コスメは「数ヶ月で廃盤」が常識のはずだった——リップモンスターに何が起きているのか【新人さんのためのマーケティング講座 Season8 vol.3】

KATEリップモンスターが5年以上のロングセラーを続ける理由——「落ちない」機能がコスメをインフラに変えた

📘 新人さんのためのマーケティング講座 Season8

Season7では「なぜこの構造(仕組み)は崩れないのか」を20社の事例で深掘りしました。
Season8でも引き続き、現代のマーケティングの本質を事例で解き明かしていきます。

まだ過去のSeasonを読んでいない方は、そちらからどうぞ。
Season 1【全14回まとめ】|▶ Season 2【全15回まとめ】|▶ Season 3【全20回まとめ】|▶ Season 4【全20回まとめ】|▶ Season 5【準備中】|▶ Season 6【準備中】|▶ Season 7【準備中】

2026年5月23日、KATEの「リップモンスター」夏限定コレクション「#スプラッシュモンスター」が発売されました。EX-13「常夏の宝石」・EX-14「水面の光跡」の2色は、発売当日からSNSに「ついにゲット」「オンラインも完売」という投稿が溢れました。*1

発売から5年が経過した商品が、価格改定を経てもなお「見つけたら即買い」のプレミア価値を保ち続ける——数ヶ月で主役が入れ替わるコスメ業界で、なぜリップモンスターだけがこれほどのロングセラー構造を持てているのでしょうか。

「落ちない」という一点の機能が、コスメを「インフラ」に変える

リップモンスターが2021年3月にデビューしたのは、コロナ禍の真っ只中でした。街中のほぼ全員がマスクを着用し、口紅が売れない時代とされていました。*2

その環境で、KATEは逆張りを仕掛けました——「唇から蒸発する水分を活用して密着ジェル膜に変化させる独自技術」により、「マスクをしても、飲み物を飲んでも落ちにくい」という機能を提供したのです。*2

この「落ちない」という機能価値は、2026年にマスク着用が過去のものとなった現在でも少しも色褪せていません。むしろ強化されています——「1日会議が続いても血色が消えない」「食事を楽しんでもリップが崩れない」という需要は、マスク有無に関係なく普遍的に存在するからです。*3

競合が「今期のトレンドカラー」という感性で戦う中、リップモンスターは「落ちない」という理詰めのロジックで市場を制圧しました。コスメとしての機能が「インフラ」になった瞬間、商品寿命のルールが根本から変わります。

項目 従来のトレンドコスメ リップモンスター(KATE)
訴求の主軸 今期の流行・憧れのモデル 圧倒的な機能(落ちない)+遊び心あるネーミング
商品寿命 数ヶ月(次のシーズンで廃盤) 5年以上にわたり定番化(2026年も主役)
販促アプローチ メディア広告の大量投下 ファンの検証欲・所有欲を刺激するUGCの連鎖
2026年の価値 選択肢の一つ ポーチに1本入っていないと不安な「メイクのOS」

「欲望の塊」「誓いのルビー」というネーミングがSNS投稿の言語化フックになる——UGC永久機関の設計

「欲望の塊」「誓いのルビー」「常夏の宝石」——ネーミングとUGCが生む「永久機関」

リップモンスターのもう一つの核心が「UGCの永久機関」設計です。

「01 欲望の塊」「12 誓いのルビー」「03 陽炎」——これらの色名は、ただの識別番号ではありません。*3 「欲望の塊、ついにゲット」「誓いのルビーのレビューしてみた」——色名がそのまま投稿のタイトルになるように設計されているのです。コスメのネーミングがSNSの「言語化のフック」として機能する、精巧な設計です。

さらに「イエベ・ブルベ別全色レビュー」という投稿文化の定着も見逃せません。20色以上に及ぶカラーバリエーションが、パーソナルカラー別の比較コンテンツというUGCを自然発生させます。*3 これは広告費をかけずに「無限に生産されるコンテンツ」です。

そして「飢餓感のコントロール」が全体を引き締めます。KATE公式はWeb限定色の設定や、「#スプラッシュモンスター」「秘めた炎(数量限定再発売)」などの限定コレクションを定期的に投入します。*1 「全色をいつでも買えるようにしない」この絶妙な供給の絞り方が、「見つけたときに即買いしないと後悔する」という購買衝動を維持し続けます。

広告を打ち続けなくても、顧客のUGCが次の顧客の購買衝動を生む——このセルフ・バズのループが5年以上機能し続けていることが、リップモンスターの本当の強さです。

「機能の核」は変えず「語られ方」を季節ごとに更新する——リップモンスターに学ぶブランド耐久力の作り方

「圧倒的な機能の核」を一つ作り、その周りの見せ方を変え続ける

リップモンスターが教えるのは、ブランドの「耐久力」の作り方です。

「新しいトレンドを追いかけ続けなければ顧客に飽きられる」と、自転車操業になっていないでしょうか。コスメ業界は特に、この罠にはまりやすい市場です。毎シーズン新色を出し、毎年ブランドコンセプトを刷新し——そのサイクルは顧客への刺激であると同時に、ブランドの体力を消耗し続けます。

リップモンスターが示したのは別の方向性です。「落ちない」という圧倒的な機能の核(インフラ)を一つ作り、その周りの見せ方(限定感・ネーミング・シリーズ展開)を少しずつ変えていく。中身の技術は変えず、「語られ方」を季節ごとに更新する——これは、vol.2で見たアシックスの「ナラティブのデザイン」と本質的に同じ戦略です。

2026年のマーケティングは、ブームの波を次々と乗り換えることではありません。顧客の生活に深く根ざす「変わらない定番」を、飢餓感というスパイスで新鮮に保ち続けることです——リップモンスターの5年以上にわたるロングセラーが、その答えを体現しています。

