職場が変わった。部署が変わった。あるいは、あまり面識のない人たちとチームを組んでひとつのプロジェクトを進めていくことになった、など――仕事をしていれば、“新しい環境” に我が身が置かれるという機会が少なからずあるはず。
環境がガラリと変化し、周囲の人もガラリと変わった。そんなとき、初めの印象が大事だからと、「絶対に失敗してはならない」と力んでしまいがちですよね。でもじつは、そんなときこそ、頑張りすぎないようにしたり適度に手を抜いたりすることが大事かもしれません。
環境が変わったときこそ、「完璧主義」的な思考を手放してみませんか?
世界中で活躍する華僑が大切にする「70点主義」
新しい環境では、周囲の人たちから早めに信頼を得ようと、頼まれたことをすべて引き受けたり、何事も完璧にこなそうと考えたりする人は多いはず。たしかにスタートダッシュは大切ですが……全面的に正しいとは言えなさそうです。
見出しで述べた「華僑」とは、外国に移住した中国人の総称。華僑の大富豪に師事した経験を持ち、現在は実業家として活動する大城太氏によると、新天地で不利な条件下に置かれるのが当たり前の華僑は、最初から完璧を目指さない「70点主義」ともいえる考えを持っているそうです。
特に、外国に渡ったばかりの華僑にとって、「物を作るための道具が見つからない」「物を売るための店舗が見つからない」など、ビジネスをするうえで必要なものがそろっていないのは当たり前のこと。そんなとき、華僑は無理をしません。自分が本当にやりたい仕事ではなく、“とりあえずお金を稼げる仕事” から始めるのだそう。そうして、機が熟すのを待つのです。
大城氏は、完璧主義者について「物事を広く見れないため、その中だけで完璧を目指そうとしている」と指摘しています。新しい場所なのだから、慣れていなくて当たり前。むしろ「70点で良し」として、その後活躍するための礎を少しずつ築いていくほうが、長い目で見れば賢明なのです。
実際、「完璧主義」は問題が多い
とはいえ、普段から完璧を目指しがちな人は、完璧を求めない思考に対して不安を抱いてしまうかもしれませんね。しかし調べてみると、完璧主義にもいろいろな問題があることがわかります。
アメリカ人コラムニストのミリアム・グロブマン氏は、物理学の教授である夫が「たった1時間の授業のために2週間も内容を練って原稿の推敲を重ねていた」ことを引き合いに、完璧主義は不安やストレスの原因になりやすいと語っています。グロブマン氏は、完璧主義者は往々にして、少しでも落ち度があると、「0か100か思考」ですぐに失敗ととらえてしまったり、「自分には能力がない」と過小評価してしまったりすると指摘しています。こんな状態に陥っては、物事をスムーズにこなしづらくなりますよね。
また、跡見学園女子大学文学部が、213名の大学生を対象に調査を行なった結果、完璧主義的な考えを持つ人は抑うつの傾向が強い一方、完璧主義的な考えを持たない人は、自分自身を信じられる「自己効力感」を持つ傾向が強いことが判明したそうです。
慣れない新天地だからこそ、やはり初めから無理はしないほうがよさそうですね。
完璧主義から抜け出す3つのコツ
それではここからは、完璧主義的思考のもと、つい頑張りすぎてしまう人に向けて、完璧主義から抜け出すための思考術を紹介していきましょう。
1.「べき思考」を捨てる
精神保健福祉士の川島達史氏は、完璧主義者は「○○はこうするべきだ」「○○はするべきではない」といった「べき思考」が強いと指摘します。
「この仕事はひとりで全部終わらせるべきだ」「忙しそうな人には話しかけるべきではない」――たしかに、私たちの周りにはたくさんの「べき思考」があふれています。それはまじめさや責任感の表れかもしれませんが、あなたを縛りつけている恐れも。一度「べき思考」を捨ててみれば、心が楽になるかもしれませんよ。
大変だったら人を頼ってもいい。わからなければ人に聞いてもいい。「べき思考」にとらわれず、もっと気楽に考えてよいのです。
2. 目標のハードルを低くする
翻訳家として活躍する岩田ヘレン氏によると、完璧主義者は物事を行なう際に「どうせやるのであれば、大きくやらないといけない」と考える傾向があると語ります。つまり、あえて達成が難しいことに挑戦する――そうなると、失敗の確率も上がってしまいます。
そこで岩田氏がすすめるのが「小さく始める」「時間制限を設ける」こと。いきなり「プロジェクトを大成功させて売上を目標比200%に持っていく!」と考えたところで、それは絵に描いた餅に過ぎません。
「まずはこの3日間で競合サービスAとBを調査する」「それをメンバーに共有してマーケティング施策の方向性を決める」など、小さな目標や計画を立てて、それらを着実に遂行していくことに注力しましょう。
3. 考え方を「減点式」から「加点式」に変える
経営コラムニストの横山信弘氏によると、ビジネスの成功者たちが自己評価をする場合、スタートを100点とする「減点方式」ではなく、スタートを0点とする「加点方式」を採用しているのだそう。
「うまくいくかどうかわからない、けれどもやってみる価値はある」……という行動に対し、自己評価の方式によって、それぞれ対照的な反応を示します。「加点方式」で自己評価する人は、たとえうまくいかなくても良い経験になる、自分の資産につながる、と考えます。しかし「減点方式」で自己評価する人は、うまくいかないのなら意味がない、「やるだけ無駄」という考え方になります。
(引用元:YAHOO! JAPANニュース|自己評価が「完全加点方式」だと、ビジネスで何をやってもうまくいく)
つまり、減点方式で進めると、わずかなミスやトラブルでも「100点→90点」「90点→80点」と自己評価が下がってしまうことに。結果、失敗に対して過剰な恐怖を感じ、物事が遅々として進まないという事態になりかねません。
反対に、加点方式で考えれば、「競合サービス調査が完了した時点で加点」「企画書のドラフトができた時点で加点」と、次々とプラスの要素が見つかります。意欲にもつながりそうですよね。
加点方式の考え方を持てば、多少の失敗が苦にならなくなるのです。
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新しい環境に身を置くと力みがちな人ほど、完璧主義から離れてみてください。
(参考)
日経ビジネス|華僑と沖縄の人に学ぶ、実は要領がいい70点主義
大城太(2015),『失敗のしようがない華僑の起業ノート』, 日本実業出版社.
Forbes JAPAN|完璧主義者が注意すべき3つの思考の落とし穴
中野敬子, 臼田倫美, 中村有里(2010),「完璧主義の適応的構成要素と精神的健康の関係 -日本語版Dyadic APS-R完璧主義質問表による検討-」, 跡見学園女子大学文学部紀要 第45号, pp74-89.
Direct communication|完璧主義を改善する「べき思考→なるべく思考」④
日経doors|あなたの成長を邪魔してる?「完璧主義」を脱出しよう
YAHOO! JAPANニュース|自己評価が「完全加点方式」だと、ビジネスで何をやってもうまくいく
【ライタープロフィール】
亀谷哲弘
大学卒業後、一般企業に就職するも執筆業に携わりたいという夢を捨てきれず、ライター養成所で学ぶ。養成所卒業後にライター活動を開始し、スポーツ、エンタメ、政治に関する書籍を刊行。今後は書籍執筆で学んだスキルをWEBで活用することを目標としている。