読書術の定番「アクティブラーニング」をマンガで習得——元司書がおすすめ、初心者のための読書術入門

漫画の背景と漫画本

「本を読んでも、内容が頭に残らない...」そんな悩みはありませんか?

じつは、ただ文字を追うだけでは、読解力は身につきません。大切なのは「問いを立てながら読む」こと──これが、科学的に効果が実証されている読書術「アクティブリーディング」です。

大学図書館で10年以上勤務し、リサーチや書籍紹介を専門としてきた元司書の私が、初心者に最もおすすめするのが、漫画でアクティブリーディングを練習するという方法です。

視覚的で楽しく続けられる漫画は、読書術を身につけるための最適な教材。本記事では、アクティブリーディングの基本から、漫画を使った具体的な練習法、さらに効果を高める補助テクニックまでを紹介します。

アクティブリーディングとは?──「問い」が読解力を劇的に高める

アクティブリーディングとは、「問いを立てながら読む」ことで読解力・思考力を高める読書法です。

カンザス大学学習研究センターの「自己質問戦略」の解説ページでは、学習者が自ら問いを立てながら読むことで、読解力が平均40パーセンテージポイント向上した例も報告されています。*4

受動的な読書と能動的な読書の違い

多くの人が陥るのが「受動的な読書」──つまり、ただ文字を目で追うだけの読み方です。これでは情報が表面を滑るだけで、深い理解には至りません。

一方、「能動的な読書(アクティブリーディング)」では、次のような問いを自分で立てながら読みます。

  • 「なぜこの表現が使われた?」
  • 「この登場人物の本当の意図は?」
  • 「この描写は何を暗示している?」

問いを自分で立てながら読むことで、脳が能動的に働き、理解が格段に深まります。

アクティブリーディングがもたらす3つの効果

  1. 理解度の向上:問いを立てることで、表面的な理解から本質的な理解へ
  2. 記憶の定着:自分で考えた内容は受動的に読んだ内容より記憶に残る
  3. 批判的思考力の育成:常に「なぜ?」と問う習慣が、分析力を鍛える

漫画に問いを立てながら読んでいるビジネスパーソン

なぜ漫画でアクティブリーディングを練習すべきか

アクティブリーディングの効果は科学的に証明されていますが、初心者がいきなり小説や専門書で実践するのは難しいものです。「どこに問いを立てればいいかわからない」と挫折してしまうケースも少なくありません。

そこで、おすすめしたいのが「漫画から始める」という方法です。

漫画が最適な理由①:視覚情報が「問いのヒント」になる

漫画には、文字だけでなく表情・構図・背景・コマ割りといった視覚情報が豊富に含まれています。たとえば、次のような問いを自然に立てることができます。

  • 「このキャラの表情、何を隠してる?」
  • 「なぜこのコマは大きく描かれた?」
  • 「背景に何か意味がある?」

視覚的なヒントがあるため、初心者でも自然に問いが浮かびやすいのです。

漫画が最適な理由②:楽しみながら続けられる

読書術を身につけるには、何より継続が大切です。漫画には、継続しやすい以下のような特徴があります。

  • ストーリーに引き込まれるので苦痛なく続く
  • 1話ごとに区切れるので練習しやすい
  • 好きな作品で練習できるのでモチベーションが保てる

「勉強」ではなく「楽しみ」として取り組めることが、習慣化の鍵です。

漫画が最適な理由③:難易度を自分で調整できる

漫画には様々なジャンルと難易度があります。

  • 入門編:シンプルな少年漫画、4コマ漫画
  • 中級編:心理描写が豊かな青年漫画
  • 上級編:伏線が張り巡らされたミステリー、多層的なストーリー

自分のレベルに合わせて段階的にステップアップできるのも、漫画の利点です。

漫画の原画とコミック本のグラフィック

実践!漫画でアクティブリーディングを身につける具体的な方法

それでは、実際にどのように漫画でアクティブリーディングを練習すればよいのか、段階的に解説します。

ステップ1:まずは「3つの問い」から始めよう

初心者は、いきなり多くの問いを立てようとする必要はありません。まずは以下の3つの基本的な問いを意識するだけで十分です:

 
 

基本の3つの問い

①「このセリフの裏にある感情は?」
 → キャラクターの本音を探る

②「なぜこの場面がここに配置された?」
 → 構成の意図を考える

③「この描写は何を暗示している?」
 → 伏線や象徴を読み解く

この3つを意識するだけで、受動的な読み方から能動的な読み方へと変わります。

ステップ2:読みながらメモを取る習慣をつける

問いを立てたら、その答えを簡単にメモする習慣をつけましょう。以下のような方法がおすすめです。

  • スマホのメモアプリに短く記録
  • 付箋に書いて該当ページに貼る
  • ノートに1行だけでも書き出す

「書く」という行為が記憶を強化し、思考を整理してくれます。

ステップ3:作品ごとに「問いのテーマ」を設定する

慣れてきたら、作品ごとに読む目的や問いのテーマを設定してみましょう。

 
 

