
後輩に仕事の手順を教えていたら、自分の理解まで深まった。資格の勉強で覚えたことを友人に説明したら、その内容はあとからもよく思い出せた。
「教わるより、教えるほうが勉強になる」と感じた経験はありませんか。
誰かに教えることが自分の学びにもなるなら、普段の勉強にも取り入れたいところです。ひとりで参考書を読み進めるだけでなく、学んだ内容を教え合えば、理解も記憶も深まりそうですよね。
教えると勉強になる。でも、毎回「生徒役」は集められない
ところが、実際に誰かに教えようとすると、まず必要になるのが聞いてくれる相手です。
勉強するたびに、家族や友人に「少し説明を聞いて」と頼むのは気が引けるもの。同じ資格を目指す仲間が見つかっても、仕事や家事の合間に、集まる時間や場所を調整しなければなりません。
ようやく勉強会を開けたと思ったら、近況報告から雑談へ。楽しい時間にはなったけれど、肝心の勉強はあまり進まなかった——そんなこともあるでしょう。
教えることのよさは実感していても、そのための準備に手間がかかり、勉強時間まで減ってしまっては、日々続けるのが難しくなります。
「人に教えると勉強になるのはわかる。でも、毎回はできない」。ここで止まってしまうのは、もったいないことです。

「教えると身につく」仕組みは、ひとりの勉強にも取り入れられる
そもそも、なぜ誰かに教えると、自分の学びも深まるのでしょうか。
教えるためには、内容の要点をつかみ、相手に伝わる順番に整理する必要があります。さらに、教材を見ずに説明しようとすれば、覚えたことを自分の記憶から取り出すことになります。
この「教えるために学ぶ」ことで、教える側の学習が促される効果は、プロテジェ効果と呼ばれています。
注目したいのは、実際に教える前の段階でも、学び方が変わりうることです。ワシントン大学セントルイス校などの研究では、「あとで人に教える」と伝えられて文章を学んだ参加者は、「あとでテストを受ける」と伝えられた参加者より、内容を整理して思い出す成績などで優れていました。実際には、どちらの参加者も人に教えていません。*1
目の前に生徒がいなくても、「教えるつもりで整理する」「何も見ずに思い出す」という作業はできるのです。
そこで試したいのが、次の3つの勉強法です。教えるつもりで学んだ内容を、紙に書く、頭のなかで答える、声に出して説明する。取り組みやすい形で、アウトプットしてみましょう。
1.白紙勉強法——説明する内容を、何も見ずに書き出す
ひとつめは、教材を閉じ、学んだ内容を白紙に書き出す方法です。
たとえば、資格の参考書でひとつの項目を読んだら、「これを初めて学ぶ人に、何を伝えればいいだろう」と考えてみてください。用語の意味、押さえたいポイント、具体例などを、思い出せる範囲で書き出します。
きれいなノートをつくる必要はありません。短い箇条書きでも、言葉を矢印でつないだ図でも十分です。大切なのは、参考書を写すのではなく、自分の頭から取り出すことです。
白紙勉強法のやり方
- 参考書などで、ひとつのテーマを学ぶ
- 教材を閉じ、誰かに説明するつもりで要点を書き出す
- 書けなかった部分や、説明が曖昧な部分を教材で確認する
- 確認したら、もう一度教材を閉じ、自分の言葉で書いてみる
「用語は覚えているのに、意味が書けない」「手順は書けるのに、その理由が説明できない」。白紙に向かうと、読み返すだけでは見逃していた穴が見えてきます。
まずは5分ほどで構いません。書けなかったところをひとつ確認できれば、次に何を勉強すればよいかも明確になります。
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2.リトリーバル——自分への質問に、記憶から答える
紙を広げられないときは、自分に質問を出してみましょう。
「今日覚えた用語は、どういう意味だった?」「あの仕組みのポイントを3つ挙げると?」「似ているふたつの概念は、何が違う?」。答えをすぐに調べず、まずは思い出してみます。
このように、学んだ情報を記憶から取り出す練習を「リトリーバル・プラクティス(検索練習)」といいます。先ほどの白紙勉強法も、その一例です。ここでは、道具を使わず、短い自問自答として取り入れてみましょう。
短いリトリーバルのやり方
- 勉強を終えるときに、学んだ内容から質問をひとつつくる
- 帰り道や休憩中に、何も見ずに答えを思い出す
- あとで教材を開き、答えが合っていたか確認する
頭のなかで答えるときも、「なんとなくわかる」で終えず、短い一文にしてみるのがポイントです。誰かに質問された場面を想像すると、説明できるところと、言葉に詰まるところを分けやすくなります。
思い出せなかった内容は、確認したあとでもう一度自分に問いかけてみてください。
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3.宇治原氏の「エアー授業」——架空の生徒に教えてみる
声に出して説明したい人に参考になるのが、クイズ番組でもおなじみのロザン・宇治原史規氏が実践していた「エアー授業」です。
