
📘 新人さんのためのマーケティング講座 Season8
Season7では「なぜこの構造(仕組み)は崩れないのか」を20社の事例で深掘りしました。
Season8でも引き続き、現代のマーケティングの本質を事例で解き明かしていきます。
まだ過去のSeasonを読んでいない方は、そちらからどうぞ。
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東京・神奈川の住宅街を歩けば、驚くほどの密度で視界に入る緑色の看板——「まいばすけっと」。2025年度末の店舗数は1,323店舗。2026年度以降は年間200店舗以上のペースで出店を加速すると、イオンの吉田社長が宣言しています。*1
24時間営業でもなく、駐車場もない。この「地味で小さい売場」が、なぜセブン-イレブンや大手スーパーの顧客を奪い続けているのでしょうか。前回のロピア(大型・まとめ買い・肉のテーマパーク)とは真逆の方向で、まいばすけっとは日常インフラとしての地位を確立しつつあります。
- 「コンビニのタイパ」×「スーパーのコスパ」——業界の常識を破った禁断の掛け算
- 居抜き出店×超高密度ドミナント——「包囲網」を低コストで張る方程式
- 「二兎を追う者は一兎をも得ず」という常識を疑え——掛け算の視点が新市場を開く
- よくある質問(FAQ)
「コンビニのタイパ」×「スーパーのコスパ」——業界の常識を破った禁断の掛け算
現代の買い物客には、根深いジレンマがあります。
コンビニは近くて早いが「定価だから高い」。大型スーパーは安いが「遠いし、広すぎて歩くのが面倒」——このどちらかに妥協するしかないという「不満の空白地帯」が長年放置されていました。
まいばすけっとはそこに入り込みました。標準的な売場面積は約50〜60坪とコンビニとほぼ同じ。*2 この小ささが「入店からカゴを持ってレジを出るまで数分で完結する」という圧倒的な時間効率を生み出します。しかし中身はイオンの調達力とプライベートブランド「トップバリュ」を直輸入。コンビニで230円するカップ麺が130〜140円、150円以上のペットボトル飲料が130円台——これがスーパー並みのコスパです。*1
| 比較軸 | コンビニ | 大型スーパー | まいばすけっと |
|---|---|---|---|
| 距離・立地 | ◎ 近い | △ 遠い | ◎ 近い |
| 店内滞在時間 | ◎ 数分 | △ 数十分 | ◎ 数分 |
| 価格 | △ 高い | ◎ 安い | ◎ 安い |
| 2026年の立ち位置 | 顧客を奪われつつある | 遠い・面倒という弱点 | 双方の弱点を消した |
「近さ」と「安さ」はトレードオフだという業界の常識を、まいばすけっとは破りました。コンビニとスーパーのどちらも諦めていた「真ん中の不満」を突いた結果が、2025年度の売上高3,300億円・「全ての段階利益において増収増益」という数字です。*1

居抜き出店×超高密度ドミナント——「包囲網」を低コストで張る方程式
まいばすけっとの出店スピードを支えるのが「居抜き出店」です。元コンビニや元飲食店の物件をそのまま活用することで、初期投資を通常のスーパーの半分以下に抑えています。*2 面積も最低40坪から対応可能なため、コンビニ撤退後の空き物件に次々と出店できます。
さらに同じエリアに集中して出店する「ドミナント戦略」が配送コストを劇的に削減します。*3 自社の物流トラックが数分おきに次の店舗へ回れる高密度ルートは、大型スーパーには真似のできない効率です。2030年度に向けて日販80万円・2,500店舗・売上高7,000億円という目標も、この仕組みの延長線上にあります。*1
2025年度の実績では日販71万7,000円と着実に向上しており、吉田社長が「コンビニとの価格優位性を生かしたおにぎりやパン、総菜の強化によって日販が上昇してきた」と語るように、*1 近さ×安さ×生鮮総菜という三位一体の組み合わせが首都圏住民の「毎日の食卓の素材調達先」として定着しつつあります。
物価高が続く2026年、コンビニで買い物をするたびに「スーパーで買えばもっと安いのに」という不満を感じる人たちにとって、徒歩5分以内に「コンビニサイズで済む手軽さとスーパーの安さを持つ店」が存在することは、ライフスタイルを変える体験です。

「二兎を追う者は一兎をも得ず」という常識を疑え——掛け算の視点が新市場を開く
まいばすけっとの事例から学べる最も重要な視点は、「業界の巨人が諦めていた場所を探す」という問いの立て方です。
コンビニは「近さ」を手に入れるために「高さ」を諦め、スーパーは「安さ」を手に入れるために「近さ」を諦めた——この「当たり前のトレードオフ」を疑わずに受け入れてきた結果、「近くて安い」という顧客の本音の需要が長年満たされないままでした。
自分のビジネスでも同じことが起きていないでしょうか。業界の巨人Aの強みと巨人Bの強みを抽出し、「両者が諦めていた真ん中の不満」を突く掛け算の視点——これが新しい市場を生む出発点になります。
2026年のマーケティングは、新しいライフスタイルを創ることだけではありません。顧客の「日常のちょっとした面倒(ペイン)」を最も安く最も近くで回収する「黒衣(インフラ)」になること——まいばすけっとが2030年に2,500店舗・売上高7,000億円を目指す理由は、まさにそこにあります。

