
資料はもう仕上がっているのに、細部が気になってもう一周見直してしまう。「90点の出来」と言われても、頭に浮かぶのは残りの10点のほう。
「完璧主義はやめよう」とよく言われます。けれど、目指す水準を下げるのはどうにも気持ちが悪いし、実際やめられない。そんな自分に、どこか後ろめたさを感じている人も多いはずです。
結論からお伝えすると、やめる必要はありません。心理学の研究では、高い基準そのものは悪者ではないことがわかっています。完璧主義に潰される人と、完璧主義を武器に伸びていく人。そのふたりを分けているのは、目標の高さではありません。
では、何が分けているのか。まずはチェックリストで、あなた自身がどちら側にいるのか確かめてみましょう。
【チェックリスト】あなたの完璧主義はどっち?
次のうち、自分に当てはまるものにチェックを付けてみてください。
あなたはどっち? 完璧主義タイプチェックリスト
☐ ミスをすると、仕事や勉強そのものより「やってしまった自分」のほうが頭に残る
☐ 計画の8割をこなした日でも、「できなかった2割」ばかりが気になる
☐ 「ここまでできた」より先に、「まだ足りない」が浮かぶ
☐ 一度つまずくと、その日はもうやる気が戻らない
☐ 頑張っているとき、ふと「まわりからどう見えているか」を考えている
☐ 同僚やSNSの成果を見ると、自分の進み具合が急に色あせて見える
3つ以上当てはまった方は「潰れる完璧主義」、ほとんど当てはまらなかった方は「伸びる完璧主義」の傾向が強いタイプです。
気づいた方もいるかもしれません。この6項目はどれも、目標の高さを聞いていません。ふたつのタイプの分かれ目は、そこにはないからです。
もし多く当てはまっても、心配はいりません。高い基準はそのままで、「伸びる完璧主義」にシフトすることができます。
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「潰れる完璧主義」と「伸びる完璧主義」は何が違うのか
完璧主義は「ふたつの成分」でできている
完璧主義の研究では、長いあいだ「完璧主義は有害なもの」という見方が主流でした。しかし、心理学者シュテーバーらが2006年にまとめたレビューをはじめ、現在の研究は別の見方を採用しています。
完璧主義は、「高い基準を追い求める力」と「失敗への恐れ」という、ふたつの成分の組み合わせでできているという見方です。*1
完璧主義 = 高い基準 + 失敗への恐れ
前者だけが強い人は、高い目標に向かう過程そのものを力に変えられる「伸びる完璧主義」。そこに後者が重なると、同じ高さの目標が自分を追い詰める道具に変わり、「潰れる完璧主義」になります(研究ではそれぞれ「適応的完璧主義」「不適応的完璧主義」と呼ばれます)。
潰れる完璧主義
高い基準 + 失敗への恐れ
伸びる完璧主義
高い基準 + 失敗への恐れ
つまり、どちらのタイプも目指す水準は同じく高いのです。「ここまでできたから十分」と途中で満足する人の話ではありません。100点を譲らないまま、潰れない人が現実に存在するということです。

違いは、100点と現在地の「ギャップの扱い方」
では、「失敗への恐れ」があるかないかで、何が変わるのでしょうか。
ふたつのタイプが分かれるのは、100点と現在地のあいだにある「ギャップの扱い方」です。
潰れる完璧主義は、ギャップを「不足」として扱います。100点から現在地までを引き算し、足りない分を自分の欠陥として数える。この採点方式では、どれだけ頑張っても手元に残るのはマイナスの一覧です。守りの姿勢になってメンタルが摩耗し、やがて挑戦する前から動けなくなります。
一方、伸びる完璧主義は、同じギャップを「伸びしろ」として扱います。0点から現在地までを足し算し、積み上がった分を資産として数える。ミスさえも、次の積み上げに使えるデータになります。
この違いは、気の持ちようの話にとどまりません。ヒルとカランが2016年に発表したメタ分析(43の研究、約1万人分のデータを統合した解析)では、燃え尽きと強く結びついていたのは「失敗への恐れ」の成分であり、高い基準の追求そのものは、燃え尽きとほとんど関連しないことが示されました。*2
手放すべきなのは高い基準ではなく、100点から引き算する採点のしかたなのです。
次項では、高い基準はそのままに、採点のしかたを切り替えるための方法を紹介します。
