生活状況に配慮して仕事を振りたいけど、聞いたらハラスメントかな。そこで大事なのは「対話」による環境設計です

ハラスメントを恐れず部下と対話するための聞ける職場環境づくりを解説するイメージ

「結婚しているの?って聞いたらセクハラになるのかな」
「お子さんの体調を尋ねるのも、踏み込みすぎな気がする」
「最近どう?って振るだけでも、警戒されそうで怖い」

対話型ワークショップを通じて組織開発を支援する私たち KURUMAZA のもとには、こうした声も日々届きます。

ハラスメントへの意識が高まったこと自体は、社会の前進です。でもその副作用として、本来必要な対話まで封印されてしまう——という問題が、現場で静かに広がっています。

前回の記事では、上司と部下のあいだに生じる「ズレ」と、それを解消するための対話の必要性についてお伝えしました。今回はその続きです。「対話が必要」とわかっていても、怖くて踏み込めない。そのジレンマを解くための、環境のつくり方を考えていきます。タイワマンにも登場してもらいながら、一緒に見ていきましょう。

取材・文/STUDY HACKER編集部

【プロフィール】
KURUMAZA(くるまざ)
KURUMAZAは、車座になって対話する機会を提供し、関係性に変化を起こし課題を解決しながら組織力強化を図る会社です。人間関係によって生じているチーム内の問題を完全オーダーメイド型のワークショップによって解決します。

「言わなくてもわかる」はもう通用しない

前回の記事で、上司と部下のズレは「育ってきた時代や経験の違い」から生まれると話しました。実はこのズレが生じやすくなった背景には、職場そのものの変化があります。

少し前の職場を思い出してみてください。同期で同時期に入社し、似たような家庭環境で、同じような価値観を持つ——そんな同質性でまとまっていた時代がありました。

その時代には、ある種の万能薬がありました。「言わなくてもわかる」というコミュニケーションです。

「あいつは長男だから、いずれ地元に戻るだろう」
「彼女も結婚したし、そろそろ落ち着くはずだ」

前提が共有されていたから、行間を読み合えばチームは動いた。それは確かに、効率的で温かい時代の知恵でした。

でも、いま職場を見渡してみてください。シングルで子育てをする人、介護と両立する人、フルリモートで働く人、海外経験のある中途採用者、Z世代の新人、シニア層の再雇用——ひとつのチームのなかに、これだけ多様な人生のかたちが共存しています。

みんなが違う前提で生きている世界では、「言わなくてもわかる」は機能しません。行間を読もうとした瞬間に、必ずズレが生じる。前回お伝えした「ズレ」は、この多様化によってより深く、より起きやすくなっているのです。

 

「言わなくても伝わる」が通用したのは、前提が同じだったから。

前提が違う相手に、行間で伝えようとするのは、もはや無謀な賭けなのです。

多様化する職場・異なる前提を持つメンバーのすれ違いと暗黙の了解が通じない現代のイメージ

「聞かない」という選択が生むもの

ズレを解消するには対話が必要——頭ではわかっている。でも、ハラスメントと言われるのが怖くて踏み込めない。

その結果、多くの誠実な上司が選ぶのが「聞かない」という判断です。これは責められることではありません。怖いから避ける、それは自然な反応です。

ただ、「聞かない」という選択には、見えにくいコストがあります。

たとえば、子どもが生まれたばかりの女性部下がいるとします。「家庭が大変なはずだから」と配慮し、負荷の高い仕事を別のメンバーに振る。本人には何も確認しないまま。

数ヶ月後、その部下が硬い表情で言いました。

「最近、やりがいのある仕事から外されていますが、私、何かやらかしましたか?」

 

気を遣ったはずが、傷つけていた。これは前回お伝えした「善意の配慮がズレを生む」という話と、まったく同じ構造です。

聞かなかった結果、判断の空白を埋めたのは「あなたの想像」でした。そしてその想像は、相手の現実とズレる。確認しないかぎり、このズレは見えないまま広がっていきます。

問題は「聞き方」より「聞ける環境」

ここで、多くの上司が陥りがちな勘違いがあります。「ハラスメントにならない聞き方のテクニック」を覚えれば解決する、と思ってしまうことです。

もちろん言葉の選び方は大切です。でも本質は、もう少し深いところにあります。

対話を促すキャラクター・タイワマン
タイワマン

「上手に聞こうとする前に、聞いても大丈夫な空気をつくっておこう。部下が安心して話せるかどうかは、その日の質問の上手さじゃなくて、それまでの日々の積み重ねで決まってるんだよ」

指導してもハラスメントと受け取られない——そういう関係は、いざというときに突然つくれるものではありません。日常の対話の積み重ねが、その土台をつくるのです。

以下では、その土台となる環境づくりを3つお伝えします。

部下が安心して話せる聞ける環境のつくり方3つのポイントを示すイメージ

聞ける環境のつくり方

1|「なぜ聞くのか」を日頃から共有しておく

部下のプライベートを尋ねる質問が警戒されるのは、多くの場合「何のために聞かれているのか、わからないから」です。

ということは、「自分は仕事の采配のためにメンバーの状況を知っておきたい人間だ」という姿勢を、日頃から繰り返し言語化しておくことが効きます。

会議で「みんなの状況を踏まえて業務を振り分けたいから、何かあれば遠慮なく共有してほしい」と伝えておく。1on1の冒頭で「ここで話したことは評価には関係なく、働きやすさを設計するための情報として受け取るね」と前置きする。

