
「人とのつながりは大切」とわかっていても、人付き合いにはどうしても苦手意識がある――そんな人は少なくありません。
ビジネスの現場では「人脈は資産」と言われますが、いざ人付き合いを広げようとしても、気疲れしたり、表面的な関係に感じたりして続かないこともあるでしょう。
しかし、人脈づくりには「社交性」や「積極性」だけではなく、「自分に合ったアプローチを見つけること」も重要です。
この記事では、人付き合いが得意でない人でも実践できる、もうひとつの人脈のつくり方を紹介します。
人付き合いが苦手でも人脈は広がる
「社交的=人脈が広い」というのは、必ずしも正しくありません。
どんなに顔見知りが多くても、信頼がなければその場限りの関係で終わってしまうからです。
一方で、人付き合いが苦手な人には「狭く深く付き合う」という傾向が見られることがあります。
自分で話すよりも相手の話を聞くことが多かったり、ひとりひとりと誠実に向き合ったり。そのような「関係性の量」より「関係性の質」を大切にする姿勢は、人脈づくりにおいて強みになりえます。
ひとりの信頼できる人を通じて新しい紹介が生まれるなど、誠実に関係を築いたその先に、自然と広がるネットワークがある場合もあります。
そしてそのネットワークは一過性のものではなく、太く、長く続く関係となる可能性があります。
「人付き合いが苦手」と感じていても、見方を変えればそれは「深いつながりを育てられる」という強みの裏返しかもしれません。

「深い関係」と「広い繋がり」、どちらも価値がある
人脈づくりには、大きく分けて2つのアプローチがあります。
人脈づくりの2つのアプローチ
- 広く浅い繋がり:多様な人と知り合い、新しい情報や機会に出会う
- 狭く深い繋がり:少数の人と信頼関係を築き、互いに支え合う
社会学の研究では、むしろ「弱い紐帯」と呼ばれる顔見知り程度の浅い繋がりこそが、転職や新事業などの新しい機会をもたらすことが示されています。*1
なぜなら、親しい友人は自分と似た情報しか持っていないのに対し、少し距離のある知人は異なる世界の情報を持っているからです。
一方で、深い信頼関係は、情緒的なサポートや困難な時の協力を得る上で欠かせません。
つまり、どちらか一方が正解というわけではなく、目的や状況に応じて使い分けることが大切なのです。
そして重要なのは、人付き合いが苦手な人には「深い関係を築く」という選択肢があるということ。無理に社交的になろうとしなくても、自分に合ったアプローチで人脈を育てていくことができます。

人付き合いが苦手でもできるつながりの築き方
「人脈づくり」と聞くと、大規模なイベントや異業種交流会に足を運んで「とにかく知り合いの数を増やす」ようなイメージをもたれるかもしれません。
しかし、それだけが人脈づくりではありません。少数の人と信頼関係を積み重ねていくというアプローチもあります。
ここでは、人付き合いが苦手な人でも実践できる「人とのつながりの築き方」を、3つのステップで紹介します。
ステップ1:大切にしたい人を明確化する
まずは、自分がどのような人と関係を築いていきたいのかを考えてみましょう。
仕事の相談ができる同僚、誠実に意見をくれる上司、励まし合える友人……。人数は少なくてかまいません。3〜5人でも充分です。
何人か洗い出してみると、人付き合いにおける自分の価値観が浮かび上がります。
- いつも相談する同僚は、どんな些細な約束も覚えてくれるので信頼できる
→見えてくる価値観:些細な事柄にも誠実であることを大切にしている - 意見をくれる上司は、普段から有言実行で頼りになる
→見えてくる価値観:言動に責任をもつことを大切にしている - 励まし合う友人は、どんなときも「ありがとう」を口にする
→見えてくる価値観:前向きな言動や、相手に敬意を払う姿勢を大切にしている *2
このように価値観を可視化すると、「誰とどのような関係を深めたいのか」が明確になります。
ステップ2:定期的な軽い接点づくり(短いメッセージ・共有)
無理に人とたくさん会おうとせず、まずは「軽い接点」をつくるところから始めましょう。
- SNSの近況にコメントしてみる
- 「この前話してた本、読んでみたよ」など、相手の話に興味を示す
- 「Aさんのおかげで⚪︎⚪︎できました!」と感謝の報告をメッセージする
会話をたくさんしようと頑張る必要はありません。「まずは一往復のやりとりができればいい」くらいの軽い気持ちでコミュニケーションを積み重ねていきましょう。
ステップ3:信頼を深めるための小さな行動(助け合い・感謝)
信頼を深めるには、「助け合い」や「感謝」を行動に移すことが重要です。
- 相手が困っていれば「なにか手伝えることある?」と声をかける
- 頼まれたら誠実にやり遂げる
- 「いつも話を聞いてくれてありがとう」「この前教えていただいたお話、とても参考になりました」など、些細なことでも感謝の気持ちを言葉にする
心理学の「返報性の法則」によれば、感謝の気持ちを伝えることは人間関係を築くうえで効果的だと言われています。
新人育成トレーナーの太田章代氏は次のように話します。
コミュニケーションを円滑にしたいなら、「好意の返報性」が一番です。好意の返報性には、モノをあげたり、褒めたりなど、さまざまな方法がありますが、最も簡単にできるのは「感謝を伝える」ことです。*3
感謝は、誰にでもどんなときにもできるコミュニケーション。人付き合いが苦手でも、まずはそこから信頼を深めていくことができます。

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人脈は多ければいいというものではありません。
あなたが心を通わすことができる少数のつながりを大切に育てることも、人脈形成の有効なアプローチのひとつです。
無理に広げようとせず、信頼できる人と誠実に関わる――その積み重ねが、やがて自然なネットワークを生み出していくかもしれません。
「人付き合いが苦手」というのは、少数の人と深くつながれる可能性の裏返し。
その特性を活かして、あなたらしいペースで人とのつながりを築いていきましょう。
※引用の太字は編集部が施した
*1 Mark Granovetter「The Strength of Weak Ties」(American Journal of Sociology, 1973) / オージス総研|会社内の「弱い紐帯(ちゅうたい)」
*2 HRドクター|信頼関係を築く方法とは?メリットや上手い人の特徴を解説
*3 Yahoo!ニュース|心理学「返報性の法則」で人間関係を良くする
澤田みのり
大学では数学を専攻。卒業後はSEとしてIT企業に勤務した。仕事のパフォーマンスアップに不可欠な身体の整え方に関心が高く、働きながらピラティスの国際資格と国際中医師の資格を取得。日々勉強を継続しており、勉強効率を上げるため、脳科学や記憶術についても積極的に学習中。