リスキリングでよくある「4つの壁」の乗り越え方。学びをキャリアへ確実につなぐ方法とは?

後藤宗明さんインタビュー「リスキリングでよくある『4つの壁』の乗り越え方」01

「新しいことを学び、新しいスキルを身につけ実践し、そして新しい業務や職業に就くこと」を意味する「リスキリング」。世界的に見て成長の低迷が目立つ日本の企業はもちろん、ビジネスパーソン個人にとってもその重要性が叫ばれるなか、リスキリングを始めようと考えている、あるいはすでに取り組んでいる人もいるでしょう。

ただ、一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブ代表理事の後藤宗明(ごとう・むねあき)さんは、「リスキリングには多くの人がぶつかりがちないくつかの壁がある」と語ります。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹

リスキリングの必要性を認識し、自分の学びのスタイルを見つける

「リスキリング」に取り組むなかでは、大きく4つの壁が立ちはだかると考えています。時系列で言うと、最初にぶつかるのが「マインドセットの壁」、そして「学びの壁」「実践の壁」「職業の壁」と続きます。

マインドセットの壁、学びの壁については、これまでの私の記事で詳しく解説してきましたから、ここでは簡潔に述べます。

マインドセットの壁とは、「本当にリスキリングは必要なの?」と考えるような人がぶつかる壁です。必要性を認識しなければ、そもそもリスキリングに取り組もうとは思わないでしょう。この壁を乗り越えるには、時代背景と照らし合わせながら、いまリスキリングは絶対に必要だということをしっかり認識する必要があります(『自分の価値を高めるには「リスキリングするしかない」。ただの学び直しではないリスキリングの本当の意味』参照)。

2つめ、学びの壁は、子どもの頃から机に向かって勉強するのが嫌だったというような、学びに対して苦手意識をもっている人がぶつかる壁です。リスキリングの必要性は認識しながらも、いざ学ぼうとすると苦手意識が邪魔をしてなかなか先に進めないとなれば、リスキリングの成功確率は大きく低下してしまうでしょう。

そういう人の場合、「学びのスタイル」を柔軟に変えていくことが肝要となります。講義を聞いたり机に向かって本を読んだりするだけが、学びのスタイルではありません。先入観を捨てて自分なりに楽しみながら学べるスタイルを見つけてほしいと思います(『第一人者が教える「リスキリング」の超基本。最初に確認すべきは “この6つ”』参照)。

後藤宗明さんインタビュー「リスキリングでよくある『4つの壁』の乗り越え方」02

会社に働きかけて、実践の場を確保する

リスキリングを進めるなかでぶつかる3つめの壁が、実践の壁です。自分の将来を見越して「学ぶべきことはこれだ!」というものを見つけ、しっかり学んだとします。でも、組織のなかではそのスキルを実践する場を与えられるとは限りません。実践の場で使い続けなければ、せっかく学んだこともいずれ忘れてしまうでしょう。

そこで、少しでも実践の場に身を置けるように、会社に対して自ら積極的に働きかけることが重要となります。私の場合、かつて勤めていた企業では営業を担当していました。そのなかで自分にもデジタル分野の知識やスキルが必要だと考えて学んだのですが、もちろんすぐに実践の場を与えられるほど世の中は甘いものではありません。

そのため、会社にかけ合って、私が議事録をつくることを条件に、AIの開発部隊のミーティングへの参加を了承してもらいました。その目的は、実際に開発に携わっているエンジニアたちの生の声を聞くことです。

自分なりにデジタルについて学んだつもりでしたが、現場では知らない専門用語のオンパレードでわからないことだらけ……(苦笑)。でも、それらをすぐに調べるようにしたところ、多くの学びを得ることができました。

もちろんこのことは、本当の意味での実践とは言えないかもしれませんが、実践の現場に近いところに身を置けたことは、大いに意味があったと思っています。

また、海外でリスキリングにおける王道の手法とされる「アプレンティスシップ制度」というものを導入してもらうよう、会社に提案することもひとつの手でしょう。「アプレンティス(apprentice)」は、「弟子」を意味する英語です。社内で当該分野のスペシャリストである人の弟子として実践の場に置いてもらう制度のことです。

後藤宗明さんインタビュー「リスキリングでよくある『4つの壁』の乗り越え方」03

学んで実践してきたことを、自分に「タグづけ」する

リスキリングに取り組むうえでぶつかる最後の4つめの壁は、職業の壁となります。スキルを実践することはできた。でも、まだまだ見習いレベルだとしたら、やはりそのスキルを活かした業務や職業に就くのはそう簡単ではありません

