考えが深い人と浅い人の違い――思考力の鍵は“認知的完結欲求”?

単純なパズルを終えた人と、複雑なパズルを余裕たっぷりに考える人の対比

「AかBかの2択ではなく、第3の選択肢は考えられないの?」
「この件だけど、別の視点や、逆のデータがないかも確認した?」

上司にこう尋ねられ、思わず言葉に詰まってしまった――。それをサラリと答えた同僚や先輩。彼らに比べて、私は考えが浅いのだろうか……。

こんなことがあったら、思わずへこんでしまいますよね。でも、落ち込む前に、ぜひ聞いてください。

「思考が浅い・深い」を分ける違いは、「ひとつの答えにすぐ飛びつくか・そうしないか」にあるかもしれません。この背景には、「認知的完結欲求」という心理傾向が深く関わっています。程度の差こそあれ、人間なら誰もがもっている自然な欲求です。

本稿では、考えが浅くなる要因を探りながら、「思考を深めるための習慣」を紹介します。

「すぐ答えをほしがる」と考えが浅くなる?

「わからない状態」に不安を感じ、すぐに答えを知りたがるのは当然のこと――。しかし、考えを深めるには、"わからない" を抱える力が重要になってきます。

心理学の分野では、問題に対して確固たる答えを求め、曖昧さを嫌う欲求を「認知的完結欲求(Kruglanski & Webster, 1996)」と呼びます。この欲求が高い場合と、低い場合では、以下のような差があるそうです。*1,*2

  • 認知的完結欲求が高いと――十分でない情報に飛びついて、すぐに判断しようとする。そのため、新しい情報が入ってきても、なかなか考えを変えられない。

  • 認知的完結欲求が低いと――より思慮深く創造的で、矛盾する要素が同時に存在していてもストレスを感じない。また、さまざまな情報を考慮するため、即座の判断は避ける傾向がある。

つまり、「早くはっきりとした答えが知りたい」という欲求が強いほど、少ない情報で十分に検討しないまま判断してしまう――これが考えを浅くしてしまう要因です。

では、どうしたら思考を深められるのでしょうか?

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1. 前提を疑う

深く考える人は、"最初の答え" を疑う習慣を大切にしています。「直感」や「一番目の思いつき」は便利な反面、思考のバイアスや過去の経験に縛られていることが多いからです。それを疑う姿勢こそが、深い洞察への入り口になります。

わかりやすい例を挙げるとすれば――

認知的完結欲求が高い場合、頑として「売上低迷の原因は価格の高さにある。それしかない」と考えてしまうようなイメージです。初期段階で得た手がかりだけで、すぐに判断してしまいます。

逆に認知的完結欲求が低いと、こうした早期に出てくる手がかりには、すぐ飛びつかない傾向があります。

彼らは「価格の高さが原因である」という初期の前提そのものを疑い――

 
 
  • それよりも、ターゲット層の価値観そのものが変化しているのではないか?
  • それよりも、従来使用していた広告媒体の訴求力が低下しているのではないか?
  • それよりも、「価格が高くてもいいからもっと質を上げてほしい」と感じている人が多いのではないか?

などと、考えてみる習慣があるのです。もちろん、そうやっていろいろと考えた結果、"最初の答え" に戻ることもあるでしょう。

つまり、ここで重要なのは、「手近な正解」を急いで探さずに、思考のスタートラインを再検討するということ。それが思考を深めるコツになるはずです。

💡 ナッジ:脳のストッパーを外す

ここで、「前提を疑う」習慣を身につけるための、ナッジ※を紹介しておきましょう(※無理なく自発的によい選択ができるよう促す手法)。

最初の糸口を「いったん脇に置く」と声に出してみるのです。前段の例で言えば、「原因から『価格の高さ』をいったん外して脇に置く」と声に出してみる感じです。

これにより、脳のストッパーが外され、前提の縛りをいったん忘れることが期待できます。

前提をいったん脇に置くことで思考が広がるイメージイラスト

2. 多角的な視点をもつ

深く考える人は、視点を増やす力を大切にしています。"ひとつの答え" にこだわりすぎると、思考が止まってしまうからです。視点を増やす――つまり、「多角的な視点をもつ」ということです。

拓殖大学教授の長尾素子氏によれば、多角的な視点をもつことにより、物事に対する理解が深まって、柔軟性が身につくといいます。表面的ではなく、別の角度から深く客観的に見られるようになるからです。また、「盲点を発見しやすくなる」「コミュニケーションがスムーズになる」とも説明しています。*3

よって認知的完結欲求が高く、"ひとつの答え" にこだわりすぎる場合、「価格を下げれば売り上げが上がる」という考えだけに固執してしまうかもしれません。

逆に認知的完結欲求が低い場合、多角的な視点を取り入れやすくなるため、その問題について多くの角度から見ようとします。ひとつの要素(価格)にとらわれず、こう考えてみるわけです。

 
 
  • ターゲット(顧客層や市場)を変えてみてはどうか?
  • 売り方(販売方法や特典)を変えてみてはどうか?
  • 見せ方(デザインや訴求点)を変えてみてはどうか?
  • タイミング(時期や時間帯)を変えてみてはどうか?
  • 売る場所(販売チャンネル)を変えてみてはどうか?

