
「頑張ります」「ちゃんとやります」「なる早でお願いします」「クオリティ高く」
職場で日常的に飛び交うこれらの言葉。じつはこれらの曖昧語こそが、仕事の非効率を生む最大の原因となっています。
興味深いことに、成果を出す人ほど、曖昧語を「再定義」してから、具体的な行動に落とし込んでいきます。この差が、長期的なキャリアの違いとなって現れるのです。
本記事では、「言葉を具体的な行動に変換する力」をご紹介します。
曖昧な言葉はなぜ「認知のズレ」を生むのか
そもそも、なぜ「同じ言葉なのに、人によって解釈が違う」のでしょうか?
その答えは、認知心理学にあります。認知心理学者ローレンス・バーサロー(Barsalou, 1983)は、人は文脈や目的に応じて"特定のカテゴリー"を形成し、概念を柔軟に再構築すると指摘しています。*1
つまり、言葉の意味は状況や経験によって揺らぐというわけです。曖昧な言葉は、その人にとって「頭のなかのイメージ」でしかありません。
たとえば「早めに提出してください」という指示を考えてみましょう。
・ 上司の頭のなかでは、「今日中、遅くても明日の朝」
・ 部下の頭のなかでは、「明日の夕方には間に合わせる」
・ 同僚の頭のなかでは、「3日以内くらい」
このような認知のズレが放置されると、期待と結果のすれ違いが発生し、結果的に仕事全体の効率を大きく下げてしまいます。では、このズレを減らすにはどうすればいいのでしょうか?

仕事ができる人は「再定義」でズレを減らす
曖昧さをなくす最初の一歩は、「意味を確認すること」です。実際、モリソンの研究では、新人が上司に「なにが求められているか」を積極的に尋ねるほど、パフォーマンスが高いことが示されています。*2
たとえば、上司から「ちゃんとやっておいて」と言われたら、「つまり、この基準を満たすことを指していますか?」と確認してみる。このひと言で、曖昧な指示が「行動レベル」に翻訳され、双方のズレが解消されます。
仕事ができる人たちは「早めに」というのは、いつまでのことでしょうか? と確認を必ず行います。彼らの武器は「再定義力」。つまり、曖昧な言葉を具体的な行動に変換して、認知のズレを先回りして潰す力なのです。

「曖昧語」を行動に変える4ステップ
再定義力は、トレーニングで誰でも磨けます。ここでは、今日から使える4つのステップを紹介します。
曖昧さを減らす4ステップ
- Step1 曖昧語を見つける| 「頑張る」「しっかり」など、曖昧ワードを意識的にキャッチします。
- Step2 問い直す| 「具体的な期限はいつでしょうか?」と聞き返す。上司だけでなく、自分の思考にも質問を投げかけます。
- Step3 再定義する| 「クオリティ高く」=「誤字ゼロ+図表1枚追加」など、自分の具体的なタスクに落とし込みます。
- Step4 共有する| 自分が再定義した内容を相手に簡潔に確認。「この方向で合っていますか?」とすり合わせを習慣化します。
こうした言葉を再定義する習慣は、コミュニケーションの精度を上げるだけでなく、あなた自身の思考の明晰さと行動力を高めてくれるのです。
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「再定義力」がチームを強くする
個人の再定義力が高いチームは、驚くほど連携がスムーズです。それは、心理的安全性と密接に関係しています。Googleの研究では、心理的安全性の高いチームほど、意見の違いをオープンに扱い、曖昧な点を率直に確認し合う傾向があることが明らかになりました。*3
「すぐにって、期限はありますか?」「クオリティ高くって、なにか基準はありますか?」
このような小さな擦り合わせを日常的に行うことで、「なにをどうすればいいか」が明確になり、メンバーが安心して意見を出せるのです。逆に「察してくれ」「空気を読め」で進むチームほど、パフォーマンスが低下します。言葉を正しく共有できる組織ほど、信頼も成果も高まるのです。
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自分のなかで再定義できる人は成果を出す
再定義は、他者との会話だけではありません。自分のなかで曖昧な言葉を行動に変えることも、成果を左右します。
たとえば、
・「頑張る」 → 「明日17時までに報告資料を2本仕上げる」
・「質を上げる」 → 「グラフを1枚追加し、誤字脱字ゼロで納品する」
このように再定義するだけで、やるべき行動が明確になります。これができる人ほど、自己管理力・実行力の両面で成果を出しやすくなるのです。
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今日から、「曖昧語」を放置せず、自分なりの言葉で定義してみましょう。その瞬間から、あなたの仕事の精度とスピードは確実に変わります。そして言葉を再定義する力は、誰もが身につけることができる、最も確実な成長戦略なのです。
*1 Barsalou, L. W.|Ad hoc categories. Memory & Cognition, 11(3), 211–227.
*2 Morrison, E. W.|Newcomer information seeking: Exploring types, modes, sources, and outcomes. Academy of Management Journal, 36(3), 557–589.
*3 Google|Project Aristotle: Understanding Team Effectiveness.
橋本麻理香
大学では経営学を専攻。13年間の演劇経験から非言語コミュニケーションの知見があり、仕事での信頼関係の構築に役立てている。思考法や勉強法への関心が高く、最近はシステム思考を取り入れ、多角的な視点で仕事や勉強における課題を根本から解決している。