「幸甚に存じます」
「幸甚の至りです」
……こんな表現、ビジネスシーンで目にしますよね。使い方・読み方を説明できますか?
この記事を読めば、自信をもって「幸甚」を使いこなせるようになりますよ。「幸甚」の意味や例文を見ていきましょう。
「幸甚」の意味
幸甚の読み方は「こうじん」です。“幸” は「幸せ」、“甚” は「はなはだ」。つまり、幸甚は「はなはだ幸せである」という意味なのです。
「すごく嬉しいなぁ。この気持ちを相手に伝えたい!」というとき、「幸甚」を使ってみましょう。
◆「幸甚」の例文
- ご招待くださり幸甚に存じます。
- ご契約いただき、幸甚の至りでございます。
- お気に召していただけたら幸甚です。
「幸甚」は書き言葉のため、手紙やメールで使うのが一般的です。口頭では「幸いです」や「助かります」を使いましょう。「幸甚」を口にする機会があるとすれば、式典のスピーチのようなフォーマルな場面です。
「幸甚」の使い方
実際に「幸甚」を使う場合は、次の3つのうちどれかの表現になります。
幸甚です
最もシンプルなのは「幸甚です」。ぶっきらぼうな印象になるのを避けたいなら「幸甚でございます」にしましょう。
ただ、「ご幸甚です」とは言わないでください。「ご」は他人に関する名詞に使うもので、「幸甚」は自分の感情だからです。
◆「幸甚です」の例文
- ご招待いただき幸甚です。
- ご契約くださり幸甚です。
- お引き受けいただければ幸甚です。
幸甚に存じます
敬意を強めたいときは「幸甚に存じます」としましょう。より丁寧な印象になります。上と同じ理由で「ご幸甚に存じます」は使わないでください。
◆「幸甚に存じます」の例文
- ご招待いただき幸甚に存じます。
- ご契約くださり幸甚に存じます。
- お引き受けいただければ幸甚に存じます。
幸甚の至り(極み)
最上級の敬意を表せるのが「幸甚の至り(極み)」。「これ以上ないほど幸せ」という強い喜びを伝えられます。
そのため、場合によっては大げさな印象を与えかねません。「メールに返信をいただき幸甚の至りです」は、さすがにオーバーです。
「幸甚の至り」を連発しては、言葉の重みが薄れてしまいます。ここぞというときまでとっておきましょう。
◆「幸甚の至り(極み)」の例文
- ご招待いただき幸甚の至り(極み)です。
- ご契約くださり幸甚の至り(極み)でございます。
- お引き受けいただければ幸甚の至り(極み)です。
「幸甚」の活用シーン
「幸甚」は、どんなときに使えばいいのでしょう? 具体的には、目上の相手に
- 感謝を伝えるとき
- 頼み事をするとき
- プレゼントを贈るとき
という3つのシーンです。
感謝を伝える
幸甚は、「あなたのおかげで幸せです」というメッセージ。
- 取引先が要望に対応してくれた
- 顧客が商品を購入してくれた
こんなときの感謝は「幸甚」で表わせます。「〜いただき幸甚」「〜くださり幸甚」のかたちが一般的です。
◆感謝を伝える「幸甚」の例文
- ご連絡を頂き幸甚です。
- 式にお招きくださり、幸甚に存じます。
- ご出席いただき幸甚の至りです。
お願いする
頼み事をしたいときにも「幸甚」を使えます。「〜してくれたら嬉しいです」という婉曲的な表現です。「〜していただけると幸甚」「〜してくださると幸甚」といった言い回しをします。
◆お願いする「幸甚」の例文
- ご返信いただけますと幸甚です。
- ご確認いただけましたら幸甚に存じます。
- ご出席くださいましたら幸甚の至りでございます。
贈り物をする
プレゼントをするときも「幸甚」を使います。「受け取ってくれたら嬉しい」というニュアンスです。
◆贈り物をする「幸甚」の例文
- つまらないものですが、受け取っていただけましたら幸甚です。
- 気に入っていただけたら幸甚に存じます。
- お口に合いましたら幸甚の至りです。
「幸甚」の類語
「『幸甚です』ばかり使ってしまう……。別の表現はないかな?」
そんなときは、幸甚の類語を使ってみましょう。
幸い
「幸甚です」は「幸いです」に置き換えることができます。幸甚は「非常に幸い」という意味なので、「幸い」ならライトなイメージです。
◆「幸い」の例文
お引き受けいただけると幸いに存じます。
欣幸
欣幸(きんこう)は、強い喜びを表す言葉。幸甚と同じです。ただ、堅い表現であり、意味が伝わらない可能性も考えられるので、フォーマルな場面で使いましょう。
◆「欣幸」の例文
ご招待に預かり欣幸の至りです。
ありがとうございます
感謝を伝えたいなら、率直に「ありがとうございます」と言うのももちろんOK。「幸甚」ほど強い喜びを表すわけではないので、日常的に使うにはぴったりです。
◆「ありがとうございます」の例文
お引き受けくださり、ありがとうございます。
助かります
「助かります」も、手軽に使える感謝の表現。日常的な業務に関して「幸甚です」を使うのは大げさですから、「助かります」がいいでしょう。