そういう状況において最も重要なのは、「アウトプット」です。具体的には、「自分の価値を伝える努力をする」ことになります。これは、「経営のプロ」という人材に特化した人材紹介事業を行なう、株式会社プロノバのCEOである岡島悦子氏が提唱しているもので、自分に「タグづけ」することが重要なのです。

たとえば、私はいま「リスキリングの人」になっています。しかし、私がリスキリングについて学んだ当初、自分に「リスキリングの人」というふうにタグづけできていなかったとしたら、いまの私はなかったかもしれません。

大切なのは、たとえばデジタルマーケティングについて学んだり実践したりしたのであれば、「デジタルマーケティングの人」と自分にタグづけしたうえで、その情報を周囲に流通させることです。社内であれば上司や人事部に対して、「いまはデジタルマーケティングについて学んでいるので、将来はそれを活かした仕事をしたい」などと伝えるのです。

この職業の壁は、もしかしたら「日本人の壁」と言い換えてもいいかもしれませんね。謙虚で奥ゆかしいことを美徳とする日本人の場合、自分をアピールすることが苦手だという人も多いものです。天命を待つではありませんが、「努力していたらきっと誰かが見てくれているだろう」という意識が強く、むしろ自分を強くアピールする人を蔑視する風潮すら見られます。

でも、なにかのスキルを身につけても、それについて周囲の誰も知ることがなければ、社内で抜擢されたり他社から声がかかったりすることもないでしょう。せっかくの学びや実践をキャリアにつなげられるよう、日本人の壁を乗り越えていってほしいと思います。

後藤宗明さん

【後藤宗明さん ほかのインタビュー記事はこちら】
自分の価値を高めるには「リスキリングするしかない」。ただの学び直しではないリスキリングの本当の意味
第一人者が教える「リスキリング」の超基本。最初に確認すべきは “この6つ”

自分のスキルをアップデートし続ける リスキリング

自分のスキルをアップデートし続ける リスキリング

  • 作者:後藤宗明
  • 日本能率協会マネジメントセンター
Amazon

【プロフィール】
後藤宗明(ごとう・むねあき)
一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブ代表理事。SkyHive Technologies日本代表。早稲田大学政治経済学部卒業後、1995年に富士銀行(現みずほ銀行)入行。2002年、グローバル人材育成を行うスタートアップをニューヨークにて起業し、卒業生約2,000名を輩出。2008年に帰国し、米国の社会起業家支援NPOアショカの日本法人を2011年に設立後、米国フィンテック企業の日本法人代表、通信ベンチャーの国際部門取締役を経て、アクセンチュアにて人事領域のDXと採用戦略を担当。2021年、日本初のリスキリングに特化した非営利団体、一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブを設立。2022年、AIを利用してスキル可視化を含むリスキリング・プロセス支援を可能とするカナダ初のリスキリングプラットフォーム、SkyHive Technologiesの日本代表に就任。石川県加賀市「デジタルカレッジKAGA」理事、広島県「リスキリング推進検討協議会/分科会」委員、経済産業省「スキル標準化調査委員会」委員、リクルートワークス研究所客員研究員を歴任。日本全国にリスキリングの成果をもたらすべく、政府、自治体向けの政策提言および企業向けのリスキリング導入支援を行う。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。

会社案内・運営事業

  • 株式会社スタディーハッカー

    「STUDY SMART」をコンセプトに、学びをもっと合理的でクールなものにできるよう活動する教育ベンチャー。当サイトをはじめ、英語のパーソナルトレーニング「ENGLISH COMPANY」や、英語の自習型コーチングサービス「STRAIL」を運営。
    >>株式会社スタディーハッカー公式サイト

  • ENGLISH COMPANY

    就活や仕事で英語が必要な方に「わずか90日」という短期間で大幅な英語力アップを提供するサービス。プロのパーソナルトレーナーがマンツーマンで徹底サポートすることで「TOEIC900点突破」「TOEIC400点アップ」などの成果が続出。
    >>ENGLISH COMPANY公式サイト

  • STRAIL

    ENGLISH COMPANYで培ったメソッドを生かして提供している自習型英語学習コンサルティングサービス。専門家による週1回のコンサルティングにより、英語学習の効果と生産性を最大化する。
    >>STRAIL公式サイト