こういう積み重ねがあると、いざ「最近どう?」と聞いたときの受け取られ方がまったく変わります。同じ質問でも、前提が共有されている関係では「気にかけてもらっている」になり、共有されていない関係では「詮索された」になるのです。

対話を促すキャラクター・タイワマン
タイワマン

「聞く前に、なんで聞くのかを伝えておく。それだけで、同じ質問がまったく違う意味に聞こえるんだよ。"詮索"と"気遣い"の違いって、言葉じゃなくて文脈から生まれるんだよね」

2|上司が先に、自分のことを開示する

「あなたのことを教えて」とだけ言われても、部下は身構えます。上司は強い立場で情報を得ようとし、部下は弱い立場で差し出すしかない——この構図そのものが、警戒心を生むのです。

これを溶かす一番シンプルな方法は、上司側が先に自分のことを話してしまうことです。

「うちはいま、親の介護で結構バタバタしててね」

 

「正直、自分も若い頃は仕事一辺倒で、家庭をないがしろにしてた時期があったよ」

 

完璧な上司像を脱ぎ捨てて、自分の生活や弱さを少しだけ見せる。そうすると、部下のなかで「この人もひとりの人間なんだな」というスイッチが入ります。情報の非対称性がほぐれた瞬間、部下も自然と自分のことを話せるようになるのです。

対話を促すキャラクター・タイワマン
タイワマン

「まず自分から。鎧を脱いだ人にだけ、相手も鎧を脱いでくれるんだよ。"完璧な上司"を演じてると、相手も本音を隠したまま。あなたが先に人間らしくなると、場がほぐれるんだよね」

3|「答えない自由」を、ちゃんと約束する

もうひとつ、強力な土台になるのが「話したくないことは話さなくていい」と明確に伝えておくことです。

「聞くけど、答えるかどうかは自分で決めていい」

 

「話せる範囲で構わないし、話したくないなら『話せない』でOKだから」

 

このメッセージが共有されていると、部下にとって質問は脅威ではなくなります。答える権利と答えない権利の両方が、自分の手元にあるからです。

対話を促すキャラクター・タイワマン
タイワマン

「聞ける環境っていうのは、答えを引き出せる環境じゃないんだよ。相手がいつでも逃げ道を持っている、その状態のことなんだよね。逃げ道があるとわかってはじめて、人は安心して話せるんだ」

多様化する組織を空気ではなく言葉でまとめる対話型マネジメントのイメージ

多様な組織をまとめるのは、空気ではなく「言葉」

ここまで読んで、こんなことを思った方もいるかもしれません。

「昔より言葉を尽くす必要があるってことか……正直、めんどくさいな」

 

その本音、まったく自然です。かつての「阿吽の呼吸」は確かにラクでした。でも、同質性という土台がなくなったいま、私たちが手にできる武器はひとつしかありません。

それが、言葉です。

前提を共有する。自分のことも開示する。答えない自由を約束する。「察してくれ」を手放して、関係そのものを言葉で耕していく。

確かに昔より手間がかかります。でも、多様な人たちと働けるということは、多様な視点や知恵がチームに集まるということ。同質性のチームでは得られなかった創造性や強さが、そこには眠っています。

その豊かさを引き出す鍵が、日々の丁寧な言葉なのです。

対話を促すキャラクター・タイワマン
タイワマン

「空気でまとめる時代は終わった。これからは、言葉でまとめる時代。手間はかかるけど、そっちのほうが、ずっと面白いよ」

踏み込むことは、怖いことではない

「プライベートを聞くのが怖い」と立ちすくんでいるあなた。その慎重さは、大切な資質です。

ただ、これだけは覚えておいてほしいのです。聞くこと自体は、ハラスメントではありません。聞ける関係を育てておかないまま、いきなり踏み込むからこじれるのです。

「なぜ知りたいか」の前提を日頃から共有しておく。上司が先に自分を開示する。「答えない自由」を約束する——この3つの土台さえあれば、踏み込むことは恐ろしいことではなくなります。むしろ部下にとっては、「自分を見てくれている」という安心感に変わるのです。

今日、誰かひとりにだけでも、自分のことを少し話してみてください。「最近、こんなことがあってさ」——そのひとことから、聞ける関係が少しずつ育ち始めます。

タイワマンと一緒に、不器用でも、誠実に。あなたの職場が、空気ではなく言葉でつながる温かなチームになりますように。

上司と部下が言葉でつながる温かいチームづくりと踏み込む対話の大切さを表すイメージ



 

【ライタープロフィール】
岡 健作(おか・けんさく)

株式会社新恵社 代表取締役/株式会社スタディーハッカー創業者。1977年生まれ、福岡出身。2014年、メディア「STUDY HACKER」を立ち上げ。以後運営に携わる。
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