なぜ『好きかも』の段階が一番ドキドキするのか? 脳科学的に考えてみた。

恋している人の脳科学的な視点

誰もが経験したことがあるだろう。好きな人からのLINEを待っているときの、あの胸の高鳴り。「もしかして自分のことを好きになってくれるかも」と期待しているときの、あの特別な興奮。

不思議なことに、実際に付き合ってしばらく経つと、あの激しいドキドキ感はどこかへ消えてしまう。安定はしているけれど、片思いの頃のような燃えるような気持ちは薄れていく。

「恋愛は慣れてしまうもの」と諦めている人も多いかもしれません。でも、この現象には実は科学的な理由があったのです。

快楽物質という大きな誤解

その答えは、「ドーパミン」という脳内物質にありました。

ドーパミンと聞くと、多くの人が「快楽物質」「幸せホルモン」を想像するでしょう。しかし、スタンフォード大学医学部の神経生物学准教授、Andrew Huberman氏の研究によると、それは誤解です。

ドーパミンの基本的な役割は、「まだ手に入れていないものへの渇望」を生み出すこと。そして最も重要な発見は、ドーパミンが「報酬を期待している段階」で放出され、目標達成へのエネルギーを与えることでした。*1

つまり、実際に欲しいものを手に入れた瞬間ではなく、「手に入るかもしれない」と期待しているときにこそ、脳は最も活発に働いているのです。

片思いが最高に楽しい科学的理由

この発見で、「恋愛の謎」が一気に解けました。

じつは、人類学者のHelen Fisher氏らが、恋する人々の脳をfMRIでスキャンするという画期的な研究を行なっています。その結果、恋に落ちた人の脳では、右腹側被蓋野(VTA)と右尾状核というドーパミンが豊富な報酬・動機システム――いわゆる「ドーパミン工場」が活性化していることがわかったのです。*2

考えてみてください。

片思いの時期は、すべてが「もしかして……?」という期待に満ちています。相手からのちょっとした優しさも「脈ありかも」と解釈し、偶然の出会いも「運命かも」と特別な意味を見出してしまう。LINEの返事を待つ間、「何て返ってくるだろう」とドキドキしながら画面を見つめる。

これらすべてが、脳内でドーパミンを大量放出させる引き金だったのです。不確実だからこそ、期待できるからこそ、あれほど興奮し、集中力が高まったということです。

ドーパミンが関与する報酬回路の中枢モデル

付き合ってから冷める理由

では、なぜ付き合ってしばらく経つと、あの興奮は薄れてしまうのでしょうか。

答えは明快。不確実なほどドーパミンが増え、確実性が増すほどドーパミンが減少するからです。

分子生物学の専門知識をもつ、Pacific Neuroscience Instituteマーケティング・コミュニケーション部門ディレクターのZara Jethani氏によると――初期の情熱的な恋愛では、ドーパミンとノルエピネフリンが高レベルで興奮とエネルギーを生み出します。*3

ジョージタウン大学医学部教授のThomas Sherman氏も、恋愛初期は不確実性がコルチゾールを上昇させ、意識を高めると指摘(いわゆる神経が研ぎ澄まされた状態)。*4

しかし――

恋愛関係も時間が経つと、オキシトシンとバソプレシンという別の物質が主流となり、より深いつながりと安定感をもたらすように変化するといいます(Jethani氏)。*3

前出のHuberman氏も、ドーパミンは報酬を期待して放出され、報酬を受け取ると基準値に戻ると説いています。*1

つまり、脳は最初から「短期的な興奮」から「長期的な絆」へと切り替わるように設計されているのです。

意外な共通点:恋愛もメルカリも同じ仕組み!?

おもしろいことに、この「期待段階が最も楽しい」という現象は、恋愛以外でも観察できます。

たとえば、メルカリに商品を出品する状況を考えてみてください。写真を撮り、説明文を書きながら「これなら売れるかも」と期待している段階が、意外と楽しく感じられませんか? 実際に売れたときの喜びも束の間で、また次の商品を出品したくなる……。

宝くじを買う瞬間、ガチャを回す直前、面接の結果待ち、株価が上がりそうな銘柄を見つけたとき。すべて「手に入るかもしれない」という期待段階で、私たちの脳は最も活発に働いているのです。

期待に胸を膨らませてパソコンを見るビジネスパーソン

長続きする恋愛の秘訣

では、どうすれば長期間にわたって恋愛の興奮を保てるのでしょうか。

鍵は、適度な不確実性を意図的に保つことです。たまには連絡頻度を変えてみたり、予想外のサプライズを仕掛けてみたり。

相手を「完全に理解した」と思った瞬間、期待は生まれなくなってしまいます。

束縛しすぎて不確実性をゼロにしてしまう、すべてをルーティン化して予測可能にしてしまうのは、逆効果だと言えるでしょう。

また、前出のHelen Fisher氏の研究では、長期関係でも――

定期的な身体的接触でオキシトシン系を活性化し、一緒に新しい活動を経験してドーパミン系を刺激し、パートナーへの賞賛でストレスホルモンを減少させることで、深い愛着と恋愛感情の両方を維持できるとしています。*5

失恋からの回復も科学で説明できる

コロラド大学ボルダー校のプレーリーハタネズミを用いた研究では、さらに興味深い発見がありました。

長期間の別れのあと、元パートナーへの欲望の痕跡が消え去り(ドーパミン反応が弱まり)、脳が新しい絆を形成できるよう「リセット」されることがわかったのです。*6

これは、失恋からの回復にも科学的な裏付けがあることを意味します。時間が経てば、脳は自然と新しい恋愛に向けて準備を整えてくれるでしょう。

期待することの価値

結局のところ、恋愛の醍醐味は「不確実な期待」にありました。「手に入れること」より「手に入れるかもしれない」という状態こそが、脳にとって最高の報酬だったのです。

これは恋愛に限った話ではありません。人生を豊かにするコツは、常に適度な期待を持ち続けること。新しいチャレンジ、将来への希望、小さな楽しみ――そうした「もしかして……?」という気持ちこそが、私たちを前向きに行動させる原動力になっているのです。

次に誰かを好きになったとき、あの胸の高鳴りを感じたときは、思い出してみてください。あなたの脳はいま、最も活発に、最も幸せに働いているのだと。

そして、その期待している時間そのものが、じつは人生で最も価値ある瞬間のひとつなのかもしれません。

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