「選好の逆転」に惑わされないために——"ビジネス判断力"を鍛える心理テクニック

3色のドアが並んでいる様子

ビジネスの場面で意思決定をするとき、あなたは「自分の判断には一貫性がある」と信じていませんか?

じつは、選び方の順番や文脈が変わるだけで、「好き」「嫌い」「損」「得」といった評価がコロッと入れ替わってしまう現象があります。

それが今回ご紹介する「選好の逆転」です。

これは心理学でよく知られた現象ですが、ビジネスパーソンの間ではあまり知られていないのではないでしょうか。

この記事では、ビジネスパーソンが「選好の逆転」という心理現象を攻略し、自分をよりよい選択に導く方法をご紹介します。

1. 「瞬間の文脈」に反応する心理現象

「AとB、どちらを選ぶか」と問われたとき、あなたは自分が論理的に判断していると思っているかもしれません。

しかし、私たちは「その瞬間に何と比較したか」「どのように提示されたか」といった、文脈に強く影響されているのです。

これが心理学でいう「選好の逆転」で、認知心理学者のポール・スロヴィッチとサラ・リヒテンシュタインの実験により明らかにされた現象です。*1

経営コンサルタントの横山信弘氏はこの現象を、「選択肢を示された状況や順番によって思いがけない選択をしてしまうこと」だと説明します。*2

たとえば、以下のメニューを見てください。

  • パスタランチ:1,200円
  • ハンバーグランチ:1,800円
  • ステーキランチ:2,500円

この選択肢であれば、多くの人が中間のハンバーグランチを選ぶのではないでしょうか。

これは、高すぎる・安すぎる選択肢を避け、無難な「真ん中」を選びたくなる傾向です。

ところが、さらに特上ステーキランチが3,500円に設定されていたらどうでしょう?

2,500円のステーキランチが「中間」に感じられ、選ばれる確率が上がります。

実際にはランチの内容は変わっていないのに、「提示されたほかの選択肢と比べてどうか」という感覚に支配されてしまい、2,500円のステーキランチが得に感じられてしまうわけです。

このように、選択肢の並べ方や順番によって私たちの「好き」「嫌い」「損」「得」といった評価が逆転してしまうことを「選好の逆転」といい、意識にのぼらないレベルで起きているのです。

レストランのメニューを見る人の手元

2. 「選好の逆転」の問題点

ビジネスにおいては、「選好の逆転」に振り回されず「自分の評価軸」をもつことが大切です。

それは「選好の逆転」が起こった場合、自分の判断だと思っているものが「自分で決めたもの」ではなく、状況に左右された一時的な判断であるからです。

その結果、「あのときはAを選んだけど、やっぱりBにすればよかった」といった迷いや後悔を招きやすくなります。

こうした「選好の逆転」を回避し、冷静な判断をするためには「自分なりの比較基準をあらかじめもっておくこと」が大切なのです。

考えるビジネスパーソン

3. 「選好の逆転」場面別回避例3選

続いては、「選好の逆転」が起こり得る場面を挙げ、それを回避するためにはどうすればいいのかをシーン別にご紹介していきます。

営業提案を受ける場面

あなたが営業を受ける場面で考えてみましょう。

たとえば「安い」「中間」「高い」といった3つの提案プランを並べられると、多くの人は「中間プラン」が最もバランスよく感じられ、選びやすくなる傾向があります。

その中間にあるプランが「ちょうどよく」見えるよう意図されているからです。

これが、自分が納得して選んだように思えても、提案順や価格帯のバランスによって選択を操作される「選好の逆転」が起こっているわけです。

どう回避する?

  • 提案を受ける前に「自分が求める要素」を整理しておき、それと提案内容を照らし合わせて判断する
  • 提案を受けたあとに「提案順をシャッフルして再評価」してみる

このときのポイントとしては、「提案を受ける側」から「提案をする側」の立場に視点を切り替えると、誘導に気づきやすくなります。

説明をするビジネスパーソン

会議での意思決定の場面

会議の場では「最初に出た案」や「上司が推している案」がなんとなく正しく感じられ、ほかの案を冷静に比較できなくなることがあります。

これも、提示の順序や状況、他者の影響によって「選好の逆転」が起きる例です。

この場合も、あとから「やっぱり別の案がよかった」と判断に後悔が生じる可能性があります。

どう回避する?

  • 選択肢を全て同じ基準で「数値化」または「5段階評価」してから議論する
  • 「誰が出した案か」ではなく「内容」だけをフラットに見るよう心がける

明文化された評価基準で比較することが、「選好の逆転」を回避するポイントです。

転職でのキャリア選択の場面

転職やキャリアを選択する場面でも「選好の逆転」は起こり得ます。

転職活動を始めた段階では「やりがい」や「成長機会」を重視していたとしましょう。

しかし、いざ複数社から内定が出て、並べて比較し始めると、「年収」や「福利厚生」などのわかりやすく数値化された項目に気持ちが引っ張られることがあります。

これは「そのときの状況」に判断が左右される「選好の逆転」が起こったということです。

どう回避する?

  • 「自分の判断基準」を転職活動開始の段階で紙に書き出しておく
  • 面接後の「感情」を書き記しておき、比較は時間をおいて行なう
  • 各企業に対し同じ評価項目で5段階スコアをつける

転職という大きな決断が一時的な判断となってしまわないようにするためには、書き出しておいた「自分の判断基準」を決断のたびに見返すことが重要です。

決断のために考えるビジネスパーソン

***
「選好の逆転」は、誰にでも起こりうるごく自然な心理現象です。しかしそのことを知らずにいると、提示の順番や一時的な文脈に流され、自分にとって望ましい選択を見誤るリスクが高まります。

ビジネスの現場では、毎日が意思決定の連続です。だからこそ、自分の判断軸を事前に明確にしておくこと、相手の提示方法に惑わされない目をもつことが重要です。

「選好の逆転」を理解し、冷静な比較と判断ができるようになれば、選択の精度は大きく向上するでしょう。

※引用の太字は編集部が施した

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