「認知的完結欲求」が低いほど成功する理由 〜なぜトップリーダーは小説を読むのか〜

白い壁の前で読書をする女性

「すぐに結論を出したい」
「できるだけ早く答えを見つけたい」

多くの人がもつこの欲求が、あなたのビジネスの可能性を狭めているかもしれません。世界的な研究によって、この「認知的完結欲求」が強すぎると、創造的な問題解決や柔軟な意思決定の妨げになることがわかってきました。

では、グローバル競争が激化し、AIが台頭する現代において、この欲求をどうコントロールすればよいのでしょうか。

その答えは、意外にも「小説」の中にありました。アマゾンのジェフ・ベゾス、テスラのイーロン・マスク、ユニクロの柳井正——。世界を変革する彼らが、なぜ物語の世界に没頭するのか。

本記事では、世界的な成功者たちの愛読書を紐解きながら、科学的根拠に基づいて「認知的完結欲求」をコントロールし、次世代のリーダーに必要な思考法を身につける方法をお伝えします。

ビジネスパーソンの「認知的完結欲求」が注目される理由

認知的完結欲求とは何か

「認知的完結欲求」とは、心理学用語のひとつです。研究によれば、認知的完結欲求の高い人は、わずかな情報や少数の観点に自然に引きつけられる人でもある、とされています。*1

つまり、限られた情報だけで判断を下そうとする傾向があるということです。たとえば、記事の概要を伝えるリード文だけで答えを解釈してしまう……など、早急に解決したがる心理です。この欲求が高いと、先入観や偏見が生まれてしまう可能性があります。

フィクションで育む柔軟な思考

興味深い研究結果があります。ウエストミンスター大学教授クリスティーン・サイファート氏は、トロント大学の研究報告(2013)を引用し、文学作品は「情報を処理する際、脳が先入観を抱かないようにする能力を高める」ことが期待されると述べています。同大学の研究では、エッセイではなく短編小説(フィクション)を読む人は、「認知的完結欲求」が低い傾向が見られたのだそうです。

なぜフィクションにこのような効果があるのでしょうか。小説を読む習慣がある人は、「より思慮深く創造的で、ストーリーが相反していても苦痛を感じずにいられる」と、サイファート氏は指摘します。*1 これは、小説のストーリーが予測不可能であるため、読者は混沌とした物語をそのまま受け止めなければ読み進められないからです。

『読書大全』の著者である多摩大学社会的投資研究所教授の堀内勉氏は、次のように解説します。

どんな情報でも瞬時に手に入るこのインターネットの時代に、超多忙な実業家がわざわざ貴重な時間を割いて読書をするというのは、単純に「知識を得る」目的だけではありません。ビジネスリーダーとしての、あるいは人間としての「洞察力」を高めるためなのです。*2

このように、認知的完結欲求の低さは「あいまいで正解の見えない」現代の課題に耐えうる思考の柔軟さを養うことにつながります。その手段として、フィクションが効果的なのです。

実際に、多くのビジネスリーダーたちは小説から重要な示唆を得ています。では、具体的に彼らはどのような本を読み、何を学んでいるのでしょうか。イノベーションを起こし続ける3人のリーダーの愛読書から、その本質に迫ってみましょう。

ポイント
  • 認知的完結欲求が高いと、限られた情報で判断をしてしまう
  • それを防ぐには、小説(フィクション)が有効

黒い壁の前で読書をする女性

Amazon共同創設者ジェフ・ベゾス|『日の名残り』(カズオ・イシグロ)

大型の「オンライン書店」からスタートしたAmazon.comのCEO ジェフ・べゾス氏は、幼い頃から図書館に通い、膨大な量の本を読破した読書家。彼の人生に小説が影響を与えたのは、容易に想像できます。

なかでも、イギリスの権威あるブッカー賞を受賞した、カズオ・イシグロ氏の小説『日の名残り』は、彼がビジネスに対して挑戦し続ける決心を固めた本です。

第二次世界大戦前に大きな政治力を持っていた貴族に執事として仕えていた、主人公スティーブンス。時間が経ち、老年期に差しかかった現在、新しい貴族のもとで働いています。そこで、かつて同じ貴族のもとで働いていた女中から手紙が届き、彼は旅にでます。

しかし、旅の途中にこれまでの人生を振り返り、一抹の後悔が過ります。執事として品格を失わずに主人に忠実に仕えていた一方で、犠牲にしていたものを思い出し、もっと別の人生があったのではないか——と思い悩むのです。

ベゾス氏はこの作品を受け、次のように考えるようになったそう。

挑戦して失敗しても後悔しないが、挑戦しなければずっと後悔しながら生きることになる *3

私たちは日々、新しい挑戦の機会に直面していますが、その多くを「リスクが高い」という理由で見送ってしまいがちです。しかし、真のリーダーシップとは、時として安定を捨ててでも、新しい可能性に賭けることなのかもしれません。

生涯において仕事は大きな時間を占めるもの。振り返ったとき「よい仕事ができた」「大事だと思う仕事に注力できた」と思えるよう、ベゾス氏は挑戦を恐れなかったわけですね。ぜひ、一度この本を手に取ってみては?

