
「1on1で部下の話を聞こうと決めたのに、気づけば自分ばかり話している」
「言葉を選んでいる相手に、つい『つまり、こういうこと?』と先回りしてしまう」
「『傾聴が大事』とわかっているのに、つい口を挟んでしまう」
対話型ワークショップを通じて組織開発を支援している私たち KURUMAZA が、現場のマネージャーから一番多く打ち明けられるのが、じつはこの「聞けない自分」への引っかかりです。
頭ではわかっている。それでもできない。やがて「自分はマネージャーに向いていないのでは」と落ち込んでしまう——。
でも、ちょっと考えてみてください。あなたはこれまで現場で結果を出し、難しい局面を切り抜け、複雑な利害を調整してきた。だからこそマネージャーという役割を任されている。それは、まぎれもなくあなたの実力で勝ち取ってきたものです。
聞けないのは、その実力が足りないからではありません。むしろ、これまで自分を引き上げてきた力の使いどころが、いま少しだけずれている——それだけのことです。だから新しい才能を獲得する必要はありません。すでに持っている武器を、向ける先を変えるだけ。それだけで、あなたは部下を育てるマネージャーへと、もう一歩進むことができます。
前回までの記事では、上司と部下のあいだに生じる「ズレ」と、それを話題にできる「聞ける環境」のつくり方をお伝えしてきました。今回はその先の話。1on1や会議の場で、最後まで聞けるようになるための「時間の使い方」について、タイワマンと一緒に見ていきましょう。
取材・文/STUDY HACKER編集部
【プロフィール】
KURUMAZA(くるまざ)
KURUMAZAは、車座になって対話する機会を提供し、関係性に変化を起こし課題を解決しながら組織力強化を図る会社です。人間関係によって生じているチーム内の問題を完全オーダーメイド型のワークショップによって解決します。
そもそも、人は人の話を聞いていない
研究によると、会話中、人の意識はおよそ24%の時間、目の前の会話から離れてさまよっているといいます(ハーバード・ビジネス・スクールのアリソン・ウッド・ブルックスらの研究)*1。さらに興味深いのは、話している側はそのズレに気づけない、という点です。聞き手の意識が4分の1も散っていたとしても、表情のうえでは「聞いている/聞いてもらえている」というやり取りが、なんとなく成立してしまう。
そして散っているのは聞き手だけではありません。話している側もまた、しゃべりながら別のことが気になっている。要するに、お互いに意識があちこちに散ったまま、対話はなんとなく成り立ってしまっているのです。
そこに、もうひとつ加わるのが頭の回転の速さです。相手が話し始めて3割ほど聞いたところで、もう先が読めてしまう。「ああ、そういうことか」と結論まで到達する。すると、その時点でもう自分の頭は次のステップに進んでいて、「つまりこういうことだよね」と先回りして口を挟みたくなる。仕事ができるからこそ、最後まで聞けないのです。
聞けないのは、あなたの能力が足りないからではありません。
むしろ、これまでマネージャーとしてのあなたを支えてきた頭の回転の速さこそが、いま、聞くことを邪魔しているのです。
能力の不足ではなく、能力が高いからこそ起きていることです。だから、気合や根性で「最後まで聞こう」と頑張っても、聞けるようにはなりません。聞けない自分を責める必要も、まったくありません。
「聞けないのは、君がダメだからじゃないんだよ。むしろ、ここまで結果を出してきた君の状況把握のスピード、判断力の早さの裏返しなんだ。それは君の財産。だから抑え込まないで、そのスピードがあることを前提に"場"のほうを組み立てる——そのほうが、ずっと君らしいやり方なんだよね」

「我慢して聞く」をやめ、「場」を設計する
「部下に媚びるように、我慢して聞いてあげる」——傾聴をそう捉えているとしたら、いったん脇に置いてしまいましょう。そもそも、あなたの仕事は部下に気を遣うことではなく、部下を育てることです。主導権を相手に渡しきって、ただ受け止める役に回ることではない。部下の状況把握力を引き上げ、誤った方向に進みそうなときには修正をかけ、正しい方向へと導いていく——それがマネージャーに求められている責務であり、あなたにはそれができると会社は判断したのです。
必要なのは、上司側が主導権を握りながら、部下が自分の頭で考え、本音を出し、応えるべき問いに向き合える「場」をつくること。部下に媚びるのとも、ただ我慢して聞くのとも違う、能動的な設計の話です。
そして、その設計はあなたにとって、まったく新しい作業ではないはずです。あなたが日々やっている「場をデザインし、盤面をコントロールする」——その同じ力を、部下を育てる対話の場に向ければいい。傾聴は、性格の問題から、設計の問題に変わります。
