“Some mistakes will be made along the way. And that’s good. Because at least some decisions are being made along the way. And we’ll find the mistakes, and we’ll fix them.”
(途中で間違いが起こることもあるでしょう。でもそれは良いことです。少なくとも、途中で何らかの決断が下されるのですから。そして私たちは間違いを見つけ、修正します)*1より筆者が訳した
こう語ったのはスティーブ・ジョブズ。
完璧主義的な一面もあるとされるスティーブ・ジョブズですが、その一方で「まず行動すること」の重要性も説いていたようです。
実際、完璧主義は判断力や決断力を鈍らせたり、メンタルヘルスを悪化させたりするリスクがあることがわかってきました。
あなたはまだ「完璧を目指すことが成功への道」だと思い込んでいませんか?
本記事では、科学的に示されている完璧主義のデメリットと、その克服法について紹介します。
ぜひ、ご自身の考え方や働き方と照らし合わせて、見直すきっかけにしてみてください。
完璧主義にはタイプがある
ひとくちに完璧主義といっても、そのタイプは人によって異なります。
心理学者アントニア・バーク氏らの研究によると、完璧主義は大きく「評価的関心型」と「個人基準型」の2つに分けられるそうです。*2
- 評価的関心型:他者からの評価が低くなることを心配する
(例)出来が悪いと思われないように、何度も資料を修正する
- 個人基準型:自分に対する高い基準を設定して自己評価する
(例)自分が納得できるまで根拠を調べ尽くし、資料のデザインも凝る
他人の目を気にするか、自分の基準を重視するか。
その違いによって、行動の傾向や抱えやすい悩みも変わってきます。
自分がどちらの傾向をもっているか知ることで、より適した対処法を見つけられるでしょう。
「完璧主義が成功を阻害する」脳科学的根拠
評価的関心型・個人基準型、どちらの完璧主義にも「成功を妨げる要因」があります。
ここでは、その主な理由を脳科学の視点からご紹介します。
理由1. 不安・うつの誘発リスク
中国の研究では、「脳の前帯状皮質(ACC) が大きい人ほど完璧主義傾向や不安の高さと関連がある」ことがわかりました。
ACCは、認知や感情のコントロールに関わる領域です。*3
つまり、脳の制御機能が過剰に働くと、「これで本当に大丈夫?」「もっと頑張らなきゃ」といった思考にとらわれやすくなります。
実際に、ACCが大きく完璧主義の傾向が強い人ほど、不安や抑うつのスコアが高かったという報告もあります。*3
このように、脳の特徴によって不安や落ち込みが生じやすくなり、心の健康が損なわれる可能性があるのです。
その結果、集中力や判断力が落ち、目標達成の妨げになることもあります。
理由2. ミスに対処できない
完璧主義には「ミスを絶対に許さない」「失敗は恥ずかしい」といったイメージがつきまといがちです。
しかし、そうした姿勢がかえって成長や改善のチャンスを奪うこともあります。
前出のバーク氏らは、評価的関心型と個人基準型それぞれの完璧主義者に課題を与え、ミスをしたときの脳の動きを調べました。
結果は次のとおりです。*2
評価的関心型はミスをしても課題への反応速度が変わらず、すぐに切り替える傾向にありました。
不適切な思考・行動を抑える中頭前回の活性化について、バーク氏らは「否定的な情報に注意を向けると評価についての不安が誘発されるため、それを抑えようとしているのではないか」と分析しています。*2
つまり、評価的関心型では、周囲の目を気にするあまり「ミスをなかったこと」にしようとする場合があるのです。
一方で、個人基準型はミスをするとより慎重になり、再発しないよう厳重に対策をします。
どちらのタイプにしても、ミスに柔軟に対応できない結果、仕事の効率やパフォーマンスが下がってしまう可能性があるのです。
完璧主義から脱出するための実践方法
完璧主義を少しずつ修正し、完璧主義から脱するために有効な方法をふたつご紹介します。
1. 85%ルールを定める
完璧主義の人は、たとえメール一通でも内容・表現・添付資料すべてに全力で取り組もうとしがち。
しかし、あえて少しだけ「抜き」をつくることで、過度なこだわりを手放すことができます。
『エッセンシャル思考』や『エフォートレス思考』の著者グレッグ・マキューン氏は、「最大限を少し下回る、無理のない努力を求める」のが最適だとして「85%ルール」を推奨しています。*4
