なぜ “厳しいだけ” だと相手は伸びないのか。育てるプロは「ペップトーク」を使いこなしている。

前向きに指導する「ペップトーク」4つのステップ01

職場の部下や同僚を指導するとき、つい熱くなりすぎて叱りつけてしまった、といった経験はありませんか。もちろん、時には厳しい態度をとることも必要でしょう。しかし、それだけだと相手は委縮してしまい、能力を存分に発揮できなくなってしまうかも。

そこで今回は、“厳しく叱る” とはまったく違った方向性の、指導する側される側両方にとってWin-Winな指導方法をご紹介します。やっぱり “ポジティブな言葉” が最強でした!

“魔法の言葉” で優勝を果たした少年野球チームがあった

人間のスキルを高める最良のツールは、最新型の機器や高価な道具はなく「言葉」なのかもしれません。言葉の使い方ひとつで、文字どおり “生まれ変わった” スポーツチームが存在します

東京品川区を本拠地とする少年野球クラブ「旗の台クラブ」では、以前は典型的なスパルタ型の指導が行なわれていました。クラブの雰囲気は悪く、選手たちも喧嘩を繰り返す状態だったのだそう。

しかし、同クラブで監督を務める大矢敦氏は、そんな状態に疑問を感じていました。そして、2018年8月に小学校のPTAが主催した「ぺップトーク」の講演会への参加をきっかけに、改善策に乗り出したのです。

このペップトークの発祥はアメリカ。スポーツの試合前に、監督やコーチが選手を激励するために行なっているトークを指します。試合の勝敗を左右するほどの影響力があるとされており、アメリカのスポーツ界では広く認知されています。

さて、大矢氏は、講演会に参加したあと、コーチたちと話し合って指導方法を改めました。たとえば、選手がミスをした際、以前ならば厳しく叱りつけていたところを、「大丈夫、次は行けるぞ!」「集中していこう!」などと希望を持たせる言葉を投げかけるようにしたのです。

すると、今までは監督やコーチの顔色をうかがっていた選手たちの様子は一変。お互いのプレーをほめ合うなど、チームにも一体感が生まれました。それに応じてチームの成績も急上昇。2018年12月に開催された関東大会で、見事に優勝を果たしたのです。

前向きに指導する「ペップトーク」4つのステップ02

ペップトークの基本は “まず自分がポジティブになること”

このように、 人やチームを生まれ変わらせるほどの威力を持つペップトーク。ぜひとも仕事の場で使えるようになりたいものです。指導する人がペップトークを使いこなせれば、指導される人にとっても大きなプラスになりますからね。

とはいえ、指導がうまくいかないときは、ついイライラしてネガティブになってしまうこともあるでしょう。それを防ぐために、まずは物事を常に前向きにとらえる練習をすることをおすすめします

日本ペップトーク普及委員会理事の浦上大輔氏は、自分自身に明るい言葉を投げかける「セルフペップトーク」を行なうことが、普段からペップトークを使いこなすコツと説きます。

たとえば、上司から急に「今日は残業してこのタスクを仕上げてくれ」と頼まれたとします。こういった場合、「定時後も働かないといけないのか……」「夜は家でのんびりしたかったのに……」とネガティブにとらえてしまいがちですが、考えようによっては「明日に仕事を持ち越さなくてすむ」というポジティブな側面もありますよね

このように、物事にはプラス面とマイナス面があります。仕事が忙しいときは「大変だ……」ではなく「新しいスキルが覚えられる!大切な案件を任せられたときは「失敗したら大問題だ……」ではなく「絶対にできる。成功したら評価されるぞ!などと、普段から物事をプラスにとらえる訓練をしておきましょう。

こうすることで、「自己承認欲求(自分自身の能力を認めようとすること)」が高まり、その結果、相手を認める意識が生まれると、浦上氏はいいます。相手をほめるためには、まずは自分をほめることが大切なのですね!

前向きに指導する「ペップトーク」4つのステップ03

ペップトークを使いこなす4つのステップ

こうして、物事を前向きにとらえる習慣をつけたら、いよいよペップトークをほかの人に投げかけてみましょう。浦上氏の著書『実践! ペップトーク』(フォレスト出版)によると、ペップトークは4つの構造から成り立っているのだそう。ぜひ以下の手順にのっとってペップトークを実践してみてください。

1. 受容

まずは、相手が置かれている立場を受け入れましょう

たとえば、あなたの部下が大切な商談を控えているとします。きっと、うまくいくかどうか心配で緊張していることでしょう。その心情を慮り、言葉に表してあげてください。「今日はこのあと大事な商談だね。自分もそうだけれども、やっぱり緊張するよね」といった具合です。

そうすると部下は、「今の自分をわかってくれている人がいる」と気づき、心にも余裕が生まれます。

2. 承認

次に、物事を前向きな表現に転換してあげましょう

先ほどのシチュエーションでいえば、 「緊張しているのは、君が絶対に成功させたいと思っている証拠だよ」「たとえ緊張していたとしても、準備してきたことをそのまま出せば結果は残せる」などです。

部下の力をリスペクトしたうえで、ポジティブな予測を伝えます。そうすれば、部下は前向きな気持ちになれるでしょう。

3 行動

部下の気持ちがプラスになったところで、行なってほしい事柄を指示します

新商品のここをPRすれば相手に刺さるはずだ」「他社製品と比べて〇〇が優れているということを伝えよう」「でも、こちらの話ばかりするのではなく、相手のニーズを引き出すことも忘れずにね」など。

具体的な内容を伝えることで、部下が行動しやすくなるというメリットも生まれますよ。

4. 激励(最後の一押し)

ここまで来たら、あとは最後のひと押しです。スポーツで、監督やコーチが選手に発破をかけながらコートに送り出すシーンをご覧になったことがある方もいることでしょう。

頑張ってこいよ!」「君なら絶対にできる」など、強く激励してあげてください。部下は充実した気持ちで商談に向かえるはずです。

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PL学園高校野球部時代に二度の全国大会優勝を経験し、プロ野球選手としても成功した桑田真澄氏は、「私は、体罰を受けなかった高校時代に一番成長した」と語り、極端に厳しい指導体制を批判しています。

「飴とムチ」という言葉があるように、人を指導する際は、厳しくするだけではなく、時には前向きで優しい態度を示すことが大切。そのとき、ペップトークは有効な手段となるのです。

(参考)
東洋経済オンライン|勝つために厳しくは必ずしも結果に直結しない
浦上大輔(2019),『実践! ペップトーク』, フォレスト出版.
日本ペップトーク普及委員会
東洋経済オンライン|アメリカがチームスポーツに強い意外な理由
Jcastニュース|「私は、体罰を受けなかった高校時代に一番成長しました」 元巨人・桑田の体罰否定論に多数の共感コメント

【ライタープロフィール】
亀谷哲弘
大学卒業後、一般企業に就職するも執筆業に携わりたいという夢を捨てきれず、ライター養成所で学ぶ。養成所卒業後にライター活動を開始し、スポーツ、エンタメ、政治に関する書籍を刊行。今後は書籍執筆で学んだスキルをWEBで活用することを目標としている。

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