逐一作業の進捗状況を聞いてくる、求めていないアドバイスをしたがる、メールやチャットの返信が遅いと注意される——。距離が近すぎる上司のもとで、仕事に集中できないと感じる人も多いのではないでしょうか。
「マイクロマネジメント」と呼ばれる管理は、部下のモチベーションを下げるのみではなく、離職にもつながる厄介な方法とされています。一方で、あなたが信頼を勝ち取り、「任せられる人材」になることで避けられるものでもあります。
今回の記事ではその対応法を三つご紹介します。上司との関係でストレスを抱えている人は、ぜひご一読ください。
「マイクロマネジメント」とは
上司のいきすぎたマネジメントで心理的に追い詰められた方もいるのではないでしょうか。「マイクロマネジメント」は、その典型例です。
マイクロマネジメントとは、キャリアコンサルタント、産業カウンセラーの藤本梨恵子氏は、「上司が部下の行動に干渉し、過度に管理すること」。*1 つまり、文字通りマイクロ(=micro)単位で、部下の業務に上司が関わってくることだとしています。
例を挙げると次の行動が見られます。
- 業務マニュアルと少しでも違えば叱責する
- 社内チャットでは、必ずCCに上司を入れる
- メールや資料の誤字脱字、書式の設定に細かく指示してくる
実際に上記のようなマネジメントをされた経験がある方は、多いのではないでしょうか。
というのも、パーソル総合研究所の調査によると、ほかのマネジメント方法に比べ、マイクロマネジメントの割合は「41.2%」。*2 決して珍しいものではないのですね。
このマイクロマネジメントの弊害は大きいもの。前出の藤本氏は次のように述べています。
長期的には部下の自主性やモチベーションを奪う監視行為になり、過剰に続けばハラスメントに発展し、離職の原因にもなりかねません。*1
上司の過干渉により、部下のやる気が削がれるのは想像に難くありませんが、度を過ぎれば精神的に追い詰められる 「ハラスメント」 になりかねないのです。
とはいえ、どんなに細かくても指示がまっとうであるなら、距離をとることも、負担になっていると訴えることも難しいもの。どう対処していけばいいのでしょうか。
対処法1. 「上司がマイクロマネジメントをする背景」を考える
対処する第一段階として、上司がマイクロマネジメントをする背景を知る必要があります。ニューヨーク大学スターン経営大学院の教授ジュリアンナ・ピルマー氏は、「マイクロマネージャーのほとんどは悪人ではない」とし、ただ「効果的なマネジメント方法を知らないだけ」だと語ります。*3
つまり、マイクロマネジメントをする理由が単に「マネジメント方法を間違えているから」である可能性も考えられるのです。
前出の藤本氏は、マイクロマネジメント上司を以下の2パターンに分類しています。*1
- 「不安」から来るもの
→「部下の失敗によるリスクを避ける」ために管理したがる - 「自己顕示欲」から来るもの
→「自分のやり方で部下を指導したから成功した」と周囲にアピールしたい
前者の不安から来るものは、厳しい言い方をすれば「あなたが信頼されていない」ことが原因だと言えるでしょう。
藤本氏は、上司が自分の若い頃の姿と部下を重ね合わせてしまうことで、さらに管理が厳しくなる傾向があると述べます。*1 つまり、過去の経験から失敗が予見できてしまうから管理が細かくなるのです。
「わたしが失敗するのが不安で口を出してくるのかな?」「能力をアピールしたいだけなのだな」と一度、動機を考えてみましょう。上司の特徴がわかれば、対応法が思いつくはずです。
対処法2. 「上司の不安や心配」を取り除く
上司のマイクロマネジメントの原因が、あなたが失敗することへの不安から来るものであるなら「まめに報告」して心配を取り除くのが最善の方法です。
上司としては失敗へのリスクを減らそうとすることは当然ですし、理解すべきことです。では、上司が一番懸念しているものはなんでしょうか。マネジメントコンサルタント、ヒューマンテック代表取締役の濱田秀彦氏は、その答えを述べています。
