部下が育つ1on1にはコツがある。Googleが実践する「上司2:部下8」の法則

諸橋峰雄が語るGoogle流1on1の本質——部下の思考を深め成長を支援する「上司2:部下8」の対話術

いま、多くの企業で導入されている1on1ミーティング。一方で「1on1をやっているけれど、なんの効果も出ない」という声もよく聞きます。その多くは、上司が話し過ぎるものではないでしょうか。Googleで実践していたのは、多くの時間を部下に話してもらう1on1でした。Googleでマネジメントを経験し、現在はマーサージャパンで組織変革や人材マネジメントを探求する諸橋峰雄さんは、「1on1は部下の思考を深め、成長を支援するための場」だと語ります。人が自ら考え、行動し、成長していくプロセスを支える対話とはどのようなものでしょうか。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人

【プロフィール】
諸橋峰雄(もろはし・ねお)
1973年生まれ、東京都出身。マーサージャパン株式会社 シニアプリンシパル 組織変革エクセレンスユニット統括。組織変革、AI・デジタル領域を専門とするプロフェッショナル。人的資本価値を最大化する経営・組織マネジメントの在り方を日々探求しクライアントと向き合っている。コンピュータサイエンス領域での研究者からキャリアをスタート。戦略・企業再生コンサルティング会社を複数経験した後に組織人事領域に転身。組織変革コンサルティング会社の共同創業者兼パートナー、HR TechスタートアップCOOを歴任後、グーグル日本法人の新規営業チームマネジメントに従事。ビジネス・ブレークスルー大学経営学部客員教授。NPO法人BLUE FOR JAPAN理事。趣味はトライアスロンと華道(草月)。慶應義塾大学博士(工学)。

1on1は単なる「進捗確認の場」ではない

1on1ミーティングについては、「会社に言われてやっているだけ」「進捗確認で終わっている」というケースもよく見られます。私は、1on1はあくまで手段だと考えています。重要なのは、その時間を通じてなにを実現したいかにあります。

Googleで行われていた1on1の目的は、メンバーがより高いパフォーマンスを発揮できる状態をつくることでした。仕事上の課題だけでなく、感情面も含めて状況を理解し、マネジャーとして必要な支援を行う。そのための場として位置づけていました。

そのため、1on1では最終的にアクションを設定します。いまなにに困っているのか、なにが壁になっているのか、そして次回までになにをするのか。部下だけでなく、マネジャー自身も「自分はなにを支援するのか、フォローアップすること」を明確にします。ただ話して終わる場ではないということです。

また、その前提となるのが信頼関係です。仕事だけを見ていても、人は理解できません。近年はプライベートについて聞くことは敬遠されがちですが、Googleの私のチームでは仕事以外の話題も自然に共有されていました。もちろん、無理に聞き出すわけではありませんが、メンバーがどのような価値観を持ち、どのような状況に置かれているのかを理解することは、マネジャーにとって非常に重要なのです。

「1on1をやっているけれど話すことがない」という悩みを聞くこともありますが、それは1on1の進め方の問題というより、普段から相手と十分に向き合えていないことの表れではないでしょうか。相手に興味を持ち、その人がなにを考えているのかを知ろうとしていれば、話題は自然と生まれてくるものです。

1on1の黄金比「上司2:部下8」——WhyではなくWhatで問いかけ部下の自律的思考と主体的行動を引き出す

会話量の黄金比「上司2:部下8」

Googleでは、1on1における理想的な会話量として「上司2:部下8」と言われており、これを私も意識していました。これを聞くと、「上司の発言が少な過ぎるのではないか」と感じる人もいるかもしれませんが、その比率には明確な理由が存在します。

上司ばかりが話していると、1on1は指示や助言だけの場になってしまいがちです。すると、部下は自分で考えるのではなく、「言われたことだけをやる人」になってしまうのです。

一方で、部下が主体的に話す時間が増えると、自分自身の考えを整理する機会が生まれます。なにが課題なのか、どこに原因があるのか、自分はどうしたいのか。話しながら思考が深まっていくのです。

そのために重要なのが、問いかけです。たとえば、なんらかの問題が起きたとき、「なんでそうなったの?」と聞いてしまう人がいます。しかし、「なぜ」という言葉には責めるニュアンスが含まれやすく、部下を萎縮させてしまうことがあります。そこで私は、「なにが起きていたのか」「なにがその行動につながったのか」といった聞き方を意識しています。つまり、「Why」ではなく「What」を聞くのです。

また、「3ヶ月前に戻ったら何をすると思う?」「ひとつだけなにか変えるとしたらなにを変える?」といった問いもよく使います。広い問いを投げるのではなく、あえて限定することで思考を促していくのです。

ポイントは、答えを教えることではなく、考えるきっかけを与えることです。マネジャーの役割は、自分の正解を伝えることではなく、相手のなかにある答えを引き出すことなのだと思います。

さらに、部下に多く話してもらうことには別の意味もあります。それは、自分自身の言葉でコミットメントを生み出すことです。上司から与えられた行動よりも、自分で「これをやります」と決めた行動のほうが責任感は強くなります。だからこそ、次のアクションは部下自身の言葉で語ってもらうことが大切です。

言語化と振り返りサイクルで部下の成長を加速——1on1でその場で書き記録し思考を深めるGoogle流実践法

部下の成長を生む「言語化」の力

では、なぜそのような1on1が人の成長につながるのでしょう? 私は、その理由のひとつが言語化にあると考えています。人は、自分の考えを言葉にして初めて理解できることがあります。なんとなく抱えていた悩みや違和感も、話したり書いたりすることで考えているイメージの輪郭がよりクリアに見えてくるものです。

そのため、「今日から実践できる小さな仕掛け」を1on1に組み込んでいます。まず、1on1の前に「相談したいこと」「今週気になっていること」を数行でいいので書き出してもらいました。事前にテーマを整理することで、部下自身も考える準備ができるので、話のきっかけがつくりやすくなります。

さらに、1on1の最中も同じドキュメントを見ながら内容を整理していきます。議事録をあとからつくるのではなく、その場で一緒に書いていくのです。話しながら文章にしていくと、「あれ? 悩みの本質はそこじゃないかも」「思っていたほど大きな問題じゃなかった」と気づくこともあります。頭のなかだけで考えていると見えなかったものが、言語化によって見えてくるのです。

また、記録が残ることにも大きな意味があります。先週はなにに悩んでいたのか、そのあとどのような行動を取ったのか、結果はどうだったのか。過去の記録を振り返ることで、自分自身の変化や成長も確認できるでしょう。

もちろん、1回の1on1で劇的に変わることはありません。しかし、言語化し、行動し、振り返る―このサイクルを繰り返すことで、人は少しずつ前に進んでいきます。

言語化のサイクルを回し続けたとき、人はどう変わるのか。そして、マネジャーはどんな問いを使えばいいのか。その答えは、単純ではありません。しかし確かなことがあります——部下が自分の言葉で「やります」といった瞬間、その1on1は成功しています。1on1は単なる面談ではなく、部下の思考を深め、成長を支援するための場です。仕事の進捗を確認するだけなら、AIでも代替できるかもしれません。しかし、人が自分の考えを整理し、新しい一歩を踏み出すきっかけをつくることは、いまなおマネジャーだからこそ果たせる重要な役割ではないでしょうか。

「やります」という言葉が生まれた瞬間が成功——1on1を部下の思考と成長を支える場にするマネジャーの問いかけ術

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)

1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。