「あれもこれもやらなきゃ」と思えば思うほど、目の前のタスクに押し潰されそうになる──。
そんな経験はありませんか?
目標を達成したい、成果を出したい、チームに貢献したい──。
真面目で責任感の強いビジネスパーソンほど、たくさんの「やるべきこと」を抱えてしまうでしょう。
しかし、優秀なビジネスパーソンは「やらないこと」を設定するという選択肢をもっています。
この記事では「やらない」選択肢をもつことで得られる3つの嬉しい効果を、ショートストーリー仕立てでご紹介します。
あなたが仕事に前向きな変化をもたらすヒントにしてみてください。
効果1:自身の行動をコントロールできるようになる
Aさんは「仕事でもっと成果を挙げたい」と考え、やるべきことをリスト化しました。
ひとつひとつ着実にこなそうとしますが、リストは増える一方です。
そうこうしているうちに、「成果を上げる」という目標は「リストを消化する」という目標に置き換わり、常にリスト消化に追われる感覚がつきまといます。
いくらリストをこなしても成果が挙がらない現実に、「どうしてうまくいかないのだろう」と落ち込むAさん。「あれもこれも今日もできなかったし、目標の達成なんてできっこない……」と自分を責め、本来の目標が遠く感じてしまいます。
そんなAさんを見かねた上司は、「逆に “やらないこと” を決めてリスト化してみたら?」とアドバイスしました。
この言葉が転機となり、Aさんは自分の目標達成のために重要なこととそうでないことを洗い出しました。
成果を出すために「やるべきこと」ではなく、「やらないこと」をリスト化
その結果、本当にやるべきことに注力できるようになったのです。
これまではリストに振り回されていましたが、「私はこれを選ばない」「これを優先する」と主導権を取り戻すことができ、「自分で自分をコントロールできている」という実感から自己効力感も高まったのです。
このような「自分自身の行動をコントロールすることができる自己効力感のこと」を「自己統制的自己効力感」と言います。*1
自己統制的自己効力感が高まると、困難な状況でも「なんとかできる」と思える力が養われるというメリットがあります。
「やらないこと」を決めて自身をコントロールする術を身につければ、「やるべきこと」はもちろん困難な状況にも対応できる力がつき、仕事の成果につながるのです。
効果2:仕事の本質に集中できる
営業職のBさんは、頼まれごとを断れず、なんでも引き受けていました。
その背景には、「自分がやらなければ誰かに迷惑がかかる」「仕事を断るのは無責任だ」という思いがありました。
また、頼まれることに対して、無意識のうちに「期待に応えるのが正しい」と考えていたのです。
結果として、肝心の営業活動に注力できず、成果は伸び悩んでいました。
ある日、上司との面談で「あなたが本当にやるべき仕事はなに?」と問われ、はっとします。
自分の役割は顧客と向き合い、売上を伸ばすこと。
そのために、本来自分がやる必要のない仕事を減らす必要があると気づいたのです。
「やるべきこと」をやるために、「やらないこと」を明確にする
そこでBさんは「営業に直結しない業務はやらない」と決めます。
社内会議は必要最小限に、資料作成もテンプレートを活用し、ルーティンの業務はチームの誰でも対応できるようマニュアル化しました。
その結果、「自分の時間を自分で選んでいる」という感覚が芽生え、徐々に自信へとつながっていきました。
すると、数字が明らかに変わり始めました。見積り提出までのスピードが上がり、商談数も増加したのです。
成果が出ることで周囲からの信頼も厚くなっていきました。
Bさんは、やらないと決めた仕事に使う時間を、本当にやるべき仕事をする時間に使うことができたため、生産性を上げられたのです。
経営・マーケティングに関するコンテンツを販売する小川哲也氏は、「『やるべきこと』を実践する。これは裏返せば『やるべきでないことを探す』ということ」だと話します。*2
やらないことを決めることで生産性が上がり、本当にやるべきことに集中できる。
これも、やらないことで得られる大きな効果です。
効果3:チームの前進スピードが加速する
Cさんのチームは、新商品リリースという大きなプロジェクトに向けて走っていましたが、意見の衝突が多く、会議のたびに緊張感が漂っていました。
「多くの意見が飛び交うなかでなにが正解なのか」「誰の意見を優先すべきか」といったように、メンバーそれぞれが迷い不安を抱えていたのです。
プロジェクトの目標は「最小限の機能で、スピーディーに市場に出すこと」にもかかわらず、揉めてばかりで前に進みません。
そこである日、Cさんは「プロジェクトの目標を達成するために、“やらないこと” を決めてみませんか?」と提案。
チーム内で話し合い、「完璧を求めすぎない」「ほかのメンバーの担当業務に口を出し過ぎない」といった、「やらないこと」を明確にしました。
チームで「やらないこと」を共有し、ゴールを鮮明に描く
その結果、目標に向けた足並みがそろい、プロジェクトはチーム一丸となって進行するようになったのです。
職場結束力コンサルタントの荻阪哲雄氏は、やらないことを決めるのは「『共通の目標』を達成するために、不可欠な要素です。それはチームの戦略となり、結束力の高まりにスピードを上げる効果につながるのです」と述べています。*3
荻阪氏が言うように、やらないことを決めるのは単なる消去法ではなく、「戦略」そのもの。限られたリソースのなかで最大の力を発揮するには、やるべきこと以上に “やらないこと” の選定が重要になるのです。
その判断基準が共有されることで、迷いが減り、前進のスピードが加速します。
やらないことを決めるのは、目的へのノイズを減らし、チームが進む方向性が定まり、チームがまとまるといった効果をもたらすのです。
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「やるべきこと」に追われながら一生懸命仕事に向き合っているのに、成果がいまいち出ない――。そんなときは「やらないこと」にフォーカスすると、本質的な「やるべきこと」が見えてきます。ぜひ、「やらない」選択肢をもち、目標達成のための舵をあなたの手で握ってください。
※引用の太字は編集部が施した
*1 GLOBIS CAREER NOTE|自己効力感とは?自己肯定感との違いや高めていく方法
*2 ZUU online|思い切ってやらないだけで生産性はグングン上がる
*3 ダイヤモンド・オンライン|やらないことを決める――その理由とは?
澤田みのり
大学では数学を専攻。卒業後はSEとしてIT企業に勤務した。仕事のパフォーマンスアップに不可欠な身体の整え方に関心が高く、働きながらピラティスの国際資格と国際中医師の資格を取得。日々勉強を継続しており、勉強効率を上げるため、脳科学や記憶術についても積極的に学習中。