
「本を読んでも、気づけば内容を忘れている」
「読んだはずなのに、仕事にうまく活かせない」
——そんな経験に心当たりのある人は、少なくないはずです。読書量を増やしても手応えを感じにくい理由のひとつは、本の「読み方」にあるのかもしれません。
そのヒントを与えてくれるのが、2023年WBCで侍ジャパンを14年ぶりの優勝に導いた元監督・栗山英樹氏の読書術です。栗山氏は哲学書からスポーツ論まで幅広く読み、読書で得た気づきや考えをノートに書き留める習慣があることで知られています。そうした読書やメモの習慣は、栗山氏の思考を支える土台になっていると考えていいでしょう。
本記事では、栗山氏の読書・メモに対する考え方と、実際の活用方法をご紹介します。
本は「答え」ではなく、考えるための道具
栗山氏は、著書『監督の財産』の冒頭でこう語っています。*1
私は野球界を支えてきた先達や、経営者そして歴史上の偉人……思考を突き詰め、何かを成し遂げた人たちの言動を知ることで、監督としてどうあるべきか、どうすればチームを勝たせる監督となれるのかを考えること──それはつまり「監督という仕事」──に邁進することができた。
本を読むとき、著名な人の考え方やノウハウを取り入れたい、効率的な仕事術を学びたいと「答え」を求める人は多いものです。しかし、栗山氏は違います。さまざまな本から得た情報を、チーム運営や戦略を練るための「材料」として使っていたのです。同氏は、人から直接話を聞くことと、本で文字として情報を得ることを比較し、それぞれのメリットをこう分析しています。*1
前者は口調、顔色、その時の雰囲気などを通して、伝え手(相手)の思いがはっきりとわかる。 一方で、本を通して知った言葉は、読み手(自分)にとってある意味「都合のいいように」解釈をすることができる。
対話では相手の意図が伝わりやすい一方、本では自分で解釈する余地が生まれます。その余地こそが、自分の仕事や考え方に活かすためのヒントになる。本を読んで「なるほど」で終わるのではなく、思考の道具として使いこなすことが大切なのです。
【実践】ビル・ゲイツの「攻めの読書術」を試してみた
迷いを書き出すことで、決断の精度を上げる
手書きのメモ習慣があることでも知られる栗山氏。小学生のころから「野球ノート」を続けており、そこには「日々の戦績、プレーの細かな振り返りに加え、監督として人間としての"哲学"」などがしたためられています。*2
それだけでなく、読んだ本の内容や感想、試合に負けた日の悔しさなども書き出しているそうです。目的は「思考の整理と記憶のため」。見聞や体験、そこから湧いた感情を文字として記録することで、「自分のものにしている」のだといいます。*3
読書や試合の経験から考えるだけでなく、書き出してデータとして蓄える。こうした蓄積が、栗山氏の思考や判断を支える土台になっているのかもしれません。 同氏は「書くこと」の効果について、こう語っています。*3
野球に限ったことではありませんが、何かの分野で上達する人というのは、自分で考え、調べて、行動できる人です。そして「書く」という作業にも、そうしたプロセスが組み込まれている。考え、ときに立ち止まり、本当にこれでいいのだろうかと悩み、違うアプローチを試してみる。そこには学びの一番大切な要素が詰まっていると僕は思います。
考えたことや体験したことを自分の言葉でまとめ、次の行動に生かす。そのトライアンドエラーの繰り返しが、ビジネスパーソンとしての着実な成長につながるはずです。
【図解】読書ノートの書き方3選。初心者でも簡単にできる!
