん、自律協働社会というコンセプトは伝えていますが、自分たちの『こうしたい、ああしたい』という思いを大事にしてもらいたかったんです。だから我々からの介入はなるべくしない。ただ、迷ったり困ったりしたときにヒントを出せるように、遠すぎず、近すぎずの距離を保つようにしていました」(櫻木さん)
共同企画者のブランドエージェンシー・PARADOXの深堀遼太郎さんは「我々の仕事は、若者のヨコクを応援することだろうと思った」と言います。
「今の若者は、志を持って働こうとする人が多い。そういう志を言葉にするのがヨコク。じつは、自分の思い・志を、人の目や声を恐れずにちゃんと表明するのは、すごく重要なのに、すごく難しいんですよね。そのヨコクを支えるのは、コクヨだからできる応援の仕方じゃないかと思いました」(深堀さん)
すべて学生たちに任せていたため、運営チームにリーダーを置くかどうかさえも、自分たちで決めたそうです。その結果、「自律協働を目指すなら、リーダーはいなくていい」となり、その後、運営チームは、その活動の内容によってメンバーの誰かしらがリーダー的な役割を果たすようになり、順調に回るようになったそうです。
参加した学生の一人はこう語ります。
「役割分担をして、自分が動かなければ誰かが迷惑するから頑張る、という『役割ドリブン』ではなく、本音で話し合い、共感し合うことで動く『ビジョンドリブン』に変わりました。リーダーがいなくても組織は回るし、むしろ本気でやりたいことは、役割がなくても人は頑張れるのだと学びました」
上司の指示待ちでもなく、役割定義に縛られるのでもない。自分の内側から湧き出る問いと意志によって動く。これこそが、これからの学びに必要な姿勢ではないでしょうか。
好奇心を出発点にする学びのデザイン

社会課題ではなく自分自身の好奇心を起点にしている点も、我々ビジネスパーソンにとって重要な示唆となります。
社会人の学び(リスキリング)が挫折しやすい理由の一つに、「弱点克服型」のアプローチがありますが、「これができないと将来ヤバい」という欠乏感や危機感を出発点にすると、学びは苦役になります。
先述の深堀さんは、この点で次のように述べています。
「『社会課題』から入ると、話はどうしても『愚痴』になりがちです。けれど『好奇心』から始めると、人は前に進めるようになります。また、遠く離れた、どこかの外国の問題を社会課題と捉え、考え、活動しようとしても、それはどこか宙に浮いたものになり、リアリティを欠いてしまうのではないでしょうか」(深堀さん)
実際にプロジェクト初期、社会課題解決をテーマに議論していた学生たちの空気は重く、停滞していたといいます。しかし、起点を「ワクワクすること」「個人的な好奇心」に切り替えた瞬間、議論はポジティブな熱を帯び始めました。
これは心理学で言う「アプローチ動機(接近動機)」の力です。 「足りないから学ぶ」のではなく、「面白いから問う」。 これからのリスキリングに必要なのは、市場のニーズに合わせることよりも先に、自分の内なる好奇心を再発見し、そこから独自の問いを立てる力なのです。
予定調和から離れ、自分の軸を言語化する力

また、私たちは会議でもSNSでも、無意識のうちに「その場の正解」や「求められている役割」に合わせて発言しがちです。この「予定調和」こそが、独自の学びやキャリア形成を阻害する最大の要因です。
ヨコク式の運営に参加したある学生は、プロジェクトを通じて「完璧」の定義が変わったと語ります。
「以前は、期限内に100%のものを一人で作り上げることが完璧だと思っていました。でも今は、6割の段階でみんなに共有し、修正し合いながらより良いものを作ることこそが、本当の成果につながると気づきました」
一人で正解を抱え込むのではなく、未完成でもいいから自分の「予告(=意志、気持ち)」をさらけ出す。すると、そこに他者の知見が集まり、1+1が単なる2ではなく、ポリフォニックに大きな成果を出せるようになる。
組織の中で「正解らしさ」を演じるのをやめ、自分の思いを言語化する。その勇気を持ったとき、学びは個人の孤独な作業から、周囲を巻き込むダイナミックな実験へと変わるということ。これは学生だけの話ではなく、私たちにこそ、必要な姿勢でなのではないでしょうか。
先述の深堀さんは「ヨコクとして、自分の志を言葉にできることだけで、(ヨコク式は)成功だと言っていい」と話していますが、自分自身の“生”の言葉をそのまま形にできることが、今、何よりも求められています。
学びを再定義するためのミニワーク
最後に、この「ヨコク式」から得られた知見を、明日からの私たちの学びに活かすための3つのステップを提案します。
学びを再定義する3ステップ
「役立つか」「儲かるか」を一旦脇に置き、「なぜか気になってしまうこと」「つい検索してしまうこと」を書き出してみましょう。つまり、「ワクワク」や「ドキドキ」です。社会課題ではなく、あなたの偏愛や違和感が、独自のキャリアの種になります。
「〇〇の資格を取る」という計画ではなく、「私はこうありたい」「こんな実験をしてみたい」という意志を言葉にしてみましょう。誰かの許可は要りません。未完成の言葉で構わないのです
学生が気づいたように、100%の準備をしてから動く必要はありません。60%の見切り発車でいいので、誰かに話してみる、小さなイベントを開いてみる。アクションそのものを「学び」と定義し直してください。
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コクヨの「ヨコク式」は、企業と学生の取り組みという枠を超え、“教わる学び”から“自ら定義する学び”への転換を象徴する出来事でした。
変化が激しく、正解が見えない時代。 だからこそ、誰かが決めたカリキュラムに沿うのではなく、自分の好奇心を羅針盤にし、自らの言葉で未来を「予告」する。「教わる」をやめたとき、あなたの本当の学びとキャリアが動き出します。
ヨコク式は、今後も継続していく予定とのこと。また、コクヨ一社だけで行うのではなく、多くの企業との合同で進められたら、もっと面白くなるのでは、と考えているそうです。そして、それが成人式のような新たなセレモニーとして定着したら……社会は大きく変わっていくのかもしれません。
【参考情報・サイト】
コクヨ株式会社|コーポレートサイト
ヨコク式プレスリリース
よくある質問(FAQ)
Q. リスキリング(社会人の学び)が続かない原因は何ですか?
「欠乏感」や「危機感」を起点にした学びは苦役になりやすいためです。心理学的な「アプローチ動機(ワクワク感)」を優先させることが、継続の鍵となります。
Q. 効率的な学びのために、まず何から始めるべきですか?
まずは自分の「好奇心の棚卸し」をしてください。市場価値や損得ではなく、自分自身の偏愛や違和感を言語化することが、独自のキャリアを築く出発点になります。
Q. 仕事と学びを両立させるコツはありますか?
「100%の準備」を捨て、60%の完成度でアウトプットすることです。未完成のまま周囲に共有し、修正を繰り返すアクションそのものを「学び」と定義し直しましょう。
STUDY HACKER 編集部
「STUDY HACKER」は、これからの学びを考える、勉強法のハッキングメディアです。「STUDY SMART」をコンセプトに、2014年のサイトオープン以後、効率的な勉強法 / 記憶に残るノート術 / 脳科学に基づく学習テクニック / 身になる読書術 / 文章術 / 思考法など、勉強・仕事に必要な知識やスキルをより合理的に身につけるためのヒントを、多数紹介しています。