たとえば、プレゼンに向けて毎晩遅くまで資料を作り込んだ結果、当日は疲れて集中できなかった……という経験はないでしょうか。
それよりも、定時で準備を終えてしっかり休んだほうが、本番に高いパフォーマンスを発揮できる可能性があります。
マキューン氏によると、85%ルールを取り入れるには「100%の力で取り組むのは、どのような状態か」、そして「どうしたら、それを85%のレベルに近づけられるか」を考えるといいそう。*4よりまとめた
具体的には、次のようなイメージです。
【顧客対応】
❌ 100%:どんな依頼も断らず対応
✅ 85%:リソースに見合わない要求は交渉し、無理のない範囲で対応
【資料作成】
❌ 100%:ページ構成・フォント・カラー・図解すべてにこだわり抜く
✅ 85%:内容のわかりやすさに重点を置き、装飾は最小限
【メール対応】
❌ 100%:すべてのメールに丁寧な長文で即レス
✅ 85%:テンプレートを活用しつつ、要点を簡潔に伝える
85%ルールを意識することで、「やりすぎ」や「こだわりすぎ」から少し距離を置けるようになります。
ルールを紙に書いてデスク周りに貼っておくと、日々の行動に落とし込みやすくなるでしょう。
2. 自分の限界を認める
「もっとやらなきゃ」「本当にこれでいいのか」といった思考に陥りやすいのも、完璧主義の特徴。
そして多くの場合、その思考は一人の中で完結してしまいがちです。
国連職員の経験をもち、埼玉大学の准教授を務める大仲千華氏は「『ひとりでなんでもかんでもできる必要はないし、わからなければ人に聞けばいい』と自分の限界を認めて」みることをすすめています。*5
限界を認めるとは、「できないことを諦める」ことではなく、「今の自分からもう一度スタートすること」。
つまり、ゼロからの出発ととらえるのがポイントです。
とはいえ、完璧主義の人にとって「できません」「助けてください」と言うのは、思っている以上にハードルが高いものです。
そこで大仲氏は、「自分の限界を認め、結果的に自信を得ていくために有効なフレーズ」として、次の言葉を提案しています。*5
- 教えていただけませんか?
- それについて話してくれませんか?
- もう一度お願いします。
- わかりません。
- 知りません。
- フィードバックをいただけませんか?
- 助けてもらえませんか?
- とても助かります。
- ありがとう。
こうした言葉を日常的に使うことで、自然と他人を頼ることができるようになり、自分の限界を受け入れる力が養われていきます。
***
完璧主義を手放すことが、成功への近道です。ぜひ自分にどのような傾向があるのか分析し、本記事でご紹介した対策を実践してみてください。
※引用の太字は編集部が施した
*1 Ink.|20 Years Ago, Steve Jobs Demonstrated the Perfect Way to Respond to an Insult
*2 Antonia Barke, Stefan Bode, et al (2017),“To err is (perfectly) human: behavioural and neural correlates of error processing and perfectionism,” Social Cognitive and Affective Neuroscience, Vol.12, No.10, pp.1647-1657.
*3 Di Wu, Kangcheng Wang, et al (2017), “Perfectionism mediated the relationship between brain structure variation and negative emotion in a nonclinical sample,” Cognitive, Affective, & Behavioral Neuroscience, Vol.17, pp.211-223.
*4 DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー|全力で取り組まない「85%ルール」が最高のパフォーマンスを引き出す
*5 STUDY HACKER|自信をもてるのは「完璧主義を捨てられる人」。9つのフレーズで自分の限界を認める勇気を
藤真唯
大学では日本古典文学を専攻。現在も古典文学や近代文学を読み勉強中。効率のよい学び方にも関心が高く、日々情報収集に努めている。ライターとしては、仕事術・コミュニケーション術に関する執筆経験が豊富。丁寧なリサーチに基づいて分かりやすく伝えることを得意とする。