栗山流の読書術を実践してみた
読書 × メモという栗山氏のスタイルを、筆者も実践してみることにしました。具体的な方法と、感じられた効果をご紹介します。
実践方法

※この画像は筆者が作成した
栗山氏は2022年に開催された「WATERRAS BOOK FES(ワテラスブックフェス)」というイベントで、自身の読書法を紹介しています。*4
そのポイントをまとめると、以下の4点になります。
- 本を読んで重要だと感じた部分に直接線を引く
- 2回以上は読み返す
- 線を引いた部分で大事なところをメモする
- 本の引用で出てくる書籍も読む
歴史書や哲学書、小説に伝記ものと、栗山氏の読書はジャンルを問わないようなので、今回筆者はエッセイを選んでみました。
はじめは紙の本に直接線を引くのに少し勇気が必要でしたが、思い切って実践。心に残った部分、重要だと思った部分、疑問を感じた箇所にも線を引いていきました。
ひと通り読み終えたら、もう一度ざっと読み返します。1回目と同じく、重要だと感じた部分には線を追加しました。その後、線を引いた部分を見返し、特に大切だと思ったところをノートに書き写します。このとき「なぜ重要だと感じたか」「何に活かせそうか」など、自分の感想も一緒に書き加えるのがポイントです。

※この画像は筆者が作成した
【効果】本で得たものを行動につなげられた
小説やエッセイを読むことが多い筆者にとって、読書はどちらかといえば趣味に近いものでした。しかし、栗山氏の読書術を試してみたところ、「読書=仕事の糧になるもの」という実感が強まりました。本の内容を「自分事」として捉え、アイデアや行動につなげることができたからです。
以前は「そんな考え方もあるんだな」と他人事で終わりがちでしたが、線を引いたりノートにメモをしたりすることを前提に読み進めると、「何が重要か」を意識しながら読むようになりました。
さらに、自分の考えや感想をメモとして残したことで、本で得た情報を実生活でどう活かすかが具体的になりました。筆者の場合は、読んだ内容をもとに仕事のアイデアを出したり、人のいいところに目を向けて人間関係の構築に活かしたりと、実際の行動に移すことができました。
読み返しやノートをとるぶん従来の読書より時間はかかりますが、本の内容を忘れることなく確実にアウトプットへつなげられるのがこの方法のメリットです。「いまいち読書の効果を実感できない」という人ほど、ぜひ試してみてほしいと思います。
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名将と称される栗山氏は、読書やメモを通じて思考を深めてきました。本の読み方を変えるだけで、思考や意思決定の質は着実に上がっていきます。普段から読書をしている人はもちろん、読書習慣がない人も、栗山氏のスタイルを入口に思考力のトレーニングを始めてみてはいかがでしょうか。
よくある質問
- Q. 栗山英樹氏はどのような読書法を実践していましたか?
- 本に直接線を引きながら読み、2回以上読み返したうえで重要箇所をノートに書き写す方法を実践していました。本の引用で出てくる書籍も積極的に読むのが特徴のひとつです。
- Q. 栗山氏がメモをとる目的は何ですか?
- 「思考の整理と記憶のため」とされています。読書の感想や試合の悔しさなど、見聞・体験・感情を文字として記録することで、それらを「自分のもの」にしていると語っています。
- Q. 栗山流の読書術はビジネスパーソンにも活かせますか?
- 活かせます。本の内容を「答え」として受け取るのではなく、思考の材料として使う姿勢は、仕事のアイデア創出や意思決定の質向上に直結します。線を引いてノートにまとめる習慣を取り入れるだけで、読書をアウトプットへつなげやすくなります。
*1 シンクロナス|栗山英樹の本心「監督の集大成本」最初に書いたこと
*2 PR TIMES STORY|WBC栗山監督の著書、『栗山ノート』はなぜ出版されたのか。編集者が振り返る制作秘話、名将の素顔
*3 PILOT|元プロ野球選手 / 侍ジャパン前監督 栗山 英樹 さん「文字の力を信じるから、自分の思いを僕は書く」
*4 YouTube|栗山英樹「グラブを本に持ちかえて-栗山流、読書術-」
藤真唯
大学では日本古典文学を専攻。現在も古典文学や近代文学を読み勉強中。効率のよい学び方にも関心が高く、日々情報収集に努めている。ライターとしては、仕事術・コミュニケーション術に関する執筆経験が豊富。丁寧なリサーチに基づいて分かりやすく伝えることを得意とする。