優秀なマネジャーほど、最初はなにも変えない。Google流「チームづくり」の意外な第一歩

諸橋峰雄が語るGoogle流チームの動かし方——まず変えるより知ることが新任マネジャーの第一歩

マネジャーになりたての人が犯す失敗があります。「早く結果を出さなければ」と焦るあまり、就任初日から改革を打ち出すことです。Googleではチームメンバー含め70人ほどの関係者と1on1を重ねてチームを理解してから動いた——そんな流儀を経験した諸橋峰雄さんは、「最初にやるべきことは、変えることではなく、知ることだ」と語ります。現在はマーサージャパンで組織変革や人材マネジメントを探求する諸橋さんが、実践的なチームの動かし方を教えてくれました。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人

【プロフィール】
諸橋峰雄(もろはし・ねお)
1973年生まれ、東京都出身。マーサージャパン株式会社 シニアプリンシパル 組織変革エクセレンスユニット統括。組織変革、AI・デジタル領域を専門とするプロフェッショナル。人的資本価値を最大化する経営・組織マネジメントの在り方を日々探求しクライアントと向き合っている。コンピュータサイエンス領域での研究者からキャリアをスタート。戦略・企業再生コンサルティング会社を複数経験した後に組織人事領域に転身。組織変革コンサルティング会社の共同創業者兼パートナー、HR TechスタートアップCOOを歴任後、グーグル日本法人の新規営業チームマネジメントに従事。ビジネス・ブレークスルー大学経営学部客員教授。NPO法人BLUE FOR JAPAN理事。趣味はトライアスロンと華道(草月)。慶應義塾大学博士(工学)。

いきなり成果を求めるよりもまずは「人を知る」

マネジャーとしてチームを率いることになったとき、多くの人は「早く成果を出さなければ」と考えます。しかし、最初にやるべきことは、なによりも人を知ることです。

私の共著書『Googleで学んだ 圧倒的成果を出し続けるマネジャーの最優先事項』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)では、マネジャーがまず取り組むべきこととして、「メンバーを知る」「チームの業務を知る」「チームの実態をつかむ」の3つを挙げています。なぜなら、これらを理解しないままマネジメントを始めると、高い確率で失敗するからです。

なかでも、外部から管理職として入社した人は注意が必要です。前職での成功体験や、自分なりのマネジメント論をそのまま持ち込んでしまうケースが少なくありません。もちろん、それらが役立つこともありますが、会社が変われば文化も人も違います。同じやり方がそのまま通用するとは限らないのです。私自身もまさにその罠にはまった典型例です。Googleに入ったとき、前職までの経験に頼り過ぎたことで、動き方を誤り、チームとの関係性がぎくしゃくした時期がありました。

Googleで行われていたやり方は、新しくマネジャーになると最初の1か月ほどは徹底的に人と会うことでした。私自身も、70人ほどの関係者と1on1ミーティングを重ねながら、それぞれがどういった人なのか、自分のチームがどのように見られているのか、どのような課題を抱えているのかといったことを把握していった記憶があります。

マネジャーになると、つい「どう変えるか」を考えたくなりますが、その前に「いまなにが起きているのか」を理解しなければなりません。だからこそ、最初に必要なのは、現場の人の話を聞くことなのです。

メンバーはなにを考えているのか、どのような強みを持っているのか、チームにはどのような文化があるのか——。そうしたことを丁寧に理解して初めて、本当に必要なマネジメントが見えてくるのだと考えます。

ゴールは与えるものではなく共有するもの——対話でチームの主体性を引き出すGoogle流目標設定の方法

ゴールは与えるものではなく共有するもの

マネジャーの重要な仕事のひとつに、目標の設定と共有があります。ただ、多くの人がイメージするような「これが今期の目標ですから頑張りましょう」というような話ではありません。

Googleでは、営業チームであれば売上目標そのものは上から与えられます。しかし、その数字だけを示しても人は動いてくれません。私がいた頃も厳しい数字が降りてくることは珍しくありませんでした。最初のチームミーティングで数字を見せたとき、メンバーから返ってきた言葉は「無理でしょ、それ」でした。

そこで重要になるのが対話です。なぜこの目標なのか、それにどのような意味があるのか、達成するためになにが必要なのか、どのようなリスクが考えられるのか、なにをどうやって達成できるように持っていくのか。そうしたことをチーム全体で議論していきます。

私たちは四半期ごとに目標を振り返り、次の四半期に向けてなにをするべきかを話し合っていました。その過程では、過去の失敗も成功も含めて徹底的に棚卸しをします。

すると、不思議なことが起きます。最初は「絶対に無理だ」と思っていた目標が、「あれ? もしかしたらできるかもしれない」という感覚へ変わっていくのです。もちろん、最終的に達成できる保証はありません。それでも、自分たちで考え、自分たちで納得した目標に向かう姿勢には主体性が生まれます。

だからこそ、マネジャーは答えを与え過ぎてはいけません。目標を共有する場で重要なのは、マネジャーが優秀なアイデアを披露することではなく、チームの知恵を引き出すことです。メンバーから出てきたアイデアに肉づけをしながら、実現可能性を高めていく。そのようなファシリテーターとしての役割こそ、現代のマネジャーには求められていると思います。

SBIフレームワークで行動にフォーカス——Googleが実践するネガティブフィードバックの伝え方と伴走者としての役割

ネガティブフィードバックは「行動」にフォーカスする

マネジャー業務のなかでも多くの人が苦手意識を持つのが、ネガティブフィードバックです。実際、私自身も含め、多くのマネジャーが悩んでいる場面を見てきました。相手のためになるとわかっていても、厳しいことを伝えるのは簡単ではありません。伝え方を間違えれば、相手を傷つけたり関係性を損ねたりする可能性もあるでしょう。

そこで重要になるのが、「人格」ではなく「行動」に対してフィードバックすることです。Googleでは、「SBI」という枠組みをよく使っていました。Situation(どのような状況で)、Behavior(どのような行動を取り)、Impact(どのような影響が生じたのか)。この順番で伝えることで、「あなたが悪い」という話ではなく、「この行動を変えれば結果も変わる」という建設的なフィードバックの伝え方になります。

また、フィードバックはできるだけ早く行うことも重要なポイントです。人は時間が経つと、自分の行動を忘れてしまいます。1か月後に指摘されても、本人には実感がありません。ですから、問題が起きたらできるだけ早いタイミングで伝える必要があるのです。当時は、たとえば事象が起きたミーティング直後に3分とってすぐフィードバックをするなど、リアルタイムでの伝え方をするようにしていました。

そして、こうした役割は、AIには代替しにくいものだと感じています。AIは情報整理や分析を得意とします。しかし、誰かの不安に寄り添ったり、モチベーションを高めたり、信頼関係を築いたりすることは、現時点ではまだ難しいでしょう。

これからの時代のマネジャーに求められることのひとつは、人との関係性を築く力だと思います。私の共著書ではマネジャーを「伴走者」と表現していますが、同じ方向を見ながら、時には障害を取り除き、時には背中を押す。そのような存在としてメンバーと向き合うことが、これからのマネジメントの方法だと思います。マネジャーとしての本質的な役割は、チームの「できない」という思いを「できるかも」と変える体験をともにつくることです。

「できない」を「できるかも」に変える伴走者——諸橋峰雄が語るこれからのマネジャーに求められる関係性構築力

諸橋峰雄さん ほかのインタビュー記事はこちら】

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)

1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。