飢餓感で定番を新鮮に保ち続ける——2026年コスメマーケティングの本質とリップモンスター5年の証明

 

【本記事のまとめ】

1. 「落ちない」という一点の機能がコスメを「インフラ」に変えた
コロナ禍の逆張りで生まれた「唇から蒸発する水分で密着ジェル膜を作る」独自技術が、マスク時代が終わっても「1日中血色をキープしたい」という普遍的な需要に支えられ続けている。機能が「インフラ化」した商品は、トレンドサイクルの外に出られる。

2. ネーミング×飢餓感×UGCが生む「永久機関」——広告費ゼロで回り続けるバズの設計
「欲望の塊」「誓いのルビー」という色名がSNS投稿の「言語化のフック」になり、イエベ・ブルベ別レビューというUGCが無限に生産される。Web限定色と限定コレクションの絶妙な供給コントロールが「見つけたら即買い」の飢餓感を持続させる。

3. 「圧倒的な機能の核」は変えずに「語られ方」を季節ごとに更新する——ブランドの耐久力の作り方
中身の技術は変えず、見せ方(限定感・ネーミング・シリーズ展開)を少しずつ変えていく。これはアシックスの「ナラティブのデザイン」と本質的に同じ戦略だ。ブームを追いかける自転車操業ではなく、定番を飢餓感で新鮮に保ち続けることが2026年のブランド戦略の核心だ。

よくある質問(FAQ)

リップモンスターはなぜコロナ禍に「落ちにくいリップ」を出すことができたのですか?

「コロナ禍でSNSで色の共有をしたい、という動機でメイクを楽しむ人がいる」というインサイトへの深い理解があったからです。KATE側は「人と会えない時代だからこそ、SNSで『この色かわいいよね!』と思わず発信したくなるきっかけを作りたい」という開発思想を持っていました。リップが売れないとされていた時代に逆張りしたのは、「マスクで隠れるから口紅は不要」ではなく「マスクをしていても色が落ちないなら、むしろ活躍する」という逆の発想から生まれています。

「UGC(ユーザー生成コンテンツ)」を自社のビジネスでも意図的に生み出せますか?

生み出せます。リップモンスターが示した設計原則は3つです。①「投稿したくなる言語化のフック」を作る(個性的な色名・商品名)。②「比較・検証したくなる選択肢の多さ」を用意する(20色以上のカラバリ)。③「手に入らないかもしれない」という適度な希少性を設計する(限定色・Web限定色)。この3つが揃うと、ユーザーが自然に「投稿したい」「収集したい」「共有したい」という動機を持ちます。食品・アパレル・サービス業問わず応用できる原則です。

価格改定(値上げ)はブランドに悪影響を与えませんでしたか?

2026年4月21日の価格改定(原料価格高騰による)後も、5月の「#スプラッシュモンスター」が即完売するほどの人気を維持しています。これはリップモンスターが「価格で選ばれている商品ではない」ことを示しています。「落ちない」という機能価値への信頼と「このシリーズが好き」というブランドへの愛着が積み上がっているため、数百円の値上げが購買離れにつながりにくい構造です。機能インフラ化した商品は、適切な価格改定に対して一定の耐性を持ちます。

(参考)

*1|KATE公式「LIP MONSTER PICK UP」。「#スプラッシュモンスター」という2026年夏限定コレクション名の公式使用・2026年4月21日の価格改定(原料価格高騰による)・Web限定色の設定・「秘めた炎」数量限定再発売などの限定コレクション投入戦略・シリーズ5種(リップモンスター・ツヤバース・スフレマット・クリアトーン・クリスタルポッド)の展開を確認
*2|MAQUIA「KATEのリップモンスター 人気の5種42本を全色スウォッチ!」(2026年)。2021年3月デビュー・コロナ禍のマスク全盛期に「SNSで色の共有をしたい」という開発思想・唇から蒸発する水分を活用して密着ジェル膜に変化する独自技術・「マスクをしても、飲み物を飲んでも落ちにくい」という機能価値・2026年3月時点で全5種の展開を確認
*3|MAQUIA「リップモンスターの人気色ランキングTOP5」(2026年)。2026年現時点で20色まで拡大したカラーバリエーション・「01 欲望の塊」「12 誓いのルビー」「03 陽炎」などの個性的な色名がSNS投稿の言語化フックになっている構造・「イエベ・ブルベ別」という比較UGC文化の定着・「1000円台で購入できるプチプライスも人気の理由」を確認

▼ 新人さんのためのマーケティング講座 Season8

現代のマーケティングの本質を事例で深掘りしていきます。

Season1(全14回)はこちら

Season2(全15回)はこちら

Season3(全20回)はこちら

Season4(全20回)はこちら

▶ Season 5〜7【準備中】

【プロフィール】
岡 健作(おか・けんさく)

株式会社新恵社代表取締役/スタディーハッカー(現(株)イングリッシュカンパニー) 創業者。
1977年生まれ、福岡出身。同志社大学卒業。2010年に創業。「Study Smart(合理的に学ぶ)」をコンセプトに、科学的知見に基づく英語パーソナルジム「ENGLISH COMPANY」を設立し、人気ブランドへと成長させる。 事業拡大の要として、自らオウンドメディアとSNSの編集長を兼任。オウンドメディアは最大500万PV、Instagramでは月間700万PV、フォロワー27万人規模のメディアにするなど、広告費に依存しない集客モデルを確立する。現在はその知見を活かし、「企業の認知獲得の専門家」として、論理とデータに基づいた再現性の高いメディア戦略・ブランディング論を発信している。
X→@oka_kgs / Instagram→@oka_ken2010 / 著書(amazon)