複数の視点をもてる人は、より寛容で客観的になれるはず。適応力も高くなるでしょう。

💡 ナッジ:多くの語彙や表現で言い換える

前出の長尾氏は、「多角的な視点を身につける方法」として、「一つの事象を多くの語彙や表現を使って言語化してみる」ことを挙げています。*3

これを参考にしたナッジのアイデアがこちらです。

たとえば「売り上げを伸ばす」という課題を、以下のように言い換えてみるのです。

  • 「自社のファンを増やす」
  • 「提供する価値の総量を増やす」
  • 「選ばれない理由(ボトルネック)を消す」

これにより、多角的な視点が鍛えられると同時に、目の前の課題に対するさまざまな視点が生まれるはずです。

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3. システムとして考える

深く考える人は、結果だけを見て終わりにしません。なぜなら、物事をひとつの点として見るのではなく、全体のつながりや関係性の「システム」としてとらえるからです。

これは、いわゆる「システム思考」のことです。

出来事をスナップショット(単発)でとらえたり、原因をひとつだけに絞って分析したりするやり方では、複雑な問題を解決することができません。しかし、システム思考では「大局の流れ」「つながりを含む全体像」「物事の根本」を観るため、本質的かつ持続的な成果を生み出すことが期待できるのです。*4

たとえば――Aさん担当の箇所に抜け漏れがあったとしましょう。

認知的完結欲求が高く、目の前にある結果だけで判断してしまう場合、「Aさんの能力が低い」「Aさんに集中力がない」「Aさんはやる気がない」などと、結果から想像しやすい要素だけに注目してしまうかもしれません。

しかし、認知的完結欲求が低ければ、目の前の結果だけでなく、全体のつながりや関係性にも目を向けやすくなり、

 
 
  • 指示者とAさんは具体的な行動イメージを共有できていなかった?
  • 指示者とAさんのあいだで、〇〇の認識がズレていた?

といった見方ができる可能性があります。そうすれば、単なる個人攻撃的な判断ではなく、根本的な「仕組みの改善」へとつなげることができるはずです。

💡 ナッジ:要素間のつながりに着目する

人と組織の変容を支援する「チェンジ・エージェント」のサイトでは、「システム思考」を次のように説明しています。*4

システム思考は、関心ある問題の近くにある要素だけでなく、俯瞰して全体像を観ると共に、要素間のつながりにも着目します。

これをヒントに、前段の例で要素間を見てみると、いろんなつながりが見えてきます。

  • 「Aさん⇔ミス」
  • 「チーム⇔Aさん」
  • 「ルール⇔共有事項」
  • 「指示内容⇔実行された内容」

こうしたつながりに目を向けることで、見えにくかった問題が浮き上がってくるかもしれません。たとえば「Aさんが⇔ミスをした」以外に、「チームの指示で⇔Aさんがミスをした」というつながりで見ると、結果ではなく "どんな指示内容だったか" というプロセスにも意識が向きます。

これにより、自然と物事の全体的な状況や、経緯が見えやすくなるのではないでしょうか。ぜひ一度お試しください。

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多くの場合、仕事ではスピードが求められるものです。判断を急がなければならないときが、たくさんありますよね。そんなときは、過去の経験や自分の信念に従うことが大いに役立つはずです。

でも、それだけではまかなえない事態が続発したら、「答えを保留できる力」に目を向けてみてください。

至急の判断を迫られていない状況であれば、無意識の思い込みに気づき、より本質的な解決策を探る絶好のチャンス。前提を疑い、多角的な視点をもち、システムとして考えてみましょう。

Q. 「考えが浅い」と言われてしまうのは、なぜですか?
A. 「認知的完結欲求」が高いと、十分でない情報に飛びついてすぐ判断しようとするためです。新しい情報が入ってきても考えを変えにくく、結果として思考が浅くなりやすいと考えられています。
Q. 「認知的完結欲求」とは何ですか?
A. 問題に対して確固たる答えを求め、曖昧さを嫌う心理傾向のことです(Kruglanski & Webster, 1996)。程度の差こそあれ、人間なら誰もがもっている自然な欲求です。
Q. 思考を深めるには、どんな習慣が役立ちますか?
A. 本稿では「前提を疑う」「多角的な視点をもつ」「システムとして考える」の3つを紹介しています。いずれも、ひとつの答えにすぐ飛びつかないための習慣です。
Q. 「前提を疑う」を実践するコツはありますか?
A. 最初の糸口を「いったん脇に置く」と声に出してみるのがおすすめです。脳のストッパーが外れ、前提の縛りをいったん忘れやすくなると期待できます。
Q. 多角的な視点を身につけるには?
A. ひとつの事象を、多くの語彙や表現で言い換えてみましょう。たとえば「売り上げを伸ばす」を「ファンを増やす」「提供する価値の総量を増やす」などと言い換えると、視点が広がります。
Q. 「システム思考」とは何ですか?
A. 物事をひとつの点として見るのではなく、全体のつながりや関係性の「システム」としてとらえる思考法です。要素間のつながりに着目することで、根本的な問題解決につながりやすくなります。

【ライタープロフィール】
青野透子

大学では経営学を専攻。科学的に効果のあるメンタル管理方法への理解が深く、マインドセット・対人関係についての執筆が得意。科学(脳科学・心理学)に基づいた勉強法への関心も強く、執筆を通して得たノウハウをもとに、勉強の習慣化に成功している。