
「考えすぎはよくない」。そんなことは、あなたも百も承知でしょう。問題は、わかっていてもやめられないこと。むしろ「考えるのをやめよう」とするほど、頭のなかは考えごとでいっぱいになっていきます。
「もっといい方法があるはずだ」と考え込んでいるうちに、仕事はいつまでも前に進まない。失敗を何度も思い返して、次の一手が決められない。考える力が高い人ほど、この「考えすぎ」で手が止まってしまうのです。
やめられないのには、理由があります。「これ以上考えるのは危険だ」と抑え込もうと焦るほど、かえって考えに意識が吸い寄せられてしまうからです。だからこの記事では、「考えるのをやめましょう」とは言いません。
やめようとするのではなく、考えすぎている自分に気づいて、意識をそっと外へ向ける。本記事では、考える力は高いのに、考えすぎてかえって決められない・仕事が前に進まないという人に向けて、その具体的な方法を3つ紹介します。
- 「考えすぎて動けない」のは、なぜ起きるのか。カギは「メタ認知」
- 考えすぎを防ぐ方法1 「考えるのは10分まで」
- 考えすぎを防ぐ方法2 「からだをスキャンする」
- 考えすぎを防ぐ方法3 「外の音に耳をすます」
「考えすぎて動けない」のは、なぜ起きるのか。カギは「メタ認知」
考えごとをしているとき、その様子を「もうひとりの自分」が上からながめている――そんな場面を思い浮かべてみてください。「いま自分は焦っているな」「この考えは思い込みかもしれない」と、自分の思考を一歩引いて見つめ直す。この力が「メタ認知」です。
メタ認知は、本来とても役立つ力です。感情に流されそうなときも、立ち止まって自分を客観的に見られれば、冷静さを取り戻せます。仕事でいい判断をするうえでも欠かせません。
ところが、メタ認知には土台があります。それは、「考えること」そのものについての思い込み――いわば、考え方のクセのようなものです。
この土台がずれていると、せっかくのメタ認知もうまく働きません。冷静になるどころか、同じ考えを何度もぐるぐると巡らせるループにはまり込んでしまう、と指摘されています。
こうした「考え方についての思い込み」を、専門的には「メタ認知的信念」と呼びます。臨床心理士のメリッサ・マルカーヒ(Dr Melissa Mulcahy)氏は、考えすぎの裏にあるこの思い込みを、正反対のふたつに整理しています。*1,*2
ポジティブ型は「もっと考えろ」と前へ急かし、ネガティブ型は「考えるな」と引き留める。向きは逆ですが、どちらに転んでも、頭のなかが考えごとでいっぱいになり、目の前の仕事から手が離れてしまう点は同じです。*1
そして、ここがいちばん厄介なところです。「考えるのをやめよう」とするほど、かえって考えに意識が吸い寄せられてしまう。力ずくで止めようとしても、うまくいきません。
抜け出す道は、シンプルです。考えるのをやめようとするのではなく、意識をいったん「考えごと」から引きはがして、外に向けること。ここからは、そのための方法を3つ紹介します。「考える時間」「からだの感覚」「注意の向き」と切り口は違いますが、どれも “考えから意識を外す” という一点でつながっています。
考えすぎを防ぐ方法1 「考えるのは10分まで」
効く思い込みポジティブ型
1つめは、考えすぎを生む「考える時間」そのものを見直すアプローチです。
じっくり時間をかけて考えれば、かならずいい結論にたどり着く――。もしそう信じているなら、それは「もっと考えれば答えが出る」という思い込みの表れかもしれません。少し注意が必要です。
そもそも、数時間うんうん悩んだところで、結論はそれほど変わらないものです。
『時間最短化、成果最大化の法則』著者で、株式会社北の達人コーポレーション代表取締役社長の木下勝寿氏は、仕事が遅い人の特徴として「きちんと考えないと、いい仕事はできない」という思い込みを挙げています。*3
「別の可能性はないか」「見落としはないか」と、自分の判断を点検するあまり、いつまでも結論を出せずにいる――そんな経験はありませんか。
木下氏によれば、「じっくり考えている2、3時間のうち、本当に集中して検討しているのは10分間」だといいます。この事実に気づくことが大切だ、というわけです。*3
ですから、ぜひ「価値のある熟考は意外と短い」と意識してみてください。それ以上はムダかもしれない、という気づきが、考えすぎの沼から足を抜くきっかけになります。

考えすぎを防ぐ方法2 「からだをスキャンする」
効く思い込みポジティブ型ネガティブ型どちらにも
2つめは、「考えすぎている自分」に、からだの感覚から気づくアプローチです。
自分を客観的に見る力(メタ認知)が高い人ほど、状況を深く分析しすぎて、かえって動けなくなる「分析麻痺」に陥りやすい傾向があります。その裏にも、“もっと深く考えれば完璧な答えが見つかるはずだ” という思い込みがひそんでいます。