【本記事のまとめ】
1. 「コンビニのタイパ」×「スーパーのコスパ」——業界の常識を破った禁断の掛け算
コンビニと同じ約50〜60坪の売場サイズで数分の買い物を実現しながら、イオンの調達力でコンビニより大幅に安い価格を実現。カップ麺230円→130〜140円、ペットボトル150円→130円台という価格差が「近さと安さのトレードオフ」という業界の常識を破った。2025年度売上高3,300億円・全段階利益で増収増益を達成。
2. 居抜き出店×超高密度ドミナント——低コストで「包囲網」を張る方程式
元コンビニ跡地などの居抜き物件を活用して初期投資を半減させ、同エリアへの集中出店による配送効率の最大化を図る。日販は71万7,000円まで向上し、おにぎり・パン・総菜の強化が日販上昇に寄与。2030年度目標2,500店舗・売上高7,000億円へ向けて年200店舗ペースで拡大中。
3. 業界の巨人が「諦めていた真ん中の不満」を突く——掛け算の視点が新市場を開く
コンビニもスーパーも当たり前のトレードオフとして受け入れてきた「近さ」と「安さ」の矛盾を解消したことで、長年満たされなかった需要を取り込んだ。業界の常識を「問い直す」ことが、インフラになる道だ。
よくある質問(FAQ)
まいばすけっとは首都圏以外には出店しないのですか?
現状は東京・千葉・埼玉・神奈川の1都3県に集中しています。この「首都圏限定」はドミナント戦略の核心です。同じエリアに集中することで配送コストを最小化し、ブランド認知を高め、出店コストを抑えられます。2030年の2,500店舗・将来目標の5,000店舗という数字は、首都圏だけで達成できると試算されています。首都圏のコンビニ3社の合計店舗数は東京都内だけで約7,000店に及ぶため、同様の密度で展開する余地は十分あるとされています。他地域への進出は、この首都圏での成功モデルを完成させた後の課題です。
「業界の巨人が諦めていた真ん中の不満を突く」戦略は、他の業種でも使えますか?
使えます。たとえばジム業界では「本格的なトレーニング(高品質)」と「気軽に通える安さ(低コスト)」がトレードオフとされていましたが、月額3,000円程度のコンビニジムがその常識を破りました。歯科業界でも「予約なしで当日行けるクリニック(近さ・手軽さ)」と「専門的な治療(品質)」が対立していましたが、コンビニエンスクリニックがその中間を埋めつつあります。自分のビジネスで「業界の常識としてトレードオフとされているものは何か」を問い直すことが、このアプローチの出発点です。
まいばすけっととセブン-イレブンなど大手コンビニは、今後どう競争しますか?
コンビニ側も対応を始めています。セブン&アイHDは売場面積88坪の新コンセプト店「SIPストア」をオープンし、まいばすけっとに対抗しています。コンビニが価格を下げてスーパーに近づくか、まいばすけっとがサービスを拡充してコンビニに近づくか——両者の中間に向けた競争が激化しています。ただし物流網・ブランド認知・イオングループの調達力という3つのアドバンテージは短期間では追いつけないため、まいばすけっとの優位性はしばらく続くと考えられます。
*1|流通ニュース「まいばすけっと/30年度日販80万円へ、高速出店と2軸で成長」(2026年4月10日)。2025年度実績:日販71万7,000円・1,323店舗・売上高3,300億円・2030年度目標:日販80万円・2,500店舗・売上高約7,000億円・将来目標5,000店舗を確認。イオン吉田社長の「2026年度からは年間200店舗以上の出店を目指す」発言(2025年10月14日決算会見)・「コンビニとの価格優位性を生かしたおにぎりやパン・総菜の強化により日販が上昇」という説明・カップ麺230円→130〜140円というコンビニとの価格差・トップバリュ(PB)の活用を確認
*2|日本経済新聞「まいばすけっと、30年に倍増の2500店 コンビニ跡地に居抜き出店」(2025年8月10日)。コンビニ閉店跡の居抜き物件を活用・陳列棚や空調設備・内装を再利用・初期投資を店舗新設の半分以下に抑え工期も3分の1程度に短縮・売場面積はコンビニに近い約60坪(標準)・居抜き出店が多い実態・東京・千葉・埼玉・神奈川の1都3県に集中展開・ペットボトル飲料コンビニ150円以上→まいばすけっと130円台・弁当類コンビニ600〜700円台→まいばすけっと600円以下という価格差を確認
*3|JBpress「年間200店の高速出店と高密度ドミナント戦略は可能か?イオン『まいばすけっと』、成長持続への5つの勝負どころ」(2025年11月21日)。同エリア集中出店によるドミナント戦略・居抜き物件活用による初期投資半減・「節約志向の高まりにより、コンビニやスーパーマーケットの客数が伸び悩む中、立地の便利さと相対的な安さが強みとなってシェアを拡大している」というイオン吉田社長の発言・「全ての段階利益において増収増益を確保して、安定的な利益を生み出す業態となった」を確認
▼ 新人さんのためのマーケティング講座 Season8
現代のマーケティングの本質を事例で深掘りしていきます。
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岡 健作(おか・けんさく)
株式会社新恵社代表取締役/スタディーハッカー(現(株)イングリッシュカンパニー) 創業者。
1977年生まれ、福岡出身。同志社大学卒業。2010年に創業。「Study Smart(合理的に学ぶ)」をコンセプトに、科学的知見に基づく英語パーソナルジム「ENGLISH COMPANY」を設立し、人気ブランドへと成長させる。 事業拡大の要として、自らオウンドメディアとSNSの編集長を兼任。オウンドメディアは最大500万PV、Instagramでは月間700万PV、フォロワー27万人規模のメディアにするなど、広告費に依存しない集客モデルを確立する。現在はその知見を活かし、「企業の認知獲得の専門家」として、論理とデータに基づいた再現性の高いメディア戦略・ブランディング論を発信している。
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