「聞ける上司になる」のではなく、「部下が育つ場をつくる」。
傾聴を性格の問題から設計の問題に切り替えた瞬間、それはあなたが手にできる、部下を育てる確かな武器になります。
前回お伝えした「聞ける環境のつくり方」は、対話に入る前段の設計でした。「なぜ聞くのか」を共有しておく、上司が先に自己開示する、答えない自由を約束する——どれも、対話の外側を整える話でした。
今回お伝えするのは、対話が始まったあとの、時間の使い方です。あなた自身が口を挟まずに済むよう、どう場の時間を組み立てておくか。2つの技を紹介します。
「設計の対象を、部下の状態にまで広げてみて。会議の段取りを組むのと同じように、対話の段取りも組める。意外と、難しいことじゃないんだよね」
聞ける場をつくる、2つの時間の技
1|相づちを、1秒だけ遅らせる
頭の回転が速い人ほどやってしまいがちなことがあります。相手の話が一段落した瞬間に、間髪入れず「ああ、そういうことか」「つまり〇〇ということだね」と素早く相づちを打ってしまうことです。
本人としては、丁寧に受け止めているつもりです。理解の早さを示しているつもりでもある。でも、その素早さこそが、相手から「もう少し話してもいいかな」という空気を奪っています。
意識的にやってほしいのは、結論が見えても、相づちを1秒ほど遅らせることです。
部下が話し終えたあと、すぐに反応せず、ほんの一拍だけ間を取る。そして「……なるほど」とゆっくり相づちを打つ。「ああ、そういうことか」と言いたい衝動は、その一拍のあいだ、自分のなかにとどめておく。
反応を1秒遅らせるだけで、相手には「ちゃんと聞いてもらえている」というサインが届きます。
そして相手は、「まだ続けていい」と感じ、表に出していなかった本音や考えを言葉にしはじめます。
これは「アクティブリスニング」と呼ばれる聞き方の、もっとも基本にあるものです。じつは「話すこと」は、脳にとっての一種の報酬。美味しいものを食べたり、好きなものを手に入れたりするのと同じ系統で脳が活性化するので、人は相手の話を聞くより、自分の話に切り替えたくなる。意志の弱さではなく、脳の標準仕様です。
だからこそ、その本能を、ほんの少しだけ前頭葉でこらえる。気合で「最後まで聞こう」とするより、はるかに洗練されたコントロールです。たった1秒、自分のなかにある「話したい」をホールドできるかどうか。たった1秒の話ですが、この1秒が、対話の空気をはっきりと変えます。

「答えがわかった瞬間に言いたくなるのは、回転が速い人の宿命だよね。でも、その1秒を待てるかどうかで、部下があと一歩自分の頭で踏み込めるかどうかが変わるんだ。1秒だけ、自分の答えを後ろにずらしてみて——その1秒で、部下は育つよ」
2|「オウム返し」で、相手の言葉をそのまま返す
もうひとつは、もう少し具体的なテクニックです。相手の話に反応するとき、要約したり言い換えたりせず、相手が使ったキーワードをそのまま返す。「オウム返し」とも呼ばれる聞き方です。
たとえば部下が「最近、ちょっと悩んでるんですよ」と言ったとします。このとき、つい「困ってるんですね」と別の言葉に言い換えてしまいたくなる。でも、そう返した瞬間に、部下のなかでは「いや、困ってるってわけじゃなくて、悩んでるんですけど……」という小さな違和感が生まれます。
そこで、こう返してみてください。
「悩んでるんですね」
たったこれだけです。でも、相手が選んだ言葉をそのまま返されると、人は「ちゃんと受け取ってもらえた」と感じます。要約や言い換えは、聞き手の解釈が一段入る分、必ずどこかでズレが生じる。相手の言葉のまま返すことには、そのズレがありません。
そしてオウム返しは、頭の回転が速い人にとっての練習にもなります。言い換えようとすると、自分の頭で先に処理してしまい、つい「ああ、そういうことか」が出てしまう。でも、相手の言葉をそのまま返すだけなら、自分の解釈を先回りさせる余地がない。結果として、相手の話により長くとどまることができます。
ただし、相手の発言すべてにオウム返ししていると、さすがに不自然です。コツは、相手が選んだ印象的な言葉、感情のこもった言葉に絞って返すこと。「悩んでる」「迷ってる」「悔しかった」のような、相手の内側の状態を表す言葉ほど、そのまま返したときに相手の表情が変わります。
「言い換えって、聞き手の優秀さの自己主張になっちゃうことがあるんだよね。相手の言葉のままを返す——これだけで、部下のなかに『この人なら自分の本当のところまで話していい』っていう信頼が積み上がっていくんだよ」

☕ ちょっとしたコラム|「斜めに座る」だけで、空気が変わる