ただ、コミュニケーション研修を手がける株式会社M's コミュニケーション代表取締役の大部美知子氏によると、目上の人には使わないほうがいいそう。「助かる」には「労力が少なくすむ」という意味があり、「自分の負担が少なくてすむ」というニュアンスになってしまうためだそうです。
「助かります」は、同僚や後輩に使うことをおすすめします。
◆「助かります」の例文
引き受けてもらえると助かります。
御礼申し上げます
感謝を表す丁寧な表現としては「御礼申し上げます」も一般的です。「厚く」「心より」などの言葉で強調されます。
◆「お礼申し上げます」の例文
ご足労いただき、厚くお礼申し上げます。
深謝
強い感謝を表現するには「深謝」も有効です。文字通り「深い感謝」を意味します。何かの節目やお祝い事で「深謝」を使ってみましょう。
◆「深謝」の例文
お集まりいただき、深謝申し上げます。
拝謝
感謝を表現する言葉には「拝謝」もあります。「デジタル大辞泉」によれば「礼を言うことをへりくだっていう語」。目上の人に感謝を伝えるのに適しています。拝見が「見させていただく」なら、拝謝は「感謝させていただく」ということです。
◆「拝謝」の例文
お力添えに拝謝いたします。
恐れ入る
「恐れ入る」の意味は「相手の好意などに対して、ありがたいと思う。恐縮する」(デジタル大辞泉)。感謝だけでなく、申し訳ない気持ちがあるとき適した表現です。
「お引き受けいただき恐れ入ります」は、「引き受けてくれてありがたいが手間をかけて申し訳ない」というニュアンスになります。
◆「恐れ入る」の例文
お引き受けいただき恐れ入ります。
光栄
フォーマルな場面でよく使う「光栄」も、幸甚と置き換えられます。意味は「業績や行動をほめられたり、重要な役目を任されたりして、名誉に思うこと」(デジタル大辞泉)。職場で評価されたりなど、名誉を受けた感謝を伝えるときに適しています。
◆「光栄」の例文
ご招待いただき光栄に存じます。
幸甚には、こんなに多くの言い換えがあるのですね。これらの言葉と「幸甚」をあわせて覚えれば、あなたの語彙力は大きく拡大するでしょう。
「幸甚」と同じ漢字を使う言葉
「幸甚」と同じ漢字を使う言葉も見てみましょう。漢字が同じなら、意味も似ているのでしょうか?
射幸
射幸とは「偶然に得られる成功や利益を当てにすること」(デジタル大辞泉)。クジやギャンブルで当たりを期待する気持ちを「射幸心」と言います。射幸の "幸" は、幸甚と同じく「幸せ」という意味です。
◆「射幸」の例文
射幸心をあおられる。
寵幸
寵幸とは「特別にかわいがられること」(デジタル大辞泉)。寵愛と同じ意味です。文学作品で目にすることがあるかもしれません。
◆「寵幸」の例文
両親から寵幸を受ける。
行幸
行幸の意味は「天皇陛下が外出すること」。皇后陛下や皇太子殿下の外出は「行啓」、天皇皇后両陛下の外出は「行幸啓」と言います。
天皇陛下の外出に関しては「幸」の字がよく使われます。たとえば……
- 臨幸:天皇陛下が行幸し、到着する
- 巡幸:天皇陛下が各地を回る
- 潜幸:天皇陛下がひそかに行幸する
- 還幸:天皇陛下が行幸から戻る
激甚
激甚(げきじん)の意味は「非常にはげしいこと。はなはだしいこと」(デジタル大辞泉)。特に自然災害について、ニュースで使われることがあります。最近では、特別な支援が必要なほど被害の大きかった災害を「激甚災害」と言いますね。
◆「激甚」の例文
今回の台風は激甚災害に指定されそうだ。
深甚
深甚とは「はなはだしく深い」の意味。「精選版 日本国語大辞典」には「なみでないこと。奥深いこと」とあります。「甚深」も同じ意味です。
目にする機会は少ないでしょうが、フォーマルな場で使える表現として押さえておきましょう。
◆「深甚」の例文
深甚な同情を寄せる。
"幸" もしくは "甚" が使われている言葉を見てきました。知識どうしを関連づけることで、記憶は強固になります。「幸甚」とあわせて覚えてみてください。
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ここまで読めば「幸甚」の意味や使い方がよくわかったはず。ビジネスシーン・フォーマルシーンで、自信をもって使ってみてくださいね。
(参考)
マイナビウーマン|目上の人に使う場合の「助かります」の正しい敬語表現
コトバンク|欣幸
コトバンク|拝謝
コトバンク|恐れ入る
コトバンク|光栄
コトバンク|射幸
コトバンク|寵幸
コトバンク|激甚
コトバンク|深甚
【ライタープロフィール】
佐藤舜
大学で哲学を専攻し、人文科学系の読書経験が豊富。特に心理学や脳科学分野での執筆を得意としており、200本以上の執筆実績をもつ。幅広いリサーチ経験から記憶術・文章術のノウハウを獲得。「読者の知的好奇心を刺激できるライター」をモットーに、教養を広げるよう努めている。