その仕事に「手応えのなさ」を感じるのはなぜ?——自分の仕事の価値を見つける "構造化の技術"

手帳のウィークリーページに「仕事の全体の位置づけ」と「プロセス」を記録した実践例

自分なりに能力を発揮しているし、客観的に見てもそれなりの成果は出ている。それなのに、日々の仕事にどこか手応えがなく、パフォーマンスにも波がある――。

そんなとき、原因を「評価されないこと」に求めたくなりますが、そもそも他者が自分の仕事をどう扱うかは、自分にコントロールできることではありません。それは他者の行動だからです。

では、自分でコントロールできる領域で、仕事の質を上げるには何をすればよいのでしょうか。

鍵になるのは、「自分の仕事が全体のどこに位置し、誰にどう影響するか」を正確に把握すること。そして、「どう成果を生んだか」のプロセスを言語化すること

これらは自分の納得感のためではなく、提供価値の精度を上げ、動機を継続させるための業務技術です。今回は、その具体的な方法を、筆者の実践を交えてお伝えします。

「仕事の構造」が見えない状態は、継続力そのものを削る

オフィスの一角で物思いにふけるビジネスパーソン

自分の仕事が全体のどこに位置し、誰にどんな価値を届けているのか――この構造が見えない状態は、単に「やる気が出ない」では済まされない実害をもたらします。筆者自身にも、思い当たる経験があります。

 

私が初めてシステム開発のテスト工程を任されたとき、悪戦苦闘しながらようやくかたちになり始めたころ、「今日から別のスタッフが担当する」と伝えられたことがありました。

いまとなっては、それが業務の汎用性を高めるための判断だと理解できます。ただ、当時の私には、自分の作業が次の工程でどう活かされ、どんな価値として残るのかが見えていませんでした。

「自分がやったことはどこへ行くのか」「次に何を強化すればいいのか」――その手がかりがないまま、積極的に学ぶ動機そのものが失速した時期があります。

インプットが止まれば、成長も止まります。当然、その後のパフォーマンスにも影響が及びました。

このとき問題だったのは、担当変更があったこと “それ自体” ではありません。自分の作業の位置づけと、その後の扱われ方が見えていなかったことが、何に向かって手を動かしているのかを曖昧にし、継続する動力を削いでしまったのです。

同じ構造を、デューク大学の行動経済学者ダン・アリエリー氏らが実験で示しています。10分程度で組み立てられるレゴロボットを、参加者に報酬を支払いながら組み立ててもらう実験です。参加者は、いつでもやめることができる前提で、ふたつのグループに分けられました。*1

  • 条件A:組み立てた完成品はテーブルに置かれ、次の部品が入った箱が渡される。自分の作業が残っていく。
  • 条件B:組み立てた完成品を、目の前で実験者がバラバラに解体し、また同じ部品が入った箱が渡される。自分の作業が、やった端から「なかった」ことになる。

結果、条件Aのほうが完成数が多くなりました。作業内容も報酬体系も同じ。違うのは、自分の作業がその後どう扱われるかが見えているかどうか、ただそれだけです。

崩れたレゴを見てガックリしているビジネスパーソン

この実験を、行動経済学者の友野典男氏(元明治大学教授)は “自発的に参加した者が集められているので、課題自体にはそれなりの面白さがあるはず” と前置きしたうえで、次のように論じています。*1

面白さにプラスして人から認められることが、課題を続けるインセンティブになっているのである。その結果、認められた方が生産性は上がるのである。

ここで重要なのは、「認められたい」という感情の話ではありません。自分の作業が次の工程でどう扱われ、どんな価値として残るのかが見えないと、人は努力を継続することが構造的に難しくなるという事実です。

条件Bの参加者は、怠けていたわけでも能力が低かったわけでもない。自分の作業がその場で無効化されていく構造のなかでは、何に向かって手を動かしているのかが見えなくなっていたのです。

冒頭のテスト工程の話も、まさにこの構造でした。努力不足や能力不足を指摘されたわけでもない。ただ、自分の作業の位置づけと行方が見えていなかった。

ただし、この構造を上司や組織に整えてもらうのを待っていても始まりません。他者の行動はコントロールできない以上、自分の仕事の構造を自分で把握する技術が必要になります。

