無駄な仕事をやめる突破口となるのは、仕事を「貢献」としてとらえる視点だ

澤円さん「仕事を貢献としてとらえる視点」01

「日本の企業には無駄な会議が多すぎる」「無駄な会議はいますぐやめるべきだ」——。これらは、ビジネス書などで頻繁に指摘されること。しかし、「会議に出ないようにするのは、会社員としては難しい……」と思っている人も多いのが現実です。

そんな人たちに向けて、「実際に無駄な会議に出ないようにしたことがありますか?」と問いかけるのは、著書『「やめる」という選択』(日経BP)を上梓した株式会社圓窓代表取締役の澤円(さわ・まどか)さん。澤さんは、仕事における無駄を省くには、仕事を「貢献」ととらえることが重要だと説きます。

写真/在本彌生

「貢献」を軸に、仕事の重要度を意識する

勉強熱心なビジネスパーソンなら、「埋没コスト」という言葉を聞いたことがあるかもしれませんね。埋没コストとは、「ある経済行為(投資、生産、消費など)に支出した固定費のうち、どんな意思決定(中止、撤退、白紙化など)をしても回収できない費用」のこと。加えて、回収できなくなった資金や労力、時間を惜しむがゆえにその経済行為を続けてしまい、より大きな損失を被る可能性も秘めています。

もちろんこの埋没コストは企業にとって大きな問題ですが、じつは個人にとっても大きな問題になりえます。

そんな問題を招かないためには、普段の仕事から具体的に「やめる」ことに取り組んでいく姿勢が大切です。まずお伝えしたいのは、仕事を「貢献」としてとらえる視点の大切さです。仕事は自分が成長したり、目標を達成したりするために行なう面がありますが、同時に所属する組織や社会に対して貢献するためにも行ないます。

そこで、自分が最も得意なことや好きなことを通じて、「みんなのために貢献する」視点をもつことが、無駄な仕事をやめる突破口になります。逆に言えば、自分があまり貢献できていないと感じる仕事をやめる決断をするのが、まわりにとってもいい影響を与えるということです。

たとえば会議を例にしてみましょう。自分がほとんど発言しない会議や、出席だけが目的になっている会議は、時間とエネルギーの無駄の典型なので、できる限りやめる決断をしてみてください。「これまでずっと出ていたから」という理由なら、それはまさに埋没コスト化している状態だからです。

僕がこう言うと、「実際に会議に出ないようにするのは、上司の手前上、会社員にとってはかなり難しいよ」とよく言われます。でも、考えてみてください。ただ単に「無駄な会議には出るな」と言っているのではなく、自分がいる意味がない会議をやめれば、そのぶんの時間が浮きます。その浮いた時間で、別の価値あるものを会社に提供して貢献すればいいのです。

業種ごとに仕事のスタイルは異なりますが、たとえば1時間の会議に出ることをやめて、前後の1時間とくっつければ、2時間のまとまった時間をデザインすることはできるでしょう。すると、集中できる2時間を活用して何かを生み出すことができるはずです。

多くの人が「いいね!」と思えるような小さな仕組みをつくるのでもいいし、有用なレポートをつくって上司に出してもいい。その時間で営業をかけて、重要な案件をとってくるのでもいいでしょう。とにかく多くの人が喜ぶ何かを生み出すために、その2時間を割り当てると決めて実行すれば、逆に印象もよくなります

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自分の貢献を評価されないなら、転職を考えてもいい

主体的に時間を生み出せば効率よく活用できるし、結果だってついて来るので、仕事がどんどんおもしろくなっていくと思います。あくまで自分が最も貢献できるものを優先し、より多くのものを生み出すために、無駄なものを「やめる」思考をもってほしいのです。

それでも、「そうは言っても、それは会社にもよるし、普通はなかなか認められないよ」と思う人もいると思います。そんな人に僕が問いたいことは、「実際にやってみたことがありますか?」ということ。あるいは、「いま会社に何が足りなくて、それに対して自分がどう貢献できるかを、考えたことがありますか?」ということです。

これは残念なことですが、やらない言い訳のために、「そんな勝手な振る舞いは許されないよ」と言う人を、これまでたくさん見てきました。もし僕があなたの上司なら、自分で出ない会議を決めて、そのぶん質の高いレポートでも出してくれば、むしろ「いいじゃん!」と高評価です。ですが、ルールや慣習によらないものを評価できない管理職の人たちが、残念ながらたくさんいるようです。