時間の使い方とは別の、ささやかなコツも紹介しておきます。それは、1on1のときに正面で向き合うのをやめて、少し斜めに座ってみること。机を挟んで向かい合うと、どうしても「上司 vs 部下」の構図になります。これを横並びや斜め45度に変えるだけで、視線がぶつからなくなり、ふたりで同じ方向を見ながら話す感覚が生まれる。話すテーマを書き出した1枚の紙を、ふたりで覗き込むようにするのもおすすめです。「あなたを評価する場」から「一緒に考える場」へ——配置を少し変えるだけで、対話の温度が変わります。
「段取りの力」を、部下を育てる場に向ける
今回ご紹介した2つの技は、どちらも、あなたがこれまで培ってきた「段取りの力」「設計の力」を、そのまま転用するだけです。
相づちを1秒遅らせて、相手に余白を返す。言い換えずに、相手の言葉のまま受け取る。性格を変える話でも、努力で克服する話でもありません。場の時間をどう使うか、という設計の話です。
そしてこの設計は、部下に媚びるためでも、ご機嫌をとるためでもありません。部下が自分の頭で状況を捉え直し、自分の言葉で本音を出せるようになる——その部下の成長を引き出すためのものです。マネージャーであるあなたが本来やるべき、部下を育てる仕事の、もっとも本質的な部分にあたります。
連載の流れも、ここで一度整理しておきます。1回目は、上司と部下のあいだに必ず生じる「ズレ」に気づくこと。2回目は、そのズレを話題にできる「聞ける環境」を、日常の中でつくっておくこと。そして今回は、その環境のうえで、1on1や会議の「時間」をどう設計するか。
3つに共通しているのは、ひとつのメッセージです。対話のうまさは、生まれ持った性格ではない。再現性のある技術であり、なにより「場の設計」である。
「部下に媚びる必要も、我慢して聞く必要もないんだよ。同じ力を、部下が育つ場のほうに向けてみて——きっと、部下のほうから動きはじめるよ」
明日の1on1から、ひとつだけ試してみてください。部下の話が終わっても、1秒、待つ。そして部下が選んだ言葉を、そのまま返してみる。
難しいのは新しい技を覚えることではなく、すでに持っている力を、こんなにささやかなところに向けてみることのほう。むしろそこにこそ、部下を育てるマネージャーの本領が宿るのかもしれません。
タイワマンと一緒に、不器用でも誠実に。あなたの職場の対話が、意志力ではなく仕組みで回りはじめますように。
よくある質問(FAQ)
Q1. 「相づちを1秒遅らせる」を意識すると、わざとらしくなりませんか?
最初は少し意識的になりますが、わざとらしさはほとんど相手には伝わりません。むしろ伝わるのは、「ちゃんと受け止めようとしてくれている」という空気のほうです。慣れてくると、自然と一拍待てるようになり、意識せずに使えるテンポになっていきます。
Q2. それでも、つい途中で口を挟んでしまいます。どうすればいいですか?
口を挟みたくなったら、その内容をメモの端に一行だけ書き留めてみてください。「あとで言える」とわかった瞬間に、いま割り込まなければという焦りはほどけます。話が一段落したタイミングで、メモを見ながら質問や補足に変えて渡せばいい。割り込みを「ためる場所」を物理的に用意しておくのが、確実な方法です。
Q3. 部下が話している途中で、明らかに事実誤認している場合も、最後まで聞くべきですか?
はい、基本的には最後まで聞いて構いません。途中で訂正すると、部下は「結論を否定された」という体験のほうを強く記憶してしまい、そのあとの話の質が落ちます。話が終わったあと「ひとつだけ確認させて、〇〇の件は私の理解だと△△だと思うんだけど、認識合ってる?」と、訂正ではなく確認の形で渡すと、部下も冷静に受け取れます。
Q4. 1on1だけでなく、複数人の会議でも同じ方法は使えますか?
使えます。むしろ会議のほうが効きやすい場面もあります。誰かの発言が終わるたびに、上司がすぐ反応せず一拍置くだけで、メンバー同士の議論が自然と続いていく。上司が早めに口を挟む会議ほど、メンバーは上司の顔色を見て発言を控えるようになるので、構造的に同じ問題です。
*1 Collins, H. K., Minson, J. A., Kristal, A., & Brooks, A. W. (2024). Conveying and Detecting Listening During Live Conversation. Journal of Experimental Psychology: General.
岡 健作(おか・けんさく)
株式会社新恵社 代表取締役/株式会社スタディーハッカー創業者。1977年生まれ、福岡出身。2014年、メディア「STUDY HACKER」を立ち上げ。以後運営に携わる。
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