迷いを味方にする「ネガティブ・ケイパビリティ」実践術

将来に関わる大切な決断を前に、戸惑いや迷いを感じている様子

「優柔不断は機会損失だ」 「決断力のなさは弱さの表れ」 「スピードがビジネスの生命線」

現代社会では、こうしたメッセージが至るところに溢れています。とくに20 〜 40代のビジネスパーソンにとって、キャリアの転換期、結婚や出産といったライフイベント、投資や起業の決断など、人生を左右する選択の連続です。

SNSでは同世代の成功体験が次々とタイムラインに流れ、「自分も早く決めなければ」という焦りは募るばかり。しかし、ここで立ち止まって考えてみてください。 急いで下した決断で、後悔した経験はありませんか?

「もう少し待てばよかった」 「なぜあんなに焦っていたんだろう」 そんな苦い記憶が、誰にもひとつやふたつはあるはずです。じつは、「迷う」ことは弱さではありません。むしろ、複雑な現代において、あえて迷う時間を持つことこそが、最良の結果を導く「戦略」なのです。

「ネガティブ・ケイパビリティ」で待つ力を養う

19世紀の詩人ジョン・キーツは「ネガティブ・ケイパビリティ(Negative Capability)」という考え方を提唱しました。 *1

 
 

ネガティブ・ケイパビリティとは

  • どうしても対処できない状況に耐える能力。
  • 容易に答えが出ない事態にも性急に事実の解明や理由を求めず、不確実さのなかにいることができる能力。

キーツの死から約160年後、英国の精神科医ウィルフレッド・R・ビオンが「ネガティブ・ケイパビリティ」を世に広めました。

スピードを求められる現代社会では、誰しも「モタモタしていないで、早く決めなければ」と焦ってしまうもの。

そんなとき、「ネガティブ・ケイパビリティ」という概念を知っていれば、あえて問題解決を保留にするという選択を下し、本当に決定すべきタイミングまで待つことができるようになります。

ネガティブ・ケイパビリティは身につけられる?

もし「ネガティブ・ケイパビリティを身につけたい!」と思ったら、どうすればよいのでしょうか?

ネガティブ・ケーパビリティについての著書を出版している精神科医の帚木蓬生氏は、「ネガティブ・ケイパビリティは頭のなかに置いておけばよいものなので、『きちんと身に付けなければ』と踏ん張るのは難しい」と述べています。*2

つまり、ノウハウとして身につけるものではなく、あくまで考え方としてもっておくもののようです。

たとえば、仕事やプライベートで複雑な問題が起きたとき、

「すぐに決めるのではなく、『ネガティブ・ケイパビリティ』の考え方で、機が熟するのを待とう。これも戦略のひとつだ」と考えることで、焦らずに最善の結果を考える時間をもつことができます。

そのうえで、「決断の前に自分にできることをする」というのが、賢い方法なのです。それでは、迷いを抱えているあいだでも実践できる具体例を紹介します。

顎に手を当て、真剣な表情で考え込む男性。決断を前に迷いながらも冷静に思案している様子

「迷っている期間」に実践できること

臨床心理士の中島美鈴氏は、意思決定をする際、以下の4つのプロセスを押さえることを提案しています。*3

 1. 問題の明確化
 2. 情報収集
 3. 選択肢の作成
 4. 価値判断

例 | 転職を検討している場合

1.   問題の明確化
現職では成長機会が限られており、このままでは専門スキルが伸びず、将来のキャリアに不安を感じる。状況を変えるため、転職したい。

2.   情報収集
求人サイトで業界の動向を調べる。転職エージェントに相談し、実際の募集状況や年収水準を把握する。友人や先輩に体験談を聞く。

3.   選択肢の作成
①  現職に残り、社内公募や部署移動の機会を狙う
②  同業界の大手に転職する機会を探る
③  成長著しいベンチャー企業に転職して裁量権の大きい仕事を経験する

4.   価値判断
「いまは年収よりも、事業成長のスピードを経験したい」と判断。ベンチャー企業への転職活動を本格的に進める決断をする。

解決したい問題があるときは、このように4つのプロセスに沿って考えれば、時間をかけてじっくりと意思決定できるようになります。

あえて迷っている期間は、このなかの2(情報収集)と3(選択肢の作成)に時間を当てるのが賢明です。

ただ迷い続けて、時間だけが過ぎていくのはなく、

「そのうち決めるべきタイミングが来る。それまでは『情報収集』と『選択肢の作成』をしておこう」と、「迷い」のなかでも自分にできることがあると、落ち着いて決断や結果を待つことができるそうです。

黒板にチョークで描かれたフローチャートと「DECISION(決断)」の文字

あえて「迷うこと」がよい結果につながる理由

私たちは結論を出すと安心する特徴があります。なぜなら、「これでいこう」と決めた瞬間にストレスが減り、頭のなかがすっきりするからです。しかし、「安心したいから」と急いで決定したがために、仕事で失敗したという経験はありませんか?

たとえば、下記のような例です。

転職活動で「急いで次を見つけないと」と焦って決めたものの、転職前よりも環境が悪くなったり、自分に全く合っていなくてして後悔した。

戦略会議で「競合より安くすれば売れる」と即決し、大幅な値下げを実行した。しかし、顧客アンケートを詳しく分析すると、ターゲット層は価格よりも品質を重視していたことが判明し、ブランド価値を毀損する結果になった。

なにかを決断するには、情報収集や関係者との調整といった「判断の材料」をそろえることが欠かせません。しかし「早く決めて安心したい!」と、それらをすっ飛ばして決定してしまうと、必要な材料が不足し、不本意な結果につながってしまうのです。

大切なことは、可能な範囲で「迷う期間」をつくること。ある程度の期間、宙ぶらりんの状態を維持するのはストレスが溜まるもの。しかし、この「迷う期間」にじっくり向き合い、情報収集や試行錯誤に時間をかけることで、納得がいく結果につながるのです。

「迷えない人」への処方箋

前出の帚木氏は、現代人の多くが「迷えなくなっている」と指摘します。 これは、効率化、最適化、即断即決といった価値観に縛られている可能性があります。 つまり、「迷ってもいいんだ」という許可を自分に与えるだけで、物事の見え方が変わるということです。

***
大切なことは、迷いを放置することでも、すぐに消そうとすることでもなく、あえて待つ時間をつくるという選択肢を自分に与えること。ネガティブ・ケイパビリティの考え方をベースに、自分にできることをして待つことで、心から納得できる結果を手にしましょう。

【ライタープロフィール】
柴田香織

大学では心理学を専攻。常に独学で新しいことの学習にチャレンジしており、現在はIllustratorや中国語を勉強中。効率的な勉強法やノート術を日々実践しており、実際に高校3年分の日本史・世界史・地理の学び直しを1年間で完了した。自分で試して検証する実践報告記事が得意。

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