仕事の精度と動機を立ち上げるふたつの技術

自分でコントロールできる領域で、提供価値の精度を上げ、動機を継続させる。そのための技術は、ふたつの言語化に集約されます。

(1)自分の仕事の位置づけを言語化する――価値の経路を正確に見る

ひとつめは、自分の仕事が全体のなかでどこに位置し、誰にどのような価値を届けているのかを言語化することです。

マネジメント育成の専門家で「The Manager Hub」ディレクター(2020年当時)のキャロライン・ボイド氏も、前出のアリエリー氏らの研究をふまえて、スタッフのパフォーマンスを支えるために組織が整えるべき要素を次のように挙げています。*2

  • 個々が全体像を把握すること
  • 組織のなかで果たす役割を明確に認識できること
  • 日々の業務が組織全体にどのような影響を与えているかを理解できること

しかし、よく考えてみてください。なぜこの専門家は、「組織のあり方」をわざわざ言語化して提言したのでしょうか。

現実の職場でこれが当たり前に実装されているなら、専門家がことさら指摘する必要はありません。つまりこれは、多くの職場で十分に実装されていないことの裏返しなのです。

では、これが自分の職場に実装されるのを待てばいいのでしょうか。待って、いつ来るのか――。自分のキャリアが終わるまでに間に合うのか――。

一方、同じことを自分の手で行なうなら、今日からでも始めることができます。

目的は、自分の価値提供経路を自身で正確に把握し、その価値を高められるようにすることです。

 
例)
  • 伝票処理を担当している場合
    →「自分は経営資源のフローを可視化する工程を担っている」
    →「この処理が遅れると、どの部門のどんな判断が遅れるのか?」
    →「精度が落ちると、最終的な数字にどう響くのか?」

  • ある工程の品質管理を担当している場合
    →「自分が見落とせば、次の工程で手戻りが発生する」
    →「ここで品質をつくり込むことが、最終成果物の質を左右する」

こうした把握は、ただ視点を広げるだけの作業ではありません。自分の判断の精度を上げるための情報インフラになります。

伝票処理ひとつとっても、「自分の遅れが誰のどの判断に響くか」が見えていれば、優先順位の付け方が変わる。「どこに精度を集中させるべきか」が見えていれば、力の配分が変わる。結果として、同じ時間で提供できる価値が上がります。

なお、ここで生まれるのは「評価されてうれしい」といった外部由来の手応えではありません。“何に向かって手を動かしているか” が見えることで、自ずと立ち上がる動機です。

両者は似て非なるもの。前者は他者の反応に依存するのに対し、後者は自分の構造把握だけで立ち上がります。

ポジティブな表情で何かをメモ帳に書いているビジネスパーソン

(2)プロセスを言語化する――成功の再現性を担保する

ふたつめは、どんな工夫によってどのような結果が出たのかを、プロセスとして言語化することです。

成果主義のもとでは最終結果に注目が集まり、そこに至るまでの試行錯誤は記録されずに流れていく傾向にあります。しかし、再現できない成功は、成功ではなくただの偶然です。

どんな条件下で、どんな判断をし、どんな工夫を加えたら、どんな結果が出たか――この対応関係を記録していくことで、成功は再現可能な業務技術へと変換されます。これは自己満足の記録ではなく、次の仕事の精度を上げるための資産です。

また、この記録があれば、他者に対しても「何をやったか」を具体的に共有できます。プロセスの可視化は、自分のためだけでなく、組織の知の蓄積にも直接貢献します。

筆者の実践――手帳でシンプルに運用する

この「位置づけ」と「プロセス」のふたつを、筆者は手帳のウィークリーページで運用することにしました。題材は、ピラティスインストラクターとしての仕事です。

筆者が記録したもの

筆者が実際に「仕事の全体の位置づけ」と「プロセス」を記録したもの

まず、自分の仕事の位置づけを「お客様がからだの変化を楽しみ、生活の質向上を実感するためのサポート」と定義し、手帳の上部にメモ。これが、どの日のどの判断もここに向かっているという基準点になります。