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高い基準はそのまま。「伸びる完璧主義」に切り替える3つの方法
これから紹介する方法に共通するのは、どれも目標を下げる話ではないということです。変えるのは、採点のしかただけです。
1. 「足りない分」ではなく「積み上がった分」を数える
1日の終わりに自分を採点するとき、「できなかったこと」から数えるのをやめ、「ゼロから何を積み上げたか」から数えてみましょう。
たとえば計画の8割をこなした日。「2割足りない」ではなく、「8割積み上がった。残り2割は明日の伸びしろだ」ととらえ直します。目標の100点はそのままです。変わったのは採点の向きだけ。それでも、脳が受け取る意味は大きく変わります。
例
1日の終わりに、チェックがついた項目を数える。残った項目は消さずに、「明日の積み上げ候補」として書き写す
2. 失敗を「エラーログ」と呼びかえる
ミスをしたとき、それを人格や能力の否定だととらえてしまうと、そこで思考も行動も止まってしまいます。
そうではなく、失敗は単なる「エラーログ」だととらえ直してみましょう。感情的に自分を責めるのではなく、原因を探して淡々と直せばいい。それだけで、次の一手に集中しやすくなります。
心理学者ジェイソン・モーザーらが2011年に発表した研究では、成長マインドセットをもつ人ほど、ミスをした瞬間に脳がより強く反応し、誤りの情報を深く処理していることが示されました。失敗をデータとして扱う姿勢は、脳を学習モードへ切り替える働きをもっているのです。*3
例
もしミスをしたら、「改善のヒントがまた見つかった」ととらえ直し、原因と対策だけをメモする

3. 審査員を「まわり」から「過去の自分」に替える
「失敗への恐れ」の中心には、多くの場合「まわりからどう見られるか」という他人の視線があります。審査員が他人である限り、採点は永遠に終わりません。
そこで、審査員を「過去の自分」に替えましょう。先週の自分、去年の自分と比べて、どれだけ積み上がったか。基準の高さはそのままに、採点する人だけを入れ替えるのです。
例
テストの点数は、合格者の平均ではなく、前回の自分の点数と比べる
***
完璧を目指す熱量は、貴重な才能です。手放すべきなのは100点の目標ではなく、100点から引き算する採点表のほうでした。
明日から「まだ2割足りない」を「8割積み上がった。残りは伸びしろだ」に言い換えてみてください。同じ高い基準が、あなたを追い詰める基準から、あなたを育てる基準に変わります。
よくある質問(FAQ)
Q. 完璧主義は治すべきものなのでしょうか?
Q. 「潰れる完璧主義」と「伸びる完璧主義」の一番の違いは何ですか?
Q. 「伸びる完璧主義」に変えるために、今日からできることはありますか?
*1: Personality and Social Psychology Review|Stoeber, J., & Otto, K. (2006), "Positive Conceptions of Perfectionism: Approaches, Evidence, Challenges," Vol.10, No.4, pp.295-319.
*2: Personality and Social Psychology Review|Hill, A.P., & Curran, T. (2016), "Multidimensional Perfectionism and Burnout: A Meta-Analysis," Vol.20, No.3, pp.269-288.
*3: Psychological Science|Moser, J.S., Schroder, H.S., Heeter, C., Moran, T.P., & Lee, Y.H. (2011), "Mind Your Errors: Evidence for a Neural Mechanism Linking Growth Mind-Set to Adaptive Posterror Adjustments," Vol.22, No.12, pp.1484-1489.
柴田香織
大学では心理学を専攻。常に独学で新しいことの学習にチャレンジしており、現在はIllustratorや中国語を勉強中。効率的な勉強法やノート術を日々実践しており、実際に高校3年分の日本史・世界史・地理の学び直しを1年間で完了した。自分で試して検証する実践報告記事が得意。