
「テキストを一生懸命に読んでいるのに、知識が一向に記憶へ定着しない……」
「もっと効率よく覚えたいのに、いつまでも頭に入らない……」
もしその悩みが “仕事の場面で思い出せない” ことに由来するなら、勉強のやり方を「インプット中心」から「アウトプット中心」に切り替えるのが近道です。本記事では、手書きのアウトプットがビジネスでどのように効くのか、今日から実践できる具体策をまとめました。
では、実際ににどのようなことを紙にアウトプットすればよいのでしょうか?
紙に書くアウトプット【1】「まとめ」
最初にやるべきは学んだ内容のまとめです。レポートや試験テキストは情報量が多く、そのままでは現場で使えません。 「いったん自分の言葉でまとめ、その “まとめ” を覚える」だけで、理解が整理され、再利用しやすくなります。
1000以上(2025年2月時点)の資格をもつ資格研究家の鈴木秀明氏は、勉強した事柄について「つまりどういうことか」と内容を端的にまとめてから、知識を吸収するべきだと述べます。
ここで重要なポイントがあります。原文をそのまま写すと、脳は「あとで読めばいい」と油断して覚えません。そのため、 自分の言葉で書き直すと大事な点がはっきりして、記憶にのこるのです。
鈴木氏がこの方法をすすめる理由は、記憶できる情報量は限られていて、テキストの内容をすべて正確に丸暗記することなどできないからです。以下のポイントを意識すると、適切に “圧縮” できるそうです。
- 削る:なくても意味が変わらない言葉を削除する。
- 言い換える:専門用語は、相手にわかりやすい言葉に置き換える。
- 省く:残りの文脈から連想できる情報は省略する。
上記のポイントを意識しつつ、筆者も仕事で必要な動画制作の知識をつけるため、本の内容をまとめるアウトプットを実践してみました。

専門用語は「ファンタム電源→専用の電源」のように言い換え、覚えやすさを優先しました。 さらに要点を圧縮することに挑戦したところ、本10ページ分の内容が、2行ほどにまとまりました。
「仕事に活かすには、何を確実に押さえる必要があるのか?」と考えながら、勉強の最後にいわば「まとめのまとめ」を書いたことで、学んだことが強く印象に残った実感もあります。
情報をコンパクトにまとめる習慣をつけると、学習内容を忘れずにすみそうです。

紙に書くアウトプット【2】「感想」
「ビジネス書に載っていたあの交渉術、興味が湧いたから具体例をもっと知りたい」
「円高と円安がいつもごちゃごちゃになる。覚えるのが難しいな……」
勉強中に感じた「おもしろい」「なぜ?」を一緒に書くと、内容が時間や感情と結びつくエピソード記憶になり、忘れにくくなります。 これは専門家も推奨しています。
実際、東大生のノートには、勉強中に感じたおもしろさや疑問が書き込まれており、これが “とっかかり” となって記憶を強くします。
私も効果を確かめるため、論文を読みながら感想をノートに出してみました。 題材は日本文学で、今回は「宮沢賢治作品の造語」の論文。忘れがちな内容を、アウトプットで定着させる狙いです。

感想は吹き出しで囲み、たとえば「造語は地名がヒントのものが多い」など、実践の気づきを他のメモと分けて記録しました。 すると、宮沢賢治作品を読んで造語を見つけるたび、論文で学んだ内容を簡単に思い出せるようになったのです。
「この造語は、何が語源になっているんだろう」「そういえば、あの論文では、地名がヒントになっているものが多いと書いてあった」と、感想が内容を思い出す手がかりになりました。
勉強を素早く確実に定着させたいなら、学んだ感想も一緒に書き出してみましょう。

紙に書くアウトプット【3】「覚えたこと」
記憶力日本一の池田義博氏は、1分で思い出せるだけ書き出す「1分間ライティング」をすすめています。書けた量と正確さで定着度が見える化され、書けない所が要復習と客観的に判別できます。あえて1分に区切るのは、本番で「使える記憶」に鍛えるため。
そこで、筆者も1分間ライティングを行なってみました。ダイエット検定の試験対策テキストを読んだあと、タイマーをセットして、学習内容を紙にアウトプットしました。
実際のところ、1分間では、想像以上に書き出せないことがわかりました。特に筆者の場合、数値を誤って覚えていたことが判明。
反対に用語は正確に書けたので、次回は細かい数値を復習すればよさそう……というわけで、数値の部分を重点的におさらいし、もう一度1分間ライティングを行ないました。
すると、以下のように結果が改善したのです。

2回目は、焦りながらも正確な数値を書き出せました。思い出す速度も上がったのか、書き出せた用語の数も1回目より増えています。
苦手箇所をピンポイント復習→即アウトプットすることで、学習のムダを削ぎ、効率を底上げできます。 特に「どこまで定着しているか不安」「毎回全範囲を復習して非効率かも」と感じる方に有効です。

なぜ勉強やビジネスでも「アウトプット」が重要なのか
「アウトプット=試験勉強」と考えがちですが、ビジネスでも本質は同じです。
- 会議で即答できる
- 上司・顧客へ短く要点を伝えられる
- 商談で適切な事例や数字を “その場で” 引き出せる
——これらはすべて、「頭の中から必要な情報をすぐ取り出す」力です。
そもそも、アウトプットとはなんでしょう? 司法書士試験講師の松本雅典氏は、インプットとアウトプットの本質を次のように示しています。
インプットとアウトプット
- インプット | 頭のなかに「入れる」こと
- アウトプット | 頭のなかから「出す」こと
情報を「頭のなかから出す」とは、言い換えると「思い出す」こと。松本氏は、勉強では、どれだけ知識を詰め込んでも、それを頭から出せなければ学習の価値は半減すると言います。
たとえば、思い出す機会を多くつくるには、試験勉強をする人であれば「問題を解く」ことが適しているでしょう。試験とは関係なく、本で学ぶ人なら、「思い出しながら紙に書き出す」「声に出しながら思い出す」など、さまざまなやり方で、アウトプットの場を用意できます。
脳科学的の観点からも、アウトプットは効果的です。特におすすめなのは、紙に書き出すこと。脳科学者の桑原清四郎氏によれば、手書きはタイピングよりも指先の動きが複雑なため、脳がより刺激され、集中力や記憶力が高まると述べています。
だからこそ、アウトプットを習慣化することが大切なのです。
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アウトプットとひとくちに言っても、さまざまな方法があります。学習内容を確実に定着させて、ビジネスでもぜひ活用してみましょう。
*1: All About|インプットとアウトプットを効果的に!勉強の効率を上げる方法
*2: WEDGE Infinity|記憶力を鍛えるのは入力じゃなくて出力です
*3: マイナビニュース|文字を書かないと脳が老化しちゃうってホント?
*4: ダイヤモンド・オンライン|覚え方は要約力で決まる
*5: 脳科学辞典|エピソード記憶
*6: STUDY HACKER|勉強能力を最短距離で上げる方法。「努力そのもの」を楽しむと、成績は落ちていく
*7: 東洋経済オンライン|東大生の「ノートのとり方」が本質的で凄すぎた
*8: STUDY HACKER|“記憶力日本一” の男の記憶術「3サイクル反復速習法」「1分間ライティング」がシンプルだけどすごい。
藤真唯
大学では日本古典文学を専攻。現在も古典文学や近代文学を読み勉強中。効率のよい学び方にも関心が高く、日々情報収集に努めている。ライターとしては、仕事術・コミュニケーション術に関する執筆経験が豊富。丁寧なリサーチに基づいて分かりやすく伝えることを得意とする。