各日には、その日に行なった工夫や注力したこと、影響などを簡潔に記録しました。

記録を運用してわかったこと――判断が鋭くなる

記録を続けていくと、自分の判断と結果の対応関係が見えてきました。

  • お客様がご自宅で取り組めるエクササイズをシェアする
    → からだの変化のスピードが上がる。セッション間の継続性が生まれる。
  • モディフィケーション(動きのバリエーション)のレパートリーを増やす
    → お客様の「できない」が減る。達成の実感が積み重なり、次への意欲につながる。
  • キューイング(動きを導く声かけ)を研究する
    → 狙った筋への効き方が明確に変わる。お客様の理解が深まり、同じエクササイズでも効果が上がる。

いずれも、どの工夫がどう価値に結びついたかが明確になったことで、次に何を強化すべきかの判断が速くなりました。再現可能な業務技術として積み上がっていく実感があります。

注意点はひとつ。プロセスを記録するときに「頑張った」のような抽象語を使わないことです。抽象的な記録は、次の判断に使えません。

「何をしたら、何が起きたか」を具体的に書く。これだけで、記録は自己満足のメモから、仕事の精度を上げる資産へと変わります。

***
評価は他者の行動であり、自分の手の外にあります。

しかし、自分の仕事が誰にどんな価値を届けているのか、その経路とプロセスを構造化することは、他者の許可なくいますぐ始められる作業です。

そしてこの構造化は、仕事の精度と動機を同時に立ち上げます。何に向かって手を動かしているかが見えるから、動機が続く。どの工夫がどう価値に結びつくかが見えるから、精度が上がる。

――他者の評価を待たずに、提供する価値そのものを自分の手で育てていける状態が、そこから生まれていきます。

FAQ

Q1. パフォーマンスに波があるとき、まず何を見直すべきですか?
A. 「評価されていないからだ」と外的要因に原因を求める前に、自分の仕事の構造が自分のなかで見えているかを確認してみてください。自分の作業が誰にどう影響し、次にどう活かされるのかが不明瞭だと、努力を継続することが構造的に難しくなります。他者の評価はコントロールできませんが、構造の把握は自分でできる領域です。
Q2.「自分の仕事の位置づけを言語化する」とは具体的にどういうことですか?
A. 自分の業務が組織全体のどこに位置し、誰にどんな価値を届けているかを言葉にする作業です。たとえば伝票処理なら「経営資源のフローを可視化する工程を担っており、遅れれば他部門の判断が遅れる」ととらえ直す。これにより優先順位や力の配分の判断精度が上がり、同じ時間で提供できる価値が上がります。
Q3. プロセスを言語化することと、単なる日報を書くことの違いは何ですか?
A. 日報が「何をしたか」の記録であるのに対し、プロセスの言語化は「どんな工夫をしたら、どんな結果が出たか」という対応関係の記録です。この対応関係があるからこそ、次に同じ価値を再現するための業務技術として機能します。「頑張った」のような抽象語では成立しないため、具体的に書くことが条件です。
Q4. 「動機が立ち上がる」というのは、「評価されて嬉しい」というのとどう違うのですか?
A. 別物です。「評価されて嬉しい」は他者の反応に由来する感情で、他者がそうしなければ生まれません。一方、本記事で扱う動機は、自分の仕事が誰にどんな価値を届けているか、何に向かって手を動かしているかが自分に見えていることから立ち上がります。後者は他者の許可を必要とせず、自分の構造把握だけで立ち上がるため、外的要因に左右されません。仕事の本来の目的は他者や社会への価値提供であり、自分の納得感ではないという点は変わりませんが、価値提供の経路を構造化することで、結果として動機も同時に継続する状態が生まれます。
(参考)

*1: 働き方改革研究所(株式会社チームスピリット)|働くことの意味
*2: Management Today|What Lego robots can teach us about motivating teams

【ライタープロフィール】
澤田みのり

大学では数学を専攻。卒業後はSEとしてIT企業に勤務した。仕事のパフォーマンスアップに不可欠な身体の整え方に関心が高く、働きながらピラティスの国際資格と国際中医師の資格を取得。日々勉強を継続しており、勉強効率を上げるため、脳科学や記憶術についても積極的に学習中。