アメリカの公認プロフェッショナルカウンセラー(LPC)ジョディ・クラーク(Jodi Clarke)氏によれば、分析麻痺とは、問題を深く考えすぎて意思決定ができなくなる状態を指します。*4
たとえば上司から「もう少しわかりやすくして」と言われたとします。すると「伝わりにくかったのはどこか」「上司が求めているものは何か」と分析を延々と続けてしまい、やがて頭が整理しきれなくなって、ただ疲れていく――。そんな状況です。
そこで、いっそ発想を変えてみましょう。改善のためにさらに考えるのではなく、いまの自分をただ観察するのです。
クラーク氏は、解決のひとつとして「いま自分に何が起きているのかを認識する」ことを挙げ、こうすすめています。「頭のてっぺんからつま先まで、自分の体をスキャンしてみましょう」*4
上司から指摘を受けたら、自分のからだを機械でスキャンするように、頭の先から順に点検してみてください。すると、こんなサインに気づくかもしれません。
- 肩がこわばって、呼吸が浅くなっている
- 頭のなかで、ひとり反省会を繰り返している
からだが発するこうしたストレスのサインに気づくことが、「いま自分は考えすぎているな」と客観視する第一歩になります。せっかくの観察力を、答え探しではなく、考えすぎている自分に気づくために使ってみましょう。
考えすぎを防ぐ方法3 「外の音に耳をすます」
効く思い込みネガティブ型
3つめは、内側に張りついた注意を、外へ逃がすアプローチです。
客観的に考えたつもりで「自分は失敗するかもしれない」と不安になり、だから失敗する可能性は高い、と結論づけてしまう――。
一見、冷静に判断しているようですが、これは「考えるのは危険だ」と恐れる思い込みが強いせいで、誤った推論のループにはまっている状態かもしれません。
心理学では、これを「情緒的な理由付け」と呼びます。事実を見て判断するのではなく、自分が抱いた感情を根拠にして現実を決めつけてしまう状態のことです。*5
そこでおすすめしたいのが、注意訓練法(ATT: Attention Training Technique)で、自分の感情と距離をとる方法です。*6
不安のループにはまっているとき、わたしたちの注意は100%「自分の内側」にロックされています。そこで、「外側の音」をあえて聴き分けることで、内側に張りついた注意を物理的に引きはがす――それがこの方法の発想です。
筑波大学でベストティーチャー賞を何度も受賞した精神科医の松崎朝樹氏によれば、注意訓練法は、ネガティブ思考のループから抜け出し、自分の注意を自在にコントロールできるようにするための訓練だといいます。*6
同氏がYouTubeチャンネルで紹介している3つのステップを、簡潔にまとめます。
- 選択的注意
時計の針、エアコン、車などの音をひとつ選び、それだけに集中して聞く。1分ごとに対象を変え、6回繰り返す。 - 注意の転換
6分間、10〜20秒ごとに集中する音を次々と切り替えていく。 - 注意の分割
3分間、複数の音に同時に耳を向ける。ひとつひとつを追わず、聞こえてくるすべての音を「音の風景」としてまるごと感じる。
考えすぎていると気づいたら、無理に考えるのをやめようとするのではなく、この訓練で意識のチャンネルを外側に切り替えてみましょう。
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ここまで3つのヒントを見てきましたが、どれも根っこは同じです。「考えるのをやめる」のではなく、考えすぎている自分に気づいて、意識をいったん外へ向けること。考える力が高い人ほど、その力を答え探しではなく、自分を見張る方向に使うと、止まっていた手が動き出し、すっと決められるようになります。今回のヒントは手軽な割に効果は大きいはずですので、よろしければ一度お試しください。
*1: Lawson Clinical Psychology|Why you can’t stop overthinking — And what Metacognition has to do with it
*2: 藤島雄磨,池田寛人,梅田亜友美,高橋恵理子,富田望,熊野宏昭(2020),「不適応的な対処行動に関するメタ認知的信念尺度の作成および信頼性と妥当性の検討」, 25巻,2号,pp.227-235.
*3: ダイヤモンド・オンライン|「頑張っているのに仕事が遅い人」に共通する3つのクセ【書籍オンライン編集部セレクション】
*4 verywell mind|What Is Analysis Paralysis?
*5: Biz Clip|心の健康を保つ3つの「C」
*6: YouTube|注意訓練法[臨床]反芻思考から離れる力をつける方法
青野透子
大学では経営学を専攻。科学的に効果のあるメンタル管理方法への理解が深く、マインドセット・対人関係についての執筆が得意。科学(脳科学・心理学)に基づいた勉強法への関心も強く、執筆を通して得たノウハウをもとに、勉強の習慣化に成功している。