
「学生時代は没頭できたのに、いまは数ページ読んだだけで集中が途切れてしまう」
「文字は目で追っているのに、内容がまったく頭に入ってこない」
こうしたお悩みの原因は、やる気や知性の衰えではなく脳の疲れです。大量の情報を処理し続ける脳は、新しい本に挑む余力を失っています。
そこで今回ご紹介する解決策が「戻れる1冊」というアプローチです。本記事では、すでに内容を知っていて心置きなく戻れる愛読書を、こう呼びます。
- 大人が本を読めなくなる理由
- 「知らない本」より「知ってる本」。「戻れる1冊」が脳の負担を減らす
- 最後まで読み切れる「本の選び方」4つの条件
- 愛読書から新規本へ! ハードルを下げる「3ステップ」のバトンパス
- よくある質問(FAQ)
大人が本を読めなくなる理由
日中はメールやチャット対応、会議での複数議題の処理に追われる。退勤後の疲れ切った脳には、設定や人物名を覚えるキャパシティが残っていません。
医学博士で脳科学に詳しい佐藤洋平氏は、コラムのなかで「精神疲労は頭の使い過ぎから来る疲労であり、一時的なものと慢性的なものがある」と解説しています。メディアでよく耳にする"脳疲労”は、学術的にはこの精神疲労と呼ばれるもの。集中力の障害や思考の遅さといった症状を伴うとされています。*1
数ページで集中が切れたり、内容が頭に入ってこなかったりするのも、根性のせいではなく、仕事で酷使した脳の一時的な機能低下によるものです。
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「知らない本」より「知ってる本」。「戻れる1冊」が脳の負担を減らす
そこでおすすめしたいのが「戻れる1冊」です。結末も登場人物も頭に入っている、内容を熟知した既読本を選びましょう。
クリエイト速読スクール二代目代表の劉智秀氏は、コラムのなかで「新しいことを学ぶ際には、スキーマを持たない状態からのスタートとなるため、大きなストレスがかかります」と述べています。*2
スキーマとは、脳内にある知識の枠組みのこと。新しい本は魅力的な反面、この枠組みがまだありません。疲れた脳には、既読本のスキーマを活用するのが有効です。
さらに、米国内科専門医・感染症専門医の安川康介氏も、効果的な学習法に関する解説のなかで、同じ文章を2回目に読むときのほうが文章に慣れてすらすら読める、と指摘しています。*3
これは再読の学習効果を検証する文脈での指摘ですが、脳がすでに展開を把握しているぶん処理の負荷が下がる点は、読書にも当てはまります。
整理すると、「戻れる1冊」はスキーマがあるため理解の負荷が少なく、文章に慣れているためすらすら読み進められます。だからこそ「戻れる1冊」なら、集中力が続かない日でも軽い負荷で読めるのです。

最後まで読み切れる「本の選び方」4つの条件
「戻れる1冊」の効果を得るには、本選びが重要です。選ぶ基準は、次の4つです。
具体的には、1話完結の短編集や、思い出深い長編小説が候補です。学生時代の教科書や実用書も、なじみ深ければ「戻れる1冊」になり得ます。
愛読書から新規本へ! ハードルを下げる「3ステップ」のバトンパス
とはいえ、「戻れる1冊」を繰り返すだけでは、読書習慣として定着しにくいものです。リズムがつかめてきたら、少しずつ新しい本へ足を伸ばしましょう。
グロービス経営大学院研究科長の田久保善彦氏は、習慣化に関するコラムのなかで「最初は小さな目標に設定して、習慣化してきたら、少しずつストレッチした目標に設定し直す」ことを勧めています。*4
ここでいう「目標の大きさ」を、読書では「本の難易度」と捉えるとどうでしょうか。「戻れる1冊」を足がかりに、「もう少し読めそうだ」と感じたら「知っている」という支えを少しずつ手放し、負荷を段階的に上げていくイメージです。
具体的には、次の3ステップで進めてみましょう。
1ページすら読み切れない筆者がやってみた結果
学生時代は暇さえあれば本を開いていた筆者も、いまは1ページの途中で集中が切れることがあります。読みたい本は増え、積読は溜まる一方でした。
そこで選んだ「戻れる1冊」が、村田沙耶香氏の短編集『生命式』。人によっては強烈なテーマ設定ですが、簡潔な文章がむしろ自分にはしっくりきています。

※この画像は筆者が作成した
実際に読んでみると、「そうそう、こんな話だった」という安心感からページが進みました。一字一句追わなくても大まかなストーリーを覚えているため、サクサク読めました。この成功体験で、「集中力が続かない」「頭に入らない」悩みは解消されました。
次に、負荷を段階的に上げるための新規本も3冊用意しました。同じ著者の未読作品『地球星人』、ジャンルが同じ古谷田奈月氏の『リリース』、そしてまったく別のジャンルとして藤村シシン氏の『古代ギリシャのリアル』です。

※この画像は筆者が作成した
後日、まずは同じ著者の未読作品『地球星人』に挑戦。負荷や集中の途切れを感じず読み進められました。
こうして「戻れる1冊」と段階別の新規本を、すぐ手に取れる場所に常備。新規本がはかどらない日は「戻れる1冊」に戻る、を繰り返すうちに、短時間ながらも毎日読書ができるようになりました。脳の疲れ具合の判断は難しいので、その日の気分で選んで構いません。
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読書が続かないのは、意志の弱さではなく脳の疲労が原因です。「戻れる1冊」で負荷を減らし、少しずつ新しい本へバトンを渡していく。それが、読書習慣を無理なく取り戻す近道です。まずは今日、読み慣れた1冊を手に取ってみませんか。
よくある質問(FAQ)
「戻れる1冊」に決まったジャンルはありますか?
「戻れる1冊」ばかり読み続けても大丈夫ですか?
忙しくて「戻れる1冊」を読む時間も取れません。どうすればいいですか?
「戻れる1冊」を読んでいるだけで、読解力は伸びますか?
藤真唯
大学では日本古典文学を専攻。現在も古典文学や近代文学を読み勉強中。効率のよい学び方にも関心が高く、日々情報収集に努めている。ライターとしては、仕事術・コミュニケーション術に関する執筆経験が豊富。丁寧なリサーチに基づいて分かりやすく伝えることを得意とする。