最終的に上司が気になるのは、「チームの成果、業績」です。(中略)「上司の不安のもとはこれだ!」ということを推定し、それに関することは、ささいなことでも、報告や相談をする、ほかのことは脇に置いておくということを試してみます。*4
つまり、部下の失敗や業務の遅れが「成果や業績にも悪影響を及ぼす」ことを恐れているのです。成果に責任を負う立場である以上、当然ともいえます。であるならば、濱田氏が述べるとおり「ささいなことでも、報告や相談」をすれば、上司は状況をはっきりと把握できるため、安心すると想像できますね。あなたにとって「ささいなこと」でも、実際にはクリティカルな影響を与える可能性があることもたくさんあるはずです。
ですが、いくら報告を求められるとはいえ、忙しい上司にすべてを報告する必要はありません。濱田氏はチームの業績に関わるものは途中経過でも報告し、絶対に影響のないものは報告を控えることが好ましいと述べます。
たとえば、報告を分けるなら次のとおり。
- 【優先的に報告する】案件の進捗状況、プロジェクトや業務の想定リスク、外部に向けた発信
- 【優先度の低い報告】チーム内部で行なうミーティングの資料準備、事務作業の優先順位
報告すべき重要なものはあなたが思うより範囲が大きいかもしれません。少し大きめに範囲を見極めて、上司から言われる前に逐一報告しましょう。上司の不安を取り除くだけではなく、「わざわざ聞かなくても、動いてくれる部下だ」と、あなたに対する信頼や評価も上がるはずです。
対処法3. 「フィードバック」を求める
上司を満足させるためには、フィードバックを求めてみましょう。仕事の進め方や自分のパフォーマンスについてアドバイスを求めれば、上司を立てることにつながります。
キャリアコーチのオクタビア・ゴレデマ氏は、上司の優先事項や望んでいることを知るために、オープンクエスチョン(自由に答えてもらう質問形式)で疑問点を明確にすることを勧めています。*3
一例として、重要案件の進捗が遅れている場面を想定しましょう。「イエス/ノー」で答えられないオープンクエスチョンを使って、フィードバックを求めるとしたら——
「現在、新規に獲得したクライアントの対応やほかの案件を同時並行で進めているため、Aプロジェクトの進捗が遅れている状況です。こうした状況でどのように優先順位を決めたら、業務の遅れが改善するでしょうか。ご指導いただけますと幸いです」
上司が自分の能力を周囲に知らしめたくてマイクロマネジメントをするのなら、「アドバイスを求める姿勢」はより効果的な方法と言えるでしょう。 「教えてもらう」のは、上の立場にいる人——つまり、自分より能力があり知識がある人にしかできないからです。
また、フィードバックを得ることで上司が好む仕事の進め方がわかります。上司の性格を読み、上司の好むやり方を考えながら仕事を進めれば、余計な干渉も減るでしょう。
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職場のストレス原因が上司であれば、対処が難しいものです。解決の方法は「上司が求めるものを満たしていく」こと。前もって報告することで不安を取り除いておけば、信頼を勝ち取れるはずです。
*1 東洋経済オンライン|プレーヤーで一流でも上司として三流の人の特徴
*2 パーソル総合研究所|「動かない部下」はなぜできる?マイクロマネジメントの科学
*3 Harvard Business Review|When Your New Boss Is a Micromanager
*4 東洋経済オンライン|「過干渉な上司」からメンタルを守る3つの極意
青野透子
大学では経営学を専攻。科学的に効果のあるメンタル管理方法への理解が深く、マインドセット・対人関係についての執筆が得意。科学(脳科学・心理学)に基づいた勉強法への関心も強く、執筆を通して得たノウハウをもとに、勉強の習慣化に成功している。