ジャンル別・問いの例

心理描写が豊かな作品(例:『3月のライオン』)
「このキャラは本当は何を求めている?」「表情と言葉が矛盾している場面はどこ?」

伏線が多い作品(例:『進撃の巨人』『約束のネバーランド』)
「この会話、後で重要になりそうなのはどこ?」「意味深な描写や違和感がある場面は?」

社会派作品(例:『デスノート』『僕だけがいない街』)
「この選択の倫理的な問題は何?」「作者はこの作品で何を問いかけている?」

成長物語(例:『ハイキュー!!』『宇宙兄弟』)
「このキャラは何をきっかけに変わった?」「成長の転機になった出来事は?」

ステップ4:読後に「自分の解釈」をまとめる

1巻、あるいは1つのエピソードを読み終えたら、自分なりの解釈をまとめる時間を持ちましょう。次のような方法があります。

  • 3行でストーリーの核心をまとめる
  • 最も印象的だった問いと答えを記録する
  • 友人やSNSで感想をシェアする

アウトプットすることで、理解が定着し、批判的思考力がさらに磨かれます。

ステップ5:他者の解釈と比較する

可能であれば、同じ作品を読んだ人と意見交換してみましょう。次のような方法があります。

  • 書評サイトやSNSでの感想を読む
  • 読書会や漫画談義に参加する
  • 自分とは異なる解釈に触れる

「自分はこう読んだけれど、他の人はこう読んだのか」という気づきが、読解の幅を広げてくれます。

メモするビジネスパーソン

さらに効果を高める4つの補助テクニック

ここまで、アクティブリーディングを中心に解説してきました。さらに読書の質を高めたい方のために、補助的に使える4つの学習テクニックを簡潔に紹介します。

①チャンク化──情報を「かたまり」で整理する

チャンク化とは、複数の情報を「意味のあるかたまり」として整理することで、ワーキングメモリの負荷を軽減し、結果的に短期記憶の保持を助ける方法です。*1, *2, *3

漫画での活用法

  • 章ごとに「この章で起きたこと」をまとめる
  • 勢力図や相関図を描いて人間関係を整理する
  • 時系列を図式化して因果関係を明確にする

登場人物が多く構造が複雑な作品(『キングダム』『ワンピース』など)で特に有効です。

②メタ認知──自分の理解度をチェックする

メタ認知とは、自分の理解をモニタリングし、修正する力のこと。理解の質を左右することが多数報告されています。*5

漫画での活用法

  • 「なんとなく分かったけど、本当に理解できてる?」と自問する
  • 「引っかかる場面」をメモし、なぜ引っかかるのか言語化する
  • 必要に応じて再読したり、情報を補ったりする

「わかったつもり」を防ぎ、真の理解へと導いてくれます。

たくさんの時計が並んだグラフィック

③分散学習・テスト効果──記憶を定着させる

分散学習(間隔をあけた復習)とテスト効果(思い出そうとする行為)は、記憶定着に有効な手法です。*6, *7 

漫画での活用法

  • 読了後、1週間後・1か月後に再読する(分散学習)
  • 「あの伏線はどこで張られた?」と自問自答する(テスト効果)
  • 時間を置いて重要な場面を振り返る

伏線が多い作品で特に効果的です。

「TEST」の文字をクリックする様子

④考察→記録→応用──読書を知的活動に昇華させる

読んだ内容を単なる「体験」で終わらせず、知的活動へと昇華させる3つのステップがあります。

  1. 考察する:構造や意図を分析する
  2. 記録する:考えたことをノートやブログにまとめる
  3. 応用する:他の作品や実生活に視点を転用する

この習慣が、読書を単なる娯楽から「思考のトレーニング」へと変えてくれます。

アクティブリーディングで、読書が変わる

大学図書館に10年以上勤務し、様々な書籍と読者に接してきた経験から、私が自信をもって推奨するのは、漫画でアクティブリーディングを練習すること。「問いを立てながら読む」というシンプルな習慣が、あなたの読書体験を劇的に変えるでしょう。

視覚的なヒントが豊富で、楽しく続けられる漫画は、読書術を身につけるための最高の教材です。漫画で「問いを立てる習慣」を身につければ、小説でもビジネス書でも専門書でも、同じスキルが応用できます。

今日から、好きな漫画を手に取り、「なぜ?」「どういうこと?」「本当にそう?」と問いかけながら読んでみてください。その瞬間、あなたの読書は受動から能動へ、そして娯楽から学びへと変わり始めるはずです。

【ライタープロフィール】
上川万葉

法学部を卒業後、大学院でヨーロッパ近現代史を研究。ドイツ語・チェコ語の学習経験がある。司書と学芸員の資格をもち、大学図書館で10年以上勤務した。特にリサーチや書籍紹介を得意としており、勉強法や働き方にまつわる記事を多く執筆している。

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