デスクで読書をする女性

テスラCEOイーロン・マスク|『銀河ヒッチハイク・ガイド』(ダグラス・アダムス)

奇抜な発想でビジネスに革新をもたらす、テスラCEOのイーロン・マスク氏は、幼少期から読書家で、なかでもSF小説は彼の人生に大きな影響を与えました。「12、3歳のとき、実存の危機に陥った」と語るマスク氏を助けた一冊が、ダグラス・アダムス氏の『銀河ヒッチハイク・ガイド』

銀河バイパス建設のために地球を滅ぼされて、唯一生存した主人公アーサー。そこに居合わせた宇宙人フォードと一緒に銀河でヒッチハイクをするはめに。起承転結という形はとらずにエピソードが展開され、読者を混乱させ笑いを誘う、ベストセラー作品です。マスク氏は、この作品から次のことを発見しました。

問いは答えより難しいことが多い。そして、問いを正しく立てることさえできれば、答えを考えるほうは比較的簡単だ *4

ビジネスにおいて問題解決の方法はすでに多くあります。ですが、そもそも「何が問題?」とネックとなる原因を探すのは、困難です。

問いを見つけ出すのは、いまある固定観念を崩すこと。既存の枠組みを超えた視点で問いを立て直すことこそ、次世代リーダーに求められる重要なスキルなのです。SF作品はより大きな視点から、現状の問いを探し出す発見力を養うことができるでしょう。

SF小説のイメージ

ファーストリテイリング代表取締役会長柳井正|『1Q84』(村上春樹)

「UNIQLO」「GU」など、カジュアル衣料品を提供するファーストリテイリング代表取締役会長柳井正氏は、小説家であり翻訳家の村上春樹氏の作品を愛読する「ハルキスト」だと語ります。

なぜ、柳井氏が村上春樹氏の作品に惹かれるのかというと——

たとえば村上さんは、アメリカの大学で教えたり研究したりしていますよね。あれはいったん外国へ出て、アメリカ文学との対照で自分の文学を見つめ直しているんじゃないかと思うんです。(中略)

狭い分野に閉じこもっていては、新しいことは発見できません。*5

国内にとどまらず海外に出て視点を変え、海外と自分の文学を比べて見つめ直す姿勢に共感をもったのだそうです。村上春樹氏のこのスタンスは、柳井氏のビジネス観と通じるものがあります。

柳井氏は「ビジネスとは実践」だと述べ、実践して失敗し新しい仕組みや人の使い方を研究することだ、と語ります。村上氏同様、未知の分野に身を置き、自分の考え方ややり方の枠を広げながらアイデアを考案しているのですね。*5

村上氏の代表作のひとつ『1Q84』(新潮社)は、まさに読者が異質な世界を体験する物語です。幼少期の10歳を孤独に過ごした天吾と青豆。主人公であるふたりはお互いに惹かれ合いながらも離れ離れになります。歳月が流れ1984年の4月、ふたりは異世界の「1Q84年」の別々の場所に入り込みます。

さまざまな試練が彼らを巻き込み、12月に天吾と青豆は20年ぶりの再会を果たし——複数の世界が交錯するこのストーリーは、既存の概念やいまの思考の枠組みを壊してくれる作品です。

このような既存の枠組みを超えた思考は、グローバル社会において不可欠でしょう。私たちが直面する課題の多くは、従来の発想では解決できません。異なる世界観や価値観を受け入れ、そこから新しいビジネスの可能性を見いだす——それこそが、次世代のリーダーに求められる思考なのです。

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フィクションは明確な答えを提案してくれるものではありません。そのぶん、自分で解釈する余白が生まれ、思考の質がより高まります。ぜひ、ストーリーに感動しながら、ご自身の思考力を高めてくださいね。

【ライタープロフィール】
青野透子

大学では経営学を専攻。科学的に効果のあるメンタル管理方法への理解が深く、マインドセット・対人関係についての執筆が得意。科学(脳科学・心理学)に基づいた勉強法への関心も強く、執筆を通して得たノウハウをもとに、勉強の習慣化に成功している。

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