- 仕事のモチベーションが上がらない……
- 作業がはかどらない……
- 仕事上のコミュニケーションが苦手……
などなど、仕事に関する悩みは尽きないもの。今回ご紹介する4つの「心理テクニック」が、あなたの仕事上の問題を解決するヒントになるかもしれません。
仕事に取りかかれないときは……「認知的不協和」
仕事に取りかかるモチベーションが湧かない……。そんなときに利用できるのが「認知的不協和」という心理です。
精神科医の樺沢紫苑氏によると、認知的不協和とは「自分の中にある矛盾に不快感を抱き、それを解消しようとする現象」。わかりやすい例を、樺沢氏はこう示しています。
公共のトイレなどで、「きれいに使っていただきありがとうございます」という貼り紙をよく見かけると思います。これはまさに認知的不協和を使った、トイレのきれいな利用を促す方法なのです。
トイレを汚く利用すると、目の前に書いてある「きれいに使っていただきありがとうございます」という言葉との矛盾が生じます。そのため、人は「トイレをきれいに使わなくては」という心理になるのです。
(引用元:特選街web|【認知的不協和とは】片付けられない人が簡単に片づけ始める「魔法の言葉」)
あなた自身にも、トイレの貼り紙を目にして「きれいに使わなきゃ」という意識が高まった経験はありませんか? もしあるなら、それは認知的不協和によるものだったのですね。
樺沢氏は、この認知的不協和を利用することで、掃除や片づけ、勉強などに取りかかれない悩みを解消できると提唱しています。考え方は同じなので、もちろん仕事にも応用可能なはず。
たとえば以下のようにつぶやいてみれば、「認知的不協和」を刺激でき、スムーズに仕事に取りかかれると考えられます(実際にやっていただくと、効果のほどを実感できるでしょう)。
- 「今日は仕事がサクサク進んでいるな」
- 「作業がよくはかどるなぁ」
- 「サッと仕事に取りかかれたな」
このように、「こうなっていたい」という理想状態を「すでに起きていること」、つまり過去形や現在進行形で宣言するのです。
理想と現実の不協和が生まれれば、それを解消しようとしてアクションを起こせるようになります。「仕事がサクサク進んでいるな」と口に出したあと、仕事をサクサク進めずにいたら気持ちが悪いので、仕事をサクサク進めるべく行動するように脳はおのずと動いてくれるということです。
ぜひ、理想の状態を積極的に口に出してみましょう。
作業がはかどらないなら……「目標勾配」の法則
仕事がはかどらないときに使えるのが「目標勾配」。心理学者の植木理恵氏は、目標勾配について、「目標に接近するにつれてやる気がアップするという心理学の理論である」と紹介しています(植木理恵著『30日で学ぶ心理学手帳』より)。
たとえば10kmのマラソン。残り1キロの地点まで走り切ると「あと少しだ」と思え、やる気が高まりますよね。このような心理が目標勾配です。
これを仕事に利用する方法を考えてみましょう。全10枚の資料を仕上げなくてはならない。資料を1枚つくるだけでも大変なのに、全部で10枚もあると考えただけで気が遠くなってしまい、作業もはかどらない……。そんな状況をイメージしてください。
目標勾配を使ってやる気を高めるポイントは「仕事のプロセスを細分化し、小さな目標を数多く設定すること」だと、植木氏は述べています(同上書籍より)。
ですから、まずは1枚めの完成を目指し、それができたら2枚め、3枚め……という具合に、「1枚」の完成を小ゴールととらえるのです。すると「1枚ごと」という短いスパンで目標勾配が働き、作業がはかどりやすくなるはず。
最初から「10枚完成させよう」と考えるのはNG。これでは目標に “接近” したと感じるまでに8~9枚ほどを仕上げねばならず、モチベーションが上がるまで当分辛抱が必要になってしまいます。
ほかにも、目標勾配を活用できる例を挙げますので、ぜひご自分に合わせてアレンジしてみてください。
- メール営業100件のノルマ達成を目指す
→5件送信するごとに “自分へのごほうび” をあげる - 1,000件のデータをチェックする
→まずは10件の完了を目指す
頼み事をするなら……「カチッサー効果」
人に頼み事をしたい。でも断られそうで心配……。そんなときは「カチッサー効果」を利用してみましょう。
精神科医のゆうきゆう氏によれば、カチッサー効果とは「理由を伝えるだけで、深く考えずに特定のお願いを許諾してしまう心理現象」のこと(ゆうきゆう著『なるほど心理学: 人と自分の心を動かす!』より)。
頼み事をするときに「その頼み事の理由を言う」というちょっとしたひと工夫で、YESをもらえる可能性を大きく高められるということです。
たとえば、
「今日中に必要なので、このデータを入力してくれませんか?」
「会議で使うので、このデータを入力してくれませんか?」
「急いでいるので、このデータを入力してくれませんか?」
という具合に、お願いの前に「理由」を添える。たったこれだけで、相手が頼みを聞いてくれる可能性が高まるのです。
たしかに、上記のような言い方で頼まれると納得感があり、気持ちよく引き受けたくなりますよね。「なるほど、そういうことなら仕方ないな。引き受けよう」とつい思ってしまうはず。
ゆうき氏いわく「理由は、ほとんど意味がないものでもOK」(同上書籍より)。「急いでいるので」のような簡単な理由をつけるだけでも、カチッサー効果を得ることができますよ。人に頼りたい、でも断られたらどうしよう……と悩んでいては、時間がもったいないもの。サクッと理由づけをして素直に頼ってしまいましょう。
ちなみに、気になる「カチッサー」の名前の由来について、社会心理学者ロバート・B・チャルディーニ氏はこう説明しています。
「カチッ」とボタンを押すと、その場面に適したテープが動き出します。そして、「サー」とテープが回って一定の標準的な行動が現れるのです。
(引用元:ロバート・B・チャルディーニ著, 社会行動研究会訳(2014),『影響力の武器[第三版] なぜ、人は動かされるのか』, 誠信書房.)
「理由を聞く」というのがスイッチになって、「頼みを引き受ける」という行動が自動的に現れる――というイメージですね。
提案を通したいなら……「スリーパー効果」
プレゼンで自分の提案を取引先に通したい、上司に提案を聞き入れてもらいたいときに役立つ心理テクニックが、「スリーパー効果」です。
心理学者・渋谷昌三氏が、スリーパー効果についてこう説明しています。
「もし、最初のプレゼンがうまくいかなくても、しばらく時間がたってから説得の効果が表れることがあります。これをスリーパー(仮眠)効果と言います」
(引用元:プレジデントオンライン|なぜ、プレゼンから時間がたつと説得力が増すのか)※太字による強調は編集部にて施した
渋谷氏によれば、脳は「情報源と情報の内容を切り離して、情報処理をするようにな」るとのこと(渋谷昌三著『電車の中を10倍楽しむ心理学』)。つまり、インプットした情報をしばらく “寝かせて” いるうちに、「情報の内容」だけが残り「情報源(誰から聞いたか)」は忘れ去られるのです。
いくらあなたの提案の中身がよくても、「部下の言うことなんて……」「若手の言うことなんて……」と相手に思われるのは悔しいもの。そんなときスリーパー効果を使えば、「あなたから聞いた」という情報源を忘れさせ、情報の内容だけをフラットに評価させることが可能になるのです。
たとえば、あなたが「新しい業務ソフトを導入したい」という意見をもっているとします。しかし部長は頭の固い人で、若手の提案になど耳を傾けそうにない……。そんなときには「スリーパー効果」の出番です。
日本ビジネス心理学会副会長・匠英一氏の著書『ど素人でもわかる心理学の本』に基づくと、やることは簡単で、数日~数週間程度の間隔を空けながら、それとなく、繰り返し、あなたの意見を伝えるだけ。
たとえば「業務ソフトを導入するメリット」「他社での導入事例」などを、飲みの席や雑談時などにサラッと伝えるといいでしょう。うまくいけば、部長はその情報を「若手のあなたから」聞いたということを忘れ、業務ソフトについてフラットな立場で検討してくれるようになるはずです。
加えて、
- 1分程度でサラッと伝える
- 表現を変えながら伝える
といったことが、スリーパー効果を狙ううえでのポイントとなります。
特に、やや頑固な上司の下で働いている人などは、このスリーパー効果を知っておくと役立つことが多いかもしれません。営業や商談などあらゆるシーンにも応用の効くテクニックですので、ぜひ覚えておきましょう。
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仕事がはかどらない、うまく進まないとお悩みなら、上記4つの心理テクニックをシーン別に使い分けてみてはいかがでしょうか?
(参考)
特選街web|【認知的不協和とは】片付けられない人が簡単に片づけ始める「魔法の言葉」
タウンワークマガジン|「めんどくさいに勝つ方法はありますか?」→ 即できる対処法を精神科医に聞いてみた
植木理恵(2020),『30日で学ぶ心理学手帳』, 日本能率協会マネジメントセンター.
ゆうきゆう(2021),『なるほど心理学: 人と自分の心を動かす!』, 学研プラス.
ロバート・B・チャルディーニ著, 社会行動研究会訳(2014),『影響力の武器[第三版] なぜ、人は動かされるのか』, 誠信書房.
プレジデントオンライン|なぜ、プレゼンから時間がたつと説得力が増すのか
渋谷昌三(2014), 『電車の中を10倍楽しむ心理学』, 扶桑社.
匠英一(2022), 『ど素人でもわかる心理学の本』, 翔泳社.
【ライタープロフィール】
佐藤舜
大学で哲学を専攻し、人文科学系の読書経験が豊富。特に心理学や脳科学分野での執筆を得意としており、200本以上の執筆実績をもつ。幅広いリサーチ経験から記憶術・文章術のノウハウを獲得。「読者の知的好奇心を刺激できるライター」をモットーに、教養を広げるよう努めている。