「今日も同じ資料作成、同じ会議、同じ報告書……」
オフィスで机に向かいながら、ふとため息をつく自分に気づく。給料は悪くないし、職場の人間関係も良好。目の前の仕事をこなしていけば昇進も見えている。でも心のどこかで感じる物足りなさは消えない。
「毎日同じことの繰り返しで、仕事にやりがいを感じられなくなってきた……」
数年前までは意欲的に取り組んでいた仕事が、いつの間にか単なるルーティンになっていませんか? この「仕事の満足度が低下している」という感覚は、成長意欲の高いビジネスパーソンなら誰もが直面する課題です。
この「何かが足りない」という感覚こそ、あなたの働き方を見直すべきサインなのかもしれません。
今回の記事では、仕事の幸福度を高めたい人にとって重視すべき2つのポイントをご紹介いたします。単なる「義務としての労働」から「人生を豊かにする仕事」へ、あなたの働き方を改革してみてください。
「仕事の幸福度」が高い人は「生産性」も高い
「好きな仕事」をすれば、満足度の高い働き方ができるはず……そう思う人は多いものの、誰もが望む職種に就けるわけではありません。ですが、ご安心を。仕事を好きになっていく過程でも、はじめから好きな仕事をするのと同等の満足度を得られることがわかっています。
ミシガン大学の研究者らの論文(2015)では、「仕事への情熱がどのように得られるか」について、以下の2つの理論に分類しています。それぞれ、簡単にまとめると——*1
【適合理論】
適切な仕事を選べば、情熱が得られる(=好きな仕事に就く)
【発展理論】
情熱は時間をかけて培われる(=仕事を好きになる)
一般的には「好きな仕事に就く」ほうが情熱は持続すると考えられがちですが、研究結果は異なる視点を示しています。動機づけのパターンこそ違えど、「好きな仕事に就く」アプローチも「仕事を好きになる」アプローチも、どちらも「幸福感と成功」に同様に貢献することが明らかになっているのです。
そのうえ、注目すべきは幸福度のみならず「仕事の成功」にも、好影響を与えるという点。実際、幸福度は生産性に直結するという研究結果も発表されています。
経営科学の学術専門誌『マネジメント・サイエンス』の論文(2023)では、「幸福は生産性を高める」と発表されています。英国コンサルティング会社で主任行動科学者のリンゼイ・コーラー氏によると……
幸福度が0~10の尺度で1段階上がるごとに、従業員の営業成績に基づいて測定した生産性は12%向上した。*2
しかし、労働時間が長くなったわけではない、とコーラー氏は否定します。つまり、仕事の効率が大幅に改善されたということです。「仕事の幸福度」と生産性は密接に関連し合っているのですね。
前述のように、「仕事の幸福度」を高めるための鍵は、「仕事を好きになる」プロセスにあります。では、具体的にどのような方法で仕事を好きになれるのでしょうか? 次項でその実践的アプローチをご紹介します。
📌 この章のまとめ
- 「好きな仕事に就く」ことも「仕事を好きになる」ことも「幸福感と成功」に貢献する
- 幸福度が1段階上がると生産性が12%向上する
- 「仕事を好きになる」ことで、幸福度も生産性も向上する
仕事を好きになる方法1:「自由」をつくり出す
仕事の満足度を大きく左右する要素のひとつが「自由度」、つまり仕事における裁量権です。スペイン・バレンシア大学の研究者によれば、高いスキルを求められる仕事ほど、自分でコントロールできる範囲が少ないとストレスが高くなるのだそうです。反対に、仕事において一定の裁量権(=自由度)が確保されている場合、ストレスが軽減されると研究者らは述べています。*3
しかし現実には、裁量権が限られた職種に就いている方も少なくありません。特に新入社員や特定の業務に従事している方は、自由度が制限されていると感じるケースが多いでしょう。その場合、サイエンスライターの鈴木祐氏は、まず「自分でやれるところ/やれないところ」を分けてみることをすすめています。*4
たとえば、事務仕事でも——
【自由にできる】
- タスクの優先順位づけ
- 作業スケジュールの作成
→自分のペースややり方を考えられる部分
【自由にはできない】
- 仕事の納期設定
- 急な仕様変更や追加などの対応
→上司やクライアントからの要求、外部から課される制約
自由に決められる業務領域を意識的に見つけ出し、その範囲内で自分なりのアプローチを取り入れてみましょう。仕事のすべてを「やらされている」感覚から「自分で決めて仕事している」感覚へ変えれば、ストレスレベルの低い状態で働けるはずです。
📌 この章のまとめ
- 自由度(裁量権)が高いほど、仕事の満足度が高まりストレスが軽減される
- 「やらされている」から「自分で選んでいる」という意識変換がストレスを減らす
- タスクの優先順位づけやスケジュール作成など、自分でコントロールできる領域を見つけよう
仕事を好きになる方法2:小さな「達成感」を得る
仕事の満足度を支えるもうひとつの重要な要素が「達成感」です。ただし、大きな成果だけを目指すのではなく、日常業務における小さな前進にも目を向けることが肝心です。
前出の鈴木氏は「少しでも前に進めた感覚が、人間の幸福度に大きく関わってくる」と語ります。「売上目標の120%達成」などの大きな成功体験はもちろん強い満足感をもたらしますが、日々の小さなタスクの完了や業務改善など、些細な進歩にも達成感を見出すことが継続的な満足度向上につながるのです。
「毎日の定型業務はすでに習慣化しており、達成感を感じにくい」と思う人もいるでしょう。そこで、鈴木氏が提案するのは「暮らしをゲーム化」すること。*5
通常の業務をゲームのステージに見立て、タスク完了をポイント獲得と捉えることで、小さな達成感を生み出す仕組みを構築するのです。以下が「仕事をゲーム化」した例です。
- 資料作成の所要時間を計測し、週ごとに記録する→自己ベストを更新する喜びを味わう
- 納品完了ごとにカレンダーにマーカーで印をつける→視覚的に進捗を実感する
📌 この章のまとめ
- 小さな達成感の積み重ねが仕事の満足度を高める
- 大きな成果だけでなく、日常の小さな進歩にも目を向けることが重要
- 「ゲーミフィケーション」で仕事をゲーム化し、楽しみながら達成感を得よう
仕事をゲーム化してモチベーションを上げる方法は「ゲーミフィケーション」とも呼びます。詳しくはこちらの記事をご覧ください。
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「好きな仕事に就く」ことが理想的な選択肢であることは間違いありませんが、現在の仕事を「徐々に好きになっていく」アプローチもまた、同じように価値のある道筋です。自由度の確保と達成感の積み重ねを意識しながら、あなたなりの「仕事の楽しみ方」を見つけていってください。
*1 APA PsycNet|Finding a fit or developing it: Implicit theories about achieving passion for work.
*2 Forbes|ついに証明、「幸福は労働生産性を高める」
*3 ScienceDirect|Happiness at work in knowledge-intensive contexts: Opening the research agenda
*4 マイナビ転職【公式】|『科学的な適職』の著者 鈴木祐さんに聞く!仕事選びの7つの徳目ー自由・達成・焦点ー
*5 マイナビ転職【公式】|『科学的な適職』の著者 鈴木祐さんに聞く!仕事選びの7つの徳目ー明確・多様・仲間・貢献ー
青野透子
大学では経営学を専攻。科学的に効果のあるメンタル管理方法への理解が深く、マインドセット・対人関係についての執筆が得意。科学(脳科学・心理学)に基づいた勉強法への関心も強く、執筆を通して得たノウハウをもとに、勉強の習慣化に成功している。