宇治原氏はインタビューで、受験勉強の際、自宅で先生になったつもりで、架空の生徒に授業をしていたと話しています。説明することで、自分が理解できているところと、できていないところがはっきりするのだそうです。*2
目の前に生徒がいるつもりで、「今日は、この言葉について説明します」と話し始めてみましょう。授業のように振る舞うのが照れくさければ、後輩に教える場面を想像してもよいでしょう。
まず試したい、短いエアー授業
- 今日学んだ内容から、テーマをひとつ選ぶ
- 教材を閉じ、初めて聞く人にも伝わるように1分ほど説明する
- 「それはなぜ?」「たとえば?」と、生徒からの質問も想像する
- 説明に詰まったところを確認し、もう一度話してみる
この手順は、宇治原氏の方法を日々の勉強で試しやすくした一例です。長い授業を再現する必要はありません。
たとえば仕事に関する制度を学んだなら、「何のための制度なのか」「誰が対象なのか」「具体的にどんな場面で使うのか」と順に説明してみます。用語を並べるだけでは話せない部分に、復習の手がかりがあります。
自分の説明を聞き直したければ、スマートフォンで録音や録画をしてもよいでしょう。相手の予定を気にせず、納得できるまでやり直せるのも、ひとりで行う利点です。

「思い出す」「説明する」を、今日の勉強にひとつ
3つの方法を支えるのは、記憶や学習に関する研究です。
白紙勉強法と、自問自答するリトリーバルに共通するのは、何も見ずに思い出すこと。文章を読んだあとに内容を思い出すテストを行った人は、繰り返し読む学習をした人より、2日後や1週間後によく覚えていたという実験結果があります。*3
エアー授業も、教材を見ずに行えば、思い出しながら説明する練習になります。宇治原氏の方法そのものを検証した研究ではありませんが、ノートを見ずに教えたグループと、内容を思い出す練習をしたグループが、ノートを見ながら教えたグループより、1週間後の理解度テストで優れていたという報告があります。*4
脳科学の研究でも、思い出す練習によって翌日まで記憶が残ったときには、記憶に関わる海馬や前頭前野などの活動・連携が関係していました。3つの方法を個別に脳画像で確かめた結果ではありませんが、共通する「記憶から取り出す」働きを理解する手がかりになります。*5
***
教えるための勉強会を開かなくても、紙に書き出す、自分に問いかける、架空の生徒に説明することはできます。
今日の勉強が終わったら、教材を閉じ、学んだことをひとつ、自分の言葉で取り出してみましょう。うまく説明できなかったところを確認する。その小さなひと手間から始めてみてください。
Q. 教える相手がいなくても、ひとりで取り組めますか。
Q. 白紙勉強法とリトリーバルは、何が違いますか。
Q. 宇治原氏の「エアー授業」は、どう始めればよいですか。
Q. 何も思い出せないときは、どうすればよいですか。
*1: Nestojko, J. F., Bui, D. C., Kornell, N., & Bjork, E. L. (2014). Expecting to teach enhances learning and organization of knowledge in free recall of text passages. Memory & Cognition, 42, 1038–1048.
*2: THE21オンライン(宇治原史規・菅広文)|高学歴芸人ロザンの必勝勉強法・「エアー授業」とは!?
*3: Roediger, H. L., & Karpicke, J. D. (2006). Test-enhanced learning: Taking memory tests improves long-term retention. Psychological Science, 17(3), 249–255.
*4: Koh, A. W. L., Lee, S. C., & Lim, S. W. H. (2018). The learning benefits of teaching: A retrieval practice hypothesis. Applied Cognitive Psychology, 32, 401–410.
*5: Wing, E. A., Marsh, E. J., & Cabeza, R. (2013). Neural correlates of retrieval-based memory enhancement: An fMRI study of the testing effect. Neuropsychologia, 51(12), 2360–2370.
藤真唯
大学では日本古典文学を専攻。現在も古典文学や近代文学を読み勉強中。効率のよい学び方にも関心が高く、日々情報収集に努めている。ライターとしては、仕事術・コミュニケーション術に関する執筆経験が豊富。丁寧なリサーチに基づいて分かりやすく伝えることを得意とする。