AI技術の急速な進化と普及、働き方の多様化など……。あらゆる物事の変化が激しいいまの時代、これまでに培った知識やスキルが、かえって視野を狭める原因になってしまうことがあります。
こんな違和感を覚えたことはないでしょうか。
- 「いままでのやり方が、もう通用しない気がする……」
- 「もしかして、この考え方ってもう古いの……?」
こうした壁を乗り越えるヒントは何か……。
それは、学びを振り返って成長につなげるアンラーン(学びほぐし)と、それを助ける「水平方向のコンセプトマップ」です。
平たく言えば、自分を自分で見渡して、いらない考えは思いきって手放してしまうのです。本記事では、筆者の実践とともにその具体的な方法をご紹介します。
「コンセプトマップ」がアンラーンを助けるワケ
アンラーン(Unlearn)は「これまでに学んだ知識や身につけた技術を振り返り、さらなる学びや成長につながる形に整理し直すプロセス」を意味します。つまり、「これまでに身につけた思考のクセを取り除く」ことだといいます。*1
いまアンラーンが必要とされるのは、時代の変化に合わせて柔軟に考え、行動するため。
各分野で説明すると、こんな具合です。
- IT分野:古いプログラミング技術(HTML/CSS)に固執せず、Reactなどの最新フレームワークを柔軟に学び直す。
- マーケティング分野:従来の広告手法に頼るのではなく、SNSやデータ分析を活用したデジタルマーケティングに切り替える。
- 経営分野:過去の成功体験にとらわれず、市場の変化に合わせて新しいビジネスモデルを構築する。
スキルやビジネス戦略だけでなく、私たちの思考や判断の根底にある「前提」そのものを見直すことも重要です。
たとえば、以下のようなこと。
「新人は厳しく育てるべき」「意見を言うより空気を読むほうが大事」といった考え方は、過去の職場文化で当たり前とされてきた価値観
こうした前提が、いまの時代では成長を妨げる壁となってしまうのです。
そこで、その「思考の前提」に気づく助けになるのが「コンセプトマップ」です。
なかでも、記憶力日本選手権大会6回の最多優勝者の池田義博氏が紹介している水平方向のコンセプトマップは、ひとつのテーマから自由に連想を広げていくスタイル。*2
いま現在の思考の流れや、無意識に抱えている価値観を自然に引き出すのに最適なはずです。自分の思考パターンを俯瞰し、古い枠組みから一歩抜け出すことに役立つでしょう。
思考ほぐしを「コンセプトマップ」でやってみた
じつは、大きな変化の波のなかで、筆者自身も行き詰まりを感じていました。
従来の価値観や成功の定義にとらわれたままでは、現代のライフスタイルに合った働き方や生き方のバランスを見いだせない——そう実感したのです。
このような状況を打開するには、やはり自分のなかにある無意識の思い込みや、優先順位の前提そのものを見直すことが必要です。
そこで筆者も、水平方向のコンセプトマップを活用することにしました。
手順は、池田義博氏著『世界記憶力選手権グランドマスターの 驚くほど簡単な記憶法 』(日本能率協会マネジメントセンター, 2022)の説明を参考にします。*2
では、さっそく始めましょう
【ステップ1】テーマを決める
まずは、紙の中央にテーマを書きます。
筆者は「新時代における自己実現とは?」としました。
【ステップ2】言葉を書き出す
次に、テーマから連想される言葉を、思いつくままに書き出していきます。最初に浮かんだのはこれらでした。
- 「キャリアと育児の両立は難しい」
- 「一度キャリアを中断すると取り返せない
- 「成功=収入・肩書?」
最初に出てくるキーワードは、無意識に抱えている「思考の前提」のなかでも、特に強いものかもしれません。
続けて、育児に重点を置くいまの生活、時間的制約、キャリアへの漠然とした不安、新しい働き方の可能性など、思いつくままに言葉を追加していきました。
【ステップ3】線でつなぐ・囲む
それから、関係性を線でつなげていきます。
そして、関連性があるものを枠で囲み、見出しをつけました。
これで、水平方向のコンセプトマップがひととおり完成です。
思考をほぐしてみた感想
今回、水平方向のコンセプトマップを用いて、自分の思考を俯瞰してみたことで、私のなかである変化が起きました。
1. 思考の「偏り」を発見した
普段は「育児中にキャリアから取り残される」という不安ばかりが心を占めていました。しかしマップ上に書き出してみると、私の考えは、「既存の思考パターン」の範囲で堂々めぐりしていたことがはっきりしたのです。
この「枠」の存在を目で見て認識したことで、「このままでは選択肢が狭いまま固定されてしまう」という危機感を自覚できました。
2.「中立的な地点」に立ち戻った
次に、マップの「現状」の欄に目を向けました。そこには、「いまは育児に重点を置きたい」「時間的制約がある」という事実が淡々と書かれていました。
そこで、「私はいま、何かを失っているわけではない。ただ選んでいるだけなんだ」と理解。これまで「損失」のように感じていたことが、「意図的な選択」だととらえ直せたのです。
3.「可能性が視覚的に」広がった
さらに、マップの右側に配置した「これからの可能性」に目を向けると、そこにはキャリアの新しいかたちや柔軟な働き方の選択肢が広がっていました。
それらが「未来」の位置にあることで、心理的に「まだ道は続いている」「これからも選べる」という安心感を与えてくれたのです。
このように、コンセプトマップは単なるアイデアの書き出しではありません。「過去」「現在」「未来」の時間軸と、「制約」「可能性」という思考の広がりを、空間的に見せてくれるツールです。
凝り固まった思考から抜け出すには、こうした俯瞰と再構造化のプロセスが、欠かせないと実感できました。
ぜひみなさまも、一度お試しください。
※以下は、コンセプトマップづくりをスムーズにする、ちょっとしたアドバイスです。
きれいにつくろうとせず思いつくままに。一度に完成させようとしない。色分けすると自分の思考を俯瞰しやすくなる。
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「もしかして、時代に取り残されている?」と感じたら、コンセプトマップを用いて価値観や考え方をほぐしてあげてください。新たな視点が得られたとき、これまで閉ざされていた道がすっと拓けるかもしれません。
*1: 日経ビジネス電子版|新しい学びの技術「アンラーン」が、今こそ必要な理由
*2: ゴールドオンライン|記憶は「アウトプット」する人が強い! 記憶王が教える暗記法
こばやしまほ
大学では法学部で憲法・法政策論を専攻。2級FP技能検定に合格するなど、資格勉強の経験も豊富。損害保険会社での勤務を通じ、正確かつ迅速な対応を数多く求められた経験から、思考法やタイムマネジメントなどの効率的な仕事術に大変関心が高く、日々情報収集に努めている。