メモを取ったのに、覚えていない。「書くと忘れる」脳の仕組み

開いたノートを見る女性

会議でも研修でも、きちんとメモを取ってきた。何冊もノートがたまっているのに、先週の研修の内容を聞かれて、何も出てこない。ノートを開けば書いてあるのに、頭には残っていない。

これは記憶力のせいではなく、「記録すると脳は安心して忘れる」という仕組みが働いているのかもしれません。今回は、書いたのに忘れる仕組みと、記録と記憶を両立させるメモの取り方の話です。

「メモを取れ」は、社会人の基本として正しい

大前提として、メモを取ること自体は間違いではありません。人が一度に覚えられる情報量には、限りがあるためです。会議で聞いた数字や締め切り、資料の要点をすべて記憶だけで処理しようとすれば、どこかで取りこぼしが起き、聞き間違いや伝達ミスにつながります。

メモは、そうした取りこぼしを防ぎ、あとから正確に確認するための土台です。周囲からの信頼にも直結する、大切な準備だといえます。「メモを取れ」と教わってきたことは、社会人としての基本として、これからも変わらず正しいのです。

煙を上げて消えかける脳のキャンドル

ところが脳は、「記録した情報」を積極的に手放す

ただし、メモを取って「あとで見返せる」と安心した時点で、脳の覚え方は変わってしまいます。

これは「Google効果」と呼ばれる現象です。コロンビア大学の研究では、あとで内容を確認できると分かった参加者はそうでない参加者に比べて、「どこに書いたか」という場所の記憶を優先し、内容そのものは忘れやすい傾向が見られました。*1

もうひとつ、ノートの取り方そのものにも「手放し」のスイッチがあります。プリンストン大学の研究では、講義の内容をそのまま書き写すタイプのノートは、自分の言葉に置き換えて書くノートに比べて、あとの理解度テストの成績が低かったそうです。*2

書き写している間、頭のなかでは「変換」の作業がほとんど起きていません。手はよく動いているのに、情報のほうは素通りしてしまいます。

覚えていないのは、記憶力の欠陥ではありません。書いてあると分かった情報を、脳が安心して手放しているだけです。

ただし、手放しっぱなしにしていると、頭のなかには何も残りません。ここで役立つのが、メモの仕分けという発想です。

色違いのノートが並ぶデスク

メモには2種類ある。「残すメモ」と「覚えるメモ」

メモには、目的別に「残すメモ」と「覚えるメモ」の2種類があります。

1. 残すメモ

正確さが命で、忘れてもよい情報(日付、数字、決定事項、依頼内容など)

2. 覚えるメモ

頭のなかに残しておきたい情報(概念、考え方、気づきなど)

「残すメモ」はデジタルツールに丸ごと転記して、脳のメモリを空けるために使います。「どこを見ればよいか」さえ覚えておけば、内容は手放しても構いません。

一方の「覚えるメモ」に書き写しを使ってしまうと、「書いた」という安心感だけが残り、内容は素通りしてしまいます。書いたのに忘れてしまう人の多くは、本来「覚えるメモ」にすべき内容まで、「残すメモ」と同じ書き方で処理してしまっているのです。

会議の議事録と同じ書き方で、研修の内容までメモしていないでしょうか。自分のノートを見返して、その情報が「残すメモ」なのか「覚えるメモ」なのかを、仕分けしてみてください。

頬杖でノートを読み返す女性

「覚えるメモ」の技術。思い出す工程を組み込む

「覚えるメモ」には、思い出す工程を組み込むのが有効です。ワシントン大学の研究では、テストという形で情報を思い出す経験そのものが、その後の記憶の定着を大きく高めることが分かっています。*3

きれいにノートをとって繰り返し読むよりも、何も見ずに思い出そうとするほうが覚えやすいのです。そこで「覚えるメモ」と一緒に、次の3つを試してみてください。

1. 閉じてから書く

話の区切りでノートから目を離し、思い出しながら自分の言葉で書く

2. 問いの形で残す

「要点は何か」「なぜそうなるのか」のような質問文でメモをし、答えはあえて書かないか、隠しておく

3. 24時間後に1分だけ振り返る

翌日「昨日の要点3つ」を思い出してから、ノートを見て答え合わせをする

とくにふたつ目の「問いの形で残す」は、読み返すたびに、それが自動的に思い出しテストになるのがポイントです。3つ目の「24時間後に1分だけ振り返る」も、思い出す習慣を無理なく続けられる方法です。書いて終わりにせず、思い出すところまでをワンセットにしておきます。

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メモは、忘れるための道具にも、覚えるための道具にもなります。次にノートを開いたら、そのページの一箇所だけ、これは残すメモか、覚えるメモかと分けてみてください。それだけで、書いたことが少しは頭に残るかもしれません。

よくある質問(FAQ)

Q. デジタルメモと紙のメモ、どちらがいいですか
目的によって使い分けるのがおすすめです。日付や数字など正確さが命の「残すメモ」は、検索性の高いデジタルが向いています。一方、概念や気づきなど頭に入れたい「覚えるメモ」は、自分の言葉で書き直す過程が生まれやすい手書きに分があるとされています。
Q. 会議の議事録も「覚えるメモ」にすべきですか
議事録は基本的に「残すメモ」として扱ってかまいません。決定事項や依頼内容は正確さが最優先で、思い出す工程を挟む必要はないからです。無理に覚えようとせず、あとから確実に参照できる形で残しておけば十分です。
Q. 録音や録画があればメモは不要ですか
不要にはなりません。あとで参照できると分かっているだけで、内容そのものを覚えようとする力は弱まりやすくなります。録音や録画はあくまで「残すメモ」の役割と考え、覚えたい内容は自分の言葉でメモしておくことをおすすめします。
Q. 思い出せなかったらどうすればいいですか
問題ありません。思い出そうとする行為そのものが、記憶の定着を助けることが分かっています。思い出せなかった場合は、そこで初めて答えを確認すれば十分です。すぐに答えを見てしまうより、まず思い出そうとする一手間が効果を生みます。

【ライタープロフィール】
藤真唯

大学では日本古典文学を専攻。現在も古典文学や近代文学を読み勉強中。効率のよい学び方にも関心が高く、日々情報収集に努めている。ライターとしては、仕事術・コミュニケーション術に関する執筆経験が豊富。丁寧なリサーチに基づいて分かりやすく伝えることを得意とする。