仕事を頼んだ部下から「わかりました!」と威勢のいい返事をもらうことは、上司からすると気持ちがいいものです。しかしその結果、依頼内容とピントのズレた成果物が上がってくれば、部下の評価は下がるだけでしょう。経営コンサルタントの横山信弘さんは、若い部下がつい「わかりました!」と反射的に言ってしまうのは仕方ないとしつつも、「そのあとで確認することは絶対に怠ってはならない」と強調します。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人
【プロフィール】
横山信弘(よこやま・のぶひろ)
1969年6月28日生まれ、愛知県出身。株式会社アタックス・セールス・アソシエイツ代表取締役社長。経営コンサルタント。現場に入り込んで目標を「絶対達成」させることを信条としている。経営者、リーダー研修のほか、現場で調整役となり、社員どうしのコミュニケーションを円滑にすることで、停滞していた多くの組織を救い、改革を成功させてきた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業に至るまで、200社以上を支援した実績をもつ。15年間で3,000回以上の講演、セミナーもこなす。メルマガ「草創花伝」は、3万9,000人超の読者を抱え、YouTubeやTwitterなどSNSの総フォロワー数も4万人を超えている。ベストセラー『絶対達成する部下の育て方』(ダイヤモンド社)、『絶対達成バイブル』『空気で人を動かす』(ともにフォレスト出版)をはじめ、ほとんどの著書の翻訳版が、韓国、台湾、中国で発売されている。
「わかりました!」と即答する人は、評価されない
上司から、「今日の会議で決まったことを受けて、わかりやすい企画書をつくってほしい。なるはやでお願い」と言われたとします。そんなとき、「わかりました!」と即答しているような人は、評価されにくいと考えています。
会話が成立するかどうかは、「確認が9割」だと私は考えています。そもそも日常会話において伝え方を意識的に鍛えている人はそう多くなく、だからこそ、話し手の言い分が聞き手に100%伝わることはないと考えるべきなのです。
特に、上司と部下の会話となるとなおさらです。上司は、「自分は上司であり、上の立場だ」という権威性をもっています。若い部下の場合、上司が言うことがよくわからないときでもそれを指摘しづらいものですよね? そのため、「わかりました!」とつい反射的に言ってしまうのです。
でも、その結果、上司の依頼に対して的はずれな成果物を上げてしまったらどうなるでしょうか? 上司から「わかってないなあ」と思われ、評価は間違いなく下がってしまいます。ですから、たとえ「わかりました!」と言ったあとでもいいので、徹底的に確認をするのを癖にしてほしいのです。
「具体的に」「たとえば」で情報を引き出す
先の企画書の例で考えてみましょう。これまでに同じような企画書を何度も作成してきて、上司とイメージを完全に共有できている場合なら、「わかりました!」でもいいかもしれません。しかし、そうでない場合にはやはり確認が必要です。
「『わかりやすい企画書』とは、たとえばどのようなイメージでしょうか?」
「『なるはや』とは、具体的にいつまでですか?」
このように、確認しなければならないことはいくらでもあります。確認する際のマジックワードは、この例にも含まれている「具体的に」「たとえば」のふたつです。これらの言葉を使って、上司からできるだけ多くの情報を引き出すのが肝心です。
ただ、具体的なイメージをもっていない上司が多いのも事実です。そういうタイプの上司は、上がってきた企画書を見たタイミングのただの思いつきで、「こうじゃないんだよなあ」とダメ出しをしてきます。ですから、貴重な時間や労力を無駄にしないためにも、事前の確認が欠かせないのです。
しかし、このタイプの上司には「具体的には?」「たとえば?」と質問したところで、はっきりした答えは返ってきません。そういったケースでは、サンプルを提示することを心がけましょう。たとえばこんな具合です。
上司「目次をつければいいんじゃないかな」
部下「以前にAさんがつくった企画書がわかりやすいと思ったのですが、このような目次でいいですか?」
上司「いや、Bさんの企画書を参考にしてほしい」
部下「ほかにはどの部分を参考にすればいいですか?」
上司「企画書の構成が大事だね」
部下「スライドの順番とか分量のことですか?」
上司「企画の主旨、その根拠、事例の順番で構成してほしい」
この例では、過去の企画書をサンプルとして提示し、上司に確認をとりました。このように事前に上司とのあいだでイメージを共有しておけば、あと出しジャンケンのかたちで「こうじゃないんだよなあ」とダメ出しされるのを避けられます。
「要するに」で上司のイメージの最終確認をとる
また、「要するに」という言葉も有効です。「具体的に」「たとえば」は、依頼内容の「枝葉」の部分を引き出す言葉です。でも、先に例に挙げたような、具体的なイメージをもっていない上司の場合、その場の思いつきで答えているうちに、本来求めていたものとのズレが生じるケースも多いのです。
そこで、「要するに、『わかりやすい企画書』とは、Bさんの企画書を参考にしてこういう順番で構成するということですね?」といったかたちで、依頼内容の「幹」の部分について最終確認をとるのです。その結果、「やっぱり違うな」と言われてしまうこともありますが、最終確認を怠った結果として「こうじゃないんだよなあ」と言われることは回避できるでしょう。
また、先に触れた権威性の話に関わることで言えば、「迷惑ではないか?」と考えて上司に何度も確認するのをためらってしまう部下もたくさんいます。そんなときには、「ちなみに」という接続詞を使って質問を続けてみましょう。
一本調子で質問を繰り返されることに対して、「いつまで続くんだ……?」と嫌がる上司もいます。でも、「ちなみに」という言葉には「十分にお話を聞けましたが、あくまでも補足情報が欲しいだけです」といった意味が含まれるため、上司に嫌がられる可能性は低いのです。この言葉は、上司だけではなく、お客様にヒアリングをするようなときにも有効ですから、ぜひ活用してください。
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清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。