ならば、自分の主体的な取り組みを、自分の今後の選択肢を考えるための材料にすればいいのです。もし自分が貢献できることを評価されないのなら、それこそ転職を考えてもいいではありませんか。そんな場所にいても意味がないと、自分自身に納得させる機会になるかもしれません。

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「優先順位」はあらかじめ決めておく

僕は以前マイクロソフト社で働いていたのですが、そのときは社内のミーティングよりも、常に顧客との面談を優先順位の上位に置いていました。これはチーム全員のコンセンサスであったので、社内の会議に出ないことで責められることはまったくありませんでした。

「顧客とのアポが入っています」「この時間はイベントなんです」と言うと、「そうなんだ」「お客さんに会うの? じゃあいいよ」と、それだけで済んだのです。要するに、会議の優先順位がはっきりしていて、顧客とのアポやお金を生み出す用事、価値創造につながる行動であれば、常に会議よりも高い優先順位であったのです。

ぜひみなさんも、自分なりに会議の優先順位を決めてみてください。僕がはっきり言えるのは、トランプのカードをイメージするなら、「内部の用事は絵札になりえない」ということです。

そのためにも、上司に会議を避けていると思わせないように、あえて大事なアポイントメントを会議の時間に充てるような方法も戦略としてはありです。もちろん限界があるので、しっかり上司に伝えたほうがいいですが、自分なりの「絵札」が来たら必ず会議のほうをやめるとみなすのがいいでしょう。

その場その場で考えるのではなく、「自分が価値を創造できることや、会社の外側に力点があるものはすべて絵札にする」と自分の基準であらかじめ決めておけば、決断と仕事のスピードがどんどん上がっていきます。

ちなみに僕は、家族の用事も「絵札」としていました。家族の都合で仕事に穴を開けるのはなんとなく責められる風潮がありますが、その感覚はかなりおかしいと思うのです。自分と大切な家族の「人生の時間」を念頭に置けば、家族の用事は完全なる絵札であり、それに比べればグループの定例会議や部署の飲み会は、僕に言わせるとクラブの3程度のものです。社長が出てくる会議でもダイヤの7、社長の個別面談ならスペードの10くらいのイメージで働いていました。社長が関わる要件ですら、絵札にはなりえないととらえていたのです。

人によって差はあると思いますが、自分のありたい優先順位をあらかじめ決めておくと判断が楽になり、効率も上がって、仕事の生産性がどんどん高まっていきます。いまはオンラインであっても不必要な会議などを入れて時間を奪いにくる上司がいると聞きますが、自分の人生を守るためにもそんな関係はすぐに解消してしまいましょう。

澤円さん「仕事を貢献としてとらえる視点」04

※今コラムは、澤円 著『「やめる」という選択』(日経BP)をアレンジしたものです。

【『「やめる」という選択』より ほかの記事はこちら】
仕事ができる人は「やめることをすぐ決められる」。やめる決断をするための最重要マインドセット
いまの自分の時間を費やす価値がない……。もうやめていい人間関係は、こう見極める

【プロフィール】
澤円(さわ・まどか)
1969年生まれ、千葉県出身。元日本マイクロソフト業務執行役員。株式会社圓窓代表取締役。立教大学経済学部卒業後、生命保険会社のIT子会社を経て1997年にマイクロソフト(現・日本マイクロソフト)に入社。情報コンサルタント、プリセールスSE、競合対策専門営業チームマネージャー、クラウドプラットフォーム営業本部長などを歴任し、2011年にマイクロソフトテクノロジーセンターセンター長に就任。業務執行役員を経て、2020年に退社。2006年には、世界中のマイクロソフト社員のなかで卓越した社員にのみビル・ゲイツ氏が授与する「Chairman’s Award」を受賞した。現在は、自身の法人の代表を務めながら、琉球大学客員教授、武蔵野大学専任教員の他にも、スタートアップ企業の顧問やNPOのメンター、またはセミナー・講演活動を行うなど幅広く活躍中。2020年3月より、日立製作所の「Lumada Innovation Evangelist」としての活動も開始。著書に『マイクロソフト伝説マネジャーの世界No.1プレゼン術』(ダイヤモンド社)、『個人力 やりたいことにわがままになるニューノーマルの働き方』(プレジデント社)、『「疑う」からはじめる。これからの時代を生き抜く思考・行動の源泉』(アスコム)、伊藤羊一氏との共著に『未来を創るプレゼン 最高の「表現力」と「伝え方」』(プレジデント社)。監修に『Study Hack! 最速で「本当に使えるビジネススキル」を手に入れる』(KADOKAWA)などがある。

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