「この資料、全体的にわかりにくいよ」
「今回のプレゼン、準備不足だったんじゃない?」
このような否定的なフィードバック、つまり「ダメ出し」を先輩や上司からされてしまい落ち込んだ経験は誰にでもあると思います。
逆に、ダメ出しをする先輩や上司にも「こんなことを言ったら嫌がられてしまうのでは」「ダメ出しをするよりも、自分で直してしまったほうが早い」などと考えてフィードバックを控えてしまうことがあるかもしれません。
ダメ出しは相手の成長のためにと思っての勇気ある発言ですが、否定だけのフィードバックは双方にとって逆効果。「ダメ出し」をすればするほど相手との関係性に溝が生まれてしまいます。
この記事では、「ダメ出し」だけではなく相手の成長を促すフィードバックの具体的な方法をご紹介します。後輩や部下を育てたいと考えているビジネスパーソンはぜひご一読ください。
成長につなげるフィードバック「ピグマリオン効果」
否定的なフィードバック、つまり「ダメ出し」をするのは相手に成長をしてほしいから。
話し方コンサルタントの羽田徹氏は「ダメ出しをしないということは、その部下を一人前の人間として見ておらず、信頼もしていないというメッセージにもなる」と語ります。
「上司の姿勢としては、部下を一人のビジネスパーソンとして認め、その成長を期待するからこそ、ダメ出しをする」のです。*1
しかし、ダメ出しをそのまま伝えても、相手は「否定された」「自分の頑張りを認めてくれない」と受け取り落ち込んでしまうだけで、改善にはつながらないでしょう。相手に課題をきちんと伝え、改善や成長を促すためには否定的なフィードバックをしたあとに、褒めるといった手順を踏むことが大切です。
セルフマネジメントプロデューサーの斉藤恵一は、褒めることの効果を以下のように述べています。
「褒める」ことは中長期的には成長も促します。つまり「褒める」ことは部下や後輩を育てるときにも役立つということです。性格にもよるので一概にはいえませんが、基本的には叱り続けるより「褒めて育てる」ことが良い影響があることが多いでしょう。期待をこめて相手を褒めると、褒められた相手はより頑張ろうとして成長していくのです。これを心理学では「ピグマリオン効果」と呼んでいます。*2
「ピグマリオン効果」とはアメリカの教育心理学者であったロバート・ローゼンタール氏によって提唱された心理的行動のひとつです。彼の実験によると、無作為に選んだ生徒を「将来有望な生徒」と小学校の教師に紹介したところ、一年後、無作為の選んだはずなのに、選ばれた子どもたちの成長が明らかに伸びていたのです。つまり、教師が期待して接した結果、本当に成績が上がったというのです。*3よりまとめた
人から期待をされると、その期待に沿って成果を出したいと誰もが思うでしょう。この心理的な行動のことを「ピグマリオン効果」というわけです。
「ピグマリオン効果」を引き出す具体的な表現例
褒めて相手への期待感を示すことで成長を促すことができる「ピグマリオン効果」。ここからは、「ピグマリオン効果」を引き出す具体的な表現をご紹介しましょう。
ポイントは、相手に否定的なフィードバックを伝えるだけでなく「期待している」と伝えることです。そうすれば、相手はあなたの期待に沿った成果を出してくれる可能性が高まり、その結果として相手の成長にもつながります。
本記事冒頭の例で考えてみましょう。
「この資料、全体的にわかりにくいよ」→
「この資料は、情報が網羅されてていいね。ただ、こんなふうに情報が多くなりそうなときは、読み手が理解しにくくなることもあるよね。もっと要点を簡潔にまとめてみて。読み手がすぐに理解できる構成にすると、もっと説得力が増していい資料になると思うよ。」
「今回のプレゼン、準備不足だったんじゃない?」→
「今回のプレゼン、基本の部分の説明はよかったよ。ただ、質問のところへの回答でちょっとトーンダウンしちゃってもったいなかったね。次は質問が来たときまで想定した準備までやってみるとさらによくなりそう。次に向けて一緒に準備してみる? きっと次はうまくできるよ。」
どちらも具体的な改善点を示しつつ、「いい資料になる」「きっと次はうまくできる」と期待を表し「ピグマリオン効果」を引き出しています。
「ピグマリオン効果」を引き出すフレーズとしては、以下のようなものもあります。否定的なフィードバックにこのような表現を続ければ、相手への期待を的確に示すことができるでしょう。
- あなたならきっとこのプロジェクトを成功に導けると信じているよ。
- この分野ではあなたの能力が特に活きると思うから、期待しているよ。
- いつも期待以上の成果を出してくれるから、今回も楽しみにしているね。
- あなたの強みを活かせば、チーム全体にいい影響を与えられると思うよ。
- 難しいタスクだけど、あなたなら乗り越えられると確信しているよ。
- これまでの実績を見ていると、今回もすばらしい成果を出してくれそうだね。
- 今回の案件では、あなたの判断力が重要だから任せたいと思っているよ。
- あなたの成長ぶりを見ていると、今後がますます楽しみだよ。
- あなたならこの仕事をよりよいかたちにできる方法を見つけてくれると思う。
- チーム全員が期待しているから、引き続きよろしく頼むね。
こうした「ピグマリオン効果」に着目し、課題を示したあとに期待感も表現することで、相手の成長を促すフィードバックにすることができるのです。
「ピグマリオン効果」を引き出すために相手を観察する
フィードバックをするときに大切なのは、相手をよく観察することです。前出の斎藤氏も「相手を褒めるためには、しっかりと相手を観察するということが大前提」だとし、「見てもいないのに褒めたら、それは嘘になり、その嘘は相手に伝わり、逆に不信感を持たれてしまう原因とな」ると述べています。*2
人間誰しも自分をよく見てくれている相手の言葉は素直に受け取りたくなるものです。普段から部下や後輩の働きぶりをよく観察したうえでフィードバックをすることで、相手の成長につながるでしょう。
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否定的なフィードバックは、するほうもされるほうも気が滅入るもの。否定ばかりで関係を破綻させてしまうよりも、課題や目標を共有し、成長を期待することで生まれる「ピグマリオン効果」に着目して適切なフィードバックをすることを心がけていきましょう。
※引用の太字は編集部が施した
*1 ダイヤモンド・オンライン|部下のためになって、自分の評判も上げる! 上司から部下への正しい「ダメ出し」のやり方とは?
*2 セゾンのくらし大研究|上手な「褒めテク」
*3 グロービス経営大学院|ピグマリオン効果
